SHARE 住吉正文/ファロ・デザインによる”もの差しの椅子とcbf”
住吉正文/ファロ・デザインによる”もの差しの椅子とcbf”です。
この作品に出会ったのは、PROTOTYPE EXHIBITION02であった。住吉による展示は、木製の椅子と、その椅子から発展するバリエーションを示したドローイングというシンプルなものだった。非常にシンプルだが頭の中にずっと残るインパクトがこの作品にはあった。
図録にあるコンセプト文を読むと、この椅子は、”バリエーションの基準となる「もの差し」”だという。建築の歴史を見てみると、様々な建築家が自分の建築を作るためのシステムを開発している。最も有名なものはコルビュジエのモデュロールだろう。現代で言うならペーター・メルクリも自身の比例システムをもとに設計を行っている。
これらのシステムが古典的な比例をベースとしているのに対し、住吉による”もの差しの椅子とcbf”は自身の身体感覚を取り入れた方法論だという。この自身の身体感覚をシステム化するという点で”もの差しの椅子とcbf”は新しく非常に興味深い。
architecturephoto.netではこの方法論について、住吉自身に解説をしてもらった。
以下、住吉正文/ファロ・デザインによる解説文です。
これは、「もの差しの椅子」と「cbf」をつかった家具デザインのシステムです。
以前に設計した木製のダイニングテーブルが一連の作品のきっかけとなっています。
そのダイニングテーブルは、控えめでシンプルな形状のもので、木肌のもつ素朴な質感を売りとし、また建築物のように、柱・梁・床という3種類の部材の組合せでつくられています。
ダイニングテーブルの写真
このテーブルを設計しているとき、気づいたことがありました。
同じ組合せでも部材の断面寸法や厚みを変えると、その印象が大きく変化するのです。
部材の寸法が少しずつ変わるドローイング
そこで、この組合せをひとつのルールとして「cbf(コラム・ビーム・フロア)」と名付け、このルールでつくる家具の可能性を探り始めました。
さらに、柱・梁・床の数量や配置規則を変えるというルールを加え、バリエーション豊かな家具を生み出していきます。
これ以上ルールが複雑化するのを避けるため、前述の断面寸法や厚みは統一することにします。
棚のような家具、椅子のような家具のアイデアがいくつも生まれ、それらは血縁家族のようなつながりを持っているようにもみえます。
椅子を単位として展開させた色々な家具のドローイング
ただ、このようなアイデアは、際限なく生み出し続けることが可能なので、そこには終わりが無く、収拾がつきません。
それらを取捨選択するためには、ドローイングや模型だけではなく、実物が必要であると考えるようになりました。
そこでまずは、基本的な単位となる椅子を実際に制作しました。
この椅子に対する身体感覚をよりどころにして、様々なドローイングを具体的な「もの」としてイメージをつかめるようにしてゆくのです。
この椅子を「もの差しの椅子」と名付けました。
「cbf」というルールで、無数の複雑なかたちを生み出し、そのかたちを「もの差しの椅子」という基本形で具体的に把握する。その作業を行ったり来たりすることで、かたちに対する実感を抱きながら、今までにない家具のかたちを探っていきたいと考えています。
作品名:もの差しの椅子
用途 :椅子
サイズ:W380D420H740
素材 :ナラ無垢材、オイル仕上げ
制作 :ニュウファニチャーワークス
cbfでつくる家具のドローイング
cbfでつくる家具のドローイング詳細
□プロフィール
住吉正文/ファロ・デザイン
1973年東京都生まれ。東京芸術大学美術学部建築科を卒業後、建築家ユニットドミトリーアーキテクツを設立、現事務所の前身ダイブを経て、2003年に森政巳、野本陽、藤枝隆介とファロ・デザイン有限会社一級建築士事務所を設立。新築や改修、住宅や店舗などジャンルを問わず設計活動を行っている。
ナショップライティングアワード’07入賞。第7回リフォーム&リニューアル設計アイデアコンテスト優秀賞。
□連絡先
http://www.faro-design.co.jp/
info@faro-design.co.jp