SHARE 吉田周一郎建築設計による”下館・時の蔵トイレ”
photo©齋藤さだむ
吉田周一郎建築設計が設計した茨城県筑西市の”下館・時の蔵トイレ”です。
以下、建築家によるテキストです。
茨城県筑西市には大正から昭和にかけての石蔵が所々に残され、往時をしのばせる風景の断片が開発により失われた市街地に埋もれている。その一つの取り壊しを免れた蔵を、市民団体である時の会が「時の蔵」と名づけ、地域固有の歴史文化遺産を掘り起こす活動の拠点として活用してきた。当初から利用上必要不可欠なトイレが石蔵になく、長い間設置を望む声が上っていた。2008年秋、蔵に隣接した谷間のような敷地にトイレを設置することとなり、茨城県建築士会筑西支部の主催により設計コンペが行われ、当案が採用された。
石蔵付設のトイレという機能性を超えたデザインとは何かを考えた。トイレブース上部が一体の細長く天井の高い空間で、そこに3方向から光が差し込む。トイレでくつろいでふと上に眼を向けた時に、蔵の外壁と空を切り取られる風景が現れることを意図した。また敷地は大谷石の産地に近く、周辺の蔵の壁材として多く使われ、当敷地にも隣地塀として残っており、大谷石をそのままトイレ内壁の一部とした。この床面積わずか2.6坪のトイレは、街の持つ歴史や多くの関係者の方々の協力によって実現できた。過去から刻まれてきた時を引き継ぎ、現在から未来へと時を刻む建築をつくることで、失われようとする地域固有の風景を守るだけにとどまらず、新たな風景を創出するだろう。そして時の蔵とトイレがいつしか風景の一部となって静かに佇み続けることを願っている。
■建築概要
住所:茨城県筑西市甲939
用途:トイレ
構造規模:木造1階
床面積:8.64㎡
最高高さ:4.63m
竣工:2009年5月
事業主:下館・時の会
設計:吉田周一郎建築設計
構造設計協力:高木次郎
施工:郡司建築工業所
写真:齋藤さだむ
主要仕上げ
屋根:ガルバリウム鋼板 縦はぜ葺
外壁:左官塗り(活性炭混ぜ)
床:モルタルこて押さえ
壁:漆喰塗り
天井:構造用合板 AEP塗