SHARE “建築と今” / no.0006「長坂常」
「建築と今」は、2007年のサイト開設時より、常に建築の「今」に注目し続けてきたメディアarchitecturephoto®が考案したプロジェクトです。様々な分野の建築関係者の皆さんに、3つの「今」考えていることを伺いご紹介していきます。それは同時代を生きる我々にとって貴重な学びになるのは勿論、アーカイブされていく内容は歴史となりその時代性や社会性をも映す貴重な資料にもなるはずです。
長坂常(ながさか じょう)
スキーマ建築計画代表。1998年東京藝術大学卒業後にスタジオを立ち上げ、現在は北参道にオフィスを構える。家具から建築、そして町づくりまでスケールも様々、そしてジャンルも幅広く、住宅からカフェ、ショップ、ホテル、銭湯などなどを手掛ける。どのサイズにおいても1/1を意識し、素材から探求し設計を行い、国内外で活動の場を広げる。日常にあるもの、既存の環境のなかから新しい視点や価値観を見出し「引き算」「誤用」「知の更新」「見えない開発」「半建築」など独特な考え方を提示し、独自の建築家像を打ち立てる。
代表作Sayama Flat /HANARE / FLATTABLE/ ColoRing / BLUEBOTTLE COFFEE /桑原商店/お米や/ DESCENTE BLANC / HAY /東京都現代美術館サイン什器・家具など
URL:http://schemata.jp/
今、手掛けている「仕事」を通して考えていることを教えてください。
「見えない開発」
韓国チェジュ島のタプトンという昔栄え、今はだいぶ下火になっていたエリアに D&DEPARTMENTやFreitag、creamなどARARIO museumを中心とした施設の、一棟一棟を改修している時のこと。
このまとまったエリアの計画は、いわゆる開発にあたるのだろうが、印象として“ズレ”を感じ、そのずれを埋める言葉を模索した時に思いついた言葉が、この「見えない開発」でした。
いわゆる六本木などの開発は、新旧の明快な境界が出ますが、このチェジュでの開発は外観ではさほど変化がなく、中に入らないと変化に気づきにくい。
そして境界が曖昧な分、どこまで続いているのかわかりにくく、不鮮明でその見えない境界の先に期待が生まれる。
その期待の目が街を育てると思っています。
引き続きそのエリアの開発に関わらせてもらっていますが、計画前には歩いている人もまばらだったあの街が、どう変わるのか楽しみです。
春には一部完成し、営業を開始しながらもコロナの影響で見に行くことができていないので、早く行きたいと思っています。
そして、それに近い計画が札幌でも始まろうとしています。見えない開発_札幌編。
今、読んでいる「文章」とそこから感じていることを教えてください。
『風呂とエクスタシー 入浴の文化人類学』(吉田集而 著 平凡社)
最近、黄金湯というサウナ付き銭湯を設計し、オープンさせました。
元々旅先などで銭湯に入るのが好きなことに加え、自身でも手掛けたことで、いろいろと風呂のことを聞かれることが増え、にわか仕込みでも勉強しようと思い慌てて買って読んだ本です。
中身は風呂とサウナの起源を辿る本で、古代ローマの富の象徴である大浴場、心身の清浄・鍛錬のためのギリシャのギムナシウム、民族アイデンでティティとしてのフィンランドサウナ、苦行・儀式と組み合わせたアメリカンインディアンの熱気浴、仏教と共にインド・中国・朝鮮・日本と伝わった風呂。
それが日本国内で勝手に進化し世界に類のない熱湯浴文化を生み出し、全国に普及した銭湯文化など、風呂に様々な意味を見出し、様々な風呂文化が世界に生み出された歴史など、だいぶ勉強になりました。
また、サウナと風呂の起源は同じで、浴室を使用する風俗店は銭湯から派生してできたものだという事実。
そして、西洋人が公衆浴場を馴染みがないのはキリスト教と関係しているんだとか。なかなか面白い。
やはり日本が風呂文化大国であることも同時に痛感し、より温泉・銭湯・サウナなどを介してまちづくりできたら良いのにと思いました。
今、印象に残っている「作品」とその理由を教えてください。
「内藤商店のたわし」
八の字たわし。
コロナ禍で、作品を見に行く機会もだいぶ減っているのですが、作者不在の民芸的なもので、最近感心したものづくりとして、この八の字たわしがあります。
もっと具体的に言うと、内藤商店の八の字にねじった後に、凧糸みたいなもので簡単に結んでできているたわしが、よりかっこいい。
八の字に絞り、硬くし、その外周をギュッと凧糸で結ぶ。
簡単な手つきで、そして作られる手順が全て手に取るほどわかるところが好きです。