
748.03 山本想太郎設計アトリエによる、東京・立川市の住宅「紙の家」

山本想太郎設計アトリエが改修を手掛けた、東京・立川市の住宅「紙の家」です。
既存建築のリノベーションにおいて、そこに新しい要素と、古い要素が並存することは必然です。しかしそのこと自体に寄り添って建築表現に価値を与えることは、リノベーションがまだ特殊な行為である時代においてのみ有効な刺激であるともいえます。
リノベーションがこれから日本で一般化していく段階においては、新築の模倣でも、ノスタルジーへの訴求でも、新旧の対比でもない、新しい空間価値が表現されていかなければ、それは文化的な行為とはみなされなくなってしまうでしょう。本計画はそこにひとつの提案を示そうと試みたものです。
その表現の中心となった「和紙調塗料(ハーモフィブコートTM)」は、この場にある新旧の建築要素の色や素材感を残しつつ、そのすべてに立体的な和紙繊維をオーバーレイするものです。この視覚的にも触覚的にもインパクトと柔らかさを併せもった塗料を重ねることによって、リノベーション空間に錯綜しているすべての空間・時間の文脈を等しく相対化し、アーティスティクな刺激と柔らかな素材に包まれる緩さを同時に感覚できる生活空間を生み出すことを目指しました。
変形によって配光を調整するアート照明もまた、この空間の繊細な印象バランスを調整するためにデザインされたものです。
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改修前の写真と図面。
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以下、建築家によるテキストです。
①減築リノベーション
東京郊外に建つ築55年の木造平屋建て住宅のリノベーションです。南側の庭が狭く屋内外ともに日当たりが悪くなっていた状態を改善するため、まず建築の南側の約2割を減築して庭園を拡張することを提案しました。そしてそれによって採り入れた外光を家全体に行きわたらせるために、メインの住空間を一体の連続空間としました。
屋根の軽量化と壁の補強により、高度な耐震性能(上部構造評点=1.66)も実現しました。
②大天井・アート照明
玄関からキッチンまで部屋をこえて居住空間全体を覆うように作られた折板ヴォールト天井が、南側から入る外光を家全体に行きわたらせています。
また天井にはstudio aluminaがこの空間のために製作したアート照明が並び、夜の光を演出し、各空間の雰囲気を繊細に調整することができます。直管型LEDランプの配光の偏りを利用しており、アームを動かすことで通常照明から間接照明のようにまで配光が変化し、和紙調塗料(下記)のテクスチャーの印象もそれにしたがってダイナミックに変わります。
③和紙調塗料
設計者が塗料メーカー(日本ペイントホールディングス)に開発協力している「和紙調塗料」(和紙繊維を混入した透明塗料)を、世界ではじめて本格的に実地使用しました。これが竹小舞の土塗壁や古い木材といった強い素材感のある旧要素と、新設する壁・天井・建具といった新要素のすべてを半透明に包み込んで、テクスチャーの調和と、柔らかな光の拡散を実現しています。
「新しいものvs古いもの」をこえて
既存建築のリノベーションにおいて、そこに新しい要素と、古い要素が並存することは必然です。しかしそのこと自体に寄り添って建築表現に価値を与えることは、リノベーションがまだ特殊な行為である時代においてのみ有効な刺激であるともいえます。
リノベーションがこれから日本で一般化していく段階においては、新築の模倣でも、ノスタルジーへの訴求でも、新旧の対比でもない、新しい空間価値が表現されていかなければ、それは文化的な行為とはみなされなくなってしまうでしょう。本計画はそこにひとつの提案を示そうと試みたものです。
その表現の中心となった「和紙調塗料」は、この場にある新旧の建築要素の色や素材感を残しつつ、そのすべてに立体的な和紙繊維をオーバーレイするものです。この視覚的にも触覚的にもインパクトと柔らかさを併せもった塗料を重ねることによって、リノベーション空間に錯綜しているすべての空間・時間の文脈を等しく相対化し、アーティスティクな刺激と柔らかな素材に包まれる緩さを同時に感覚できる生活空間を生み出すことを目指しました。
変形によって配光を調整するアート照明もまた、この空間の繊細な印象バランスを調整するためにデザインされたものです。
■建築概要
敷地・計画概要
敷地:東京都立川市
用途地域:第一種中高層住居専用地域(60/200/第一種高度+20M地区)
+第一種低層住居専用地域(40/80/第一種高度)、準防火地域
敷地面積:224.35㎡(67.86坪)
既存建物:木造平屋建て、100.09㎡(30.28坪) (竣工年1964年)
減築後面積:80.32㎡(24.30坪)
高さ:最高高さ 4.56m 軒高さ 3.31m
改修内容:既存建物の減築、間仕切・内装の改修、外壁の改修・再塗装、
屋根の形状変更・葺替え(瓦→鋼鈑)、造園・外構、設備更新
工期:設計 2018年1月~2018年12月
工事 2019年2月~2019年7月(竣工)
関係者概要
設計:山本想太郎設計アトリエ(担当:山本想太郎)
施工:永井工務店、日本ペイントホールディングス(和紙調塗装)
照明デザイン:studio alumina
造園デザイン:村上素子
主な仕上
外部
屋根:鋼板平葺き(セキノ興産 ダンネツトップS&S耐磨カラーGL)
外壁(新設):モルタル下地用構造合板(ラスカット)下地、モルタル塗り。ウレタン樹脂塗装(N-40色)
テラス:施釉瓦小口敷き(既存屋根の瓦を再利用)
内部
壁・天井(新設):石膏ボード下地、壁紙(リリカラLW2235)貼の上、「和紙調塗料」塗り
既存壁・柱・梁:シーラー2回塗の上、「和紙調塗料」塗り
床:フローリング(ウッズ・マイスター WM-804)
天然リノリウム貼(ABC商会 アームストロング 125-003、125-075)
窓サッシ:Low-E複合サッシ(LIXIL サーモスⅡ-H)
ブラインド:ダブルロールスクリーン(タチカワ ラルクシールド)
主な設備製品
キッチン :ノーリツ システムキッチン レシピアプラス
トイレ:TOTO CS597BMS#NW1
システムバス:TOTO サザナHS Sタイプ
洗面器:大洋金物株式会社 ADF70-2602 +混合栓 FHT73-1906(GROHE Essence)
鏡棚:サンワカンパニー ホテルミラーW750/ KT03919N
ダウンライト:パナソニック LGB76310 LE1、LGB73520 LE1
インターホン:パナソニック VL-SV38XL
スイッチ類:パナソニック アドバンス・シリーズ ほたるスイッチ