SHARE 青柳綾夏 / アオヤギデザイン+青柳創による、岐阜の店舗兼住宅「飛騨高山の土蔵のリノベーション NIM」。築約130年の土蔵を改修。土蔵の“独特の空気感”を尊重する建築を求め、2つの用途を隔てる新設の“壁”で内装を成立させる設計を志向。壁の配置と素材で其々の機能要求に応え既存空間の特質も強調
Warning: array_reverse() expects parameter 1 to be array, boolean given in /home/xb792403/architecturephoto.net/public_html/wp/wp-content/themes/apn/functions/theme_functions.php on line 1261
Warning: Invalid argument supplied for foreach() in /home/xb792403/architecturephoto.net/public_html/wp/wp-content/themes/apn/functions/theme_functions.php on line 1263
青柳綾夏 / アオヤギデザイン+青柳創が設計した、岐阜の店舗兼住宅「飛騨高山の土蔵のリノベーション NIM」です。
築約130年の土蔵を改修する計画です。建築家は、土蔵の“独特の空気感”を尊重する建築を求め、2つの用途を隔てる新設の“壁”で内装を成立させる設計を志向しました。そして、壁の配置と素材で其々の機能要求に応え既存空間の特質を強調する事も意図されました。店舗の公式サイトはこちら。
飛騨高山の伝統的な町並みを残す大新町に、明治期から残る築約130年の土蔵を、フレンチレストラン「NIM」と、オーナーシェフとその家族の住まいに二分するリノベーションの計画である。
土蔵は高山市が定める伝統的建造物群保存地区に位置するため、外観にはほとんど手を付けられないのだが、施主からはこの制約を逆手にとって、外観からは想像も付かないような世界観をもった店舗インテリアにしてほしいとの依頼を受けた。
何の先入観も設計のアイデアもないまま訪れた初見の既存土蔵は、間口4間、桁行8間と土蔵としてはかなり大きく、立派な丸太による棟木と交錯する2本の梁による高山らしい武骨な架構が印象的で、まずは空間のスケールと架構の軸組、土蔵の暗がりが醸し出す独特の空気感を尊重すべきだと感じた。
一方でこの空間特性を壊さずに壁を挿入して用途を二分することの難しさも感じた。そして予算が限られているために手を加える範囲を限定したい事情もあり、2つの用途を隔てるための壁を挿入する行為自体を設計のテーマにし、挿入された壁のみで店舗のインテリアを成立させようと考えるに至った。
まずは大まかな壁配置のきっかけとして、東西方向に長い空間特性を活かすことと、限られた既存の窓位置の制約の中で極力住宅部分に採光や通風をもたらすために、2階は空間を南北に二分することにした。
1階も同様の壁位置にして上下階を同一平面上に重ねてしまうと、下階の厨房から上階の客席の様子が把握しづらくなってしまうため、1階は上階とは直交する方向に壁を設けて空間を東西に二分することで、上下階の空間がL字状に一つながりになるようにした。
反転した住宅側も同様、L字状に各部屋が連続して家族の気配がお互いに伝わるよう意識した。
以下の写真はクリックで拡大します
以下、建築家によるテキストです。
飛騨高山の伝統的な町並みを残す大新町に、明治期から残る築約130年の土蔵を、フレンチレストラン「NIM」と、オーナーシェフとその家族の住まいに二分するリノベーションの計画である。
土蔵は高山市が定める伝統的建造物群保存地区に位置するため、外観にはほとんど手を付けられないのだが、施主からはこの制約を逆手にとって、外観からは想像も付かないような世界観をもった店舗インテリアにしてほしいとの依頼を受けた。
何の先入観も設計のアイデアもないまま訪れた初見の既存土蔵は、間口4間、桁行8間と土蔵としてはかなり大きく、立派な丸太による棟木と交錯する2本の梁による高山らしい武骨な架構が印象的で、まずは空間のスケールと架構の軸組、土蔵の暗がりが醸し出す独特の空気感を尊重すべきだと感じた。
一方でこの空間特性を壊さずに壁を挿入して用途を二分することの難しさも感じた。そして予算が限られているために手を加える範囲を限定したい事情もあり、2つの用途を隔てるための壁を挿入する行為自体を設計のテーマにし、挿入された壁のみで店舗のインテリアを成立させようと考えるに至った。
まずは大まかな壁配置のきっかけとして、東西方向に長い空間特性を活かすことと、限られた既存の窓位置の制約の中で極力住宅部分に採光や通風をもたらすために、2階は空間を南北に二分することにした。
1階も同様の壁位置にして上下階を同一平面上に重ねてしまうと、下階の厨房から上階の客席の様子が把握しづらくなってしまうため、1階は上階とは直交する方向に壁を設けて空間を東西に二分することで、上下階の空間がL字状に一つながりになるようにした。
反転した住宅側も同様、L字状に各部屋が連続して家族の気配がお互いに伝わるよう意識した。
大まかな壁配置を決定したのち、壁の存在が空間に作用する効果について考えた。
2階に挿入する壁はあえて棟木の芯からずらして配することで力強い架構の軸組を隠蔽することなく、むしろ強調することを意図した。また壁の一部は吹抜を介して下階に吊り下げ、薄い鉄板による吊り階段と合わせて浮遊感をもたせ、亡霊的に振る舞わせることで土蔵がもつ独特の空気感を浮かび上がらせることを意図した。
壁の芯ずれは、構造面では耐震要素でありつつも効きすぎない効果を得て、固さと柔かさを併せ持つ既存架構の特性を活かしながらも不足する耐震性能を補強している。壁は金属板を貼ることで、既存部分とのマテリアルのコントラストを明確にすることに加え、この鈍く反射する壁は用途を分けるために失われた片割れの空間を虚像として浮かび上がらせ、空間を完結させる「鏡」としても機能する。
壁を挿入する行為によって新たな空間を創造することは、明治期からの時の流れを空間内に留めながらも、生活と生業の拠点としての新たな命を空間内に吹き込むことであり、地場の食材を活かしながらも、まだ見ぬ料理の世界を創造しようとするシェフの想いを重ねた「鏡」なのである。
(青柳創+青柳綾夏)
構造設計のコンセプト
柔壁架構の挿入
土蔵は高い初期剛性と耐力を持つ厚い土壁で外周を囲われており、開口も少ないため一般的に高い耐震性能を持つとされている。本建物は昭和期の増築の際に1階の妻面に大きな開口が設けられ、耐震性能の低下が確認された。そのため、外壁からセットバックした位置に高耐力壁を設けて補強を行った。今回の改修により更に耐震性能を付加することを目的とし、2階には低剛性かつ高靭性の柔壁架構を挿入した。
柔壁架構の役割1: 小変形域での力の流れの保持
既存土壁架構は長期の鉛直荷重と幾度かの地震による水平荷重を受けて、架構内の力の流れが安定していると考えられる。中小地震に対して既存土壁架構は十分な耐力を持つため、新規壁架構はできるだけ既存の力の流れに影響を与えない低剛性のものとした。具体的には、桁行方向の壁は既存軸から外し、壁の端部を柱ではなく直交梁に載せた。壁が水平力を受けると梁が変形するため、見かけ上の剛性が低下する。また、梁間方向の壁は600mm以下の短い壁とし、壁が曲げ変形し易くするようにした。
柔壁架構の役割2:大変形域での脆性破壊の抑制
在来工法の壁で靭性が高いとされる構造用合板壁(釘の引き抜きによるエネルギー吸収が起こる)を用いた。壁を支える梁には終局時に大きな曲げモーメントが生じるため、鋼板による補強を施し梁の降伏耐力を向上させた。
(朝光拓也 / 朝光構造設計)
■建築概要
題名:飛騨高山の土蔵のリノベーション NIM
所在地:岐阜県高山市
主用途:レストラン、住宅
設計:青柳綾夏 / aoyagidesign、青柳創
構造設計:朝光拓也 / 朝光構造設計
作図協力:宮本啓
3Dモデル協力:佐野翼
空調計画協力:大浦理路
企画:大和紀瑛(NIM オーナーシェフ)
店舗サインロゴデザイン:大和雅延
施工:長都建設 担当/上町卓也、西智一、東良和
設備:高橋建設 担当/森下弘道
電気:柳瀬電気 担当/高原毅
鉄骨階段:スチールworkカトウ 担当/加藤英和
空調:エス・キューブ 担当/下垣津悟
厨房機器:岩崎製作所 担当/岩崎智陽
主体構造・構法 伝統木造(既存)、木造在来工法+一部鉄骨補強(改修部)
階数:地上2階
建築面積:135㎡
延床面積:202㎡
設計期間:2021年4月~2021年8月
工事期間:2021年10月~2022年2月
竣工:2022年2月
写真:藤井浩司 / TOREAL
種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) |
---|---|---|
内装・床 | 店舗1F床 | 既存土間 |
内装・床 | 店舗2F床 | 黒皮鉄板敷き |
内装・床 | 住宅床 | 長尺ビニルシート |
内装・壁 | 店舗壁 | 既存土壁漆喰塗り |
内装・壁 | 住宅壁 | ラワン合板OS |
内装・天井 | 店舗天井 | 既存野地板 |
内装・天井 | 住宅天井 | 既存野地板、梁型現し |
※企業様による建材情報についてのご意見や「PR」のご相談はこちらから
※この情報は弊サイトや設計者が建材の性能等を保証するものではありません