早坂直貴+斧田裕太 / 邸宅巣箱が設計した、神奈川・葉山町の住宅「ポジティブ・イミテーション」です。
海沿いの別荘地に計画されました。建築家は、イミテーション肯定での“豊かな建築体験”の創出を意識し、眺望確保の為の“仮想の崖”の上に“大開口の平家”を載せる構成を考案しました。また、模造品を“現代技術の結晶”として捉え“美点”を見出す事が意図されました。
我々はオーセンティックなことこそ正義であると疑いを持たない。
天然であることを称賛し、イミテーションを忌み嫌う。しかし類い稀なクオリティでつくられた模造品をみるとき、その背後にある高い技術力、製造者の企業努力が透けてみえて、むしろ感動することはないだろうか。
本物こそ美しいと感ずるべきだという正義感に反する感覚。その感覚に蓋をするのでなく、イミテーションを潔く肯定することで可能性を開き、いっそう豊かな建築体験を生み出すことができないかと日頃から考えていた。本作はその実践の一である。
敷地は初夏にオープンカーでドライブをするのにぴったりの海岸通りに位置する。その絶景を求めて海沿いに別荘が連なっているわけだが、それぞれのオーナーが思い描く別荘らしさは、北欧風、西欧風、和風とまちまちで、有象無象の建物が建ち並ぶ異様な風景に、逆説的な面白さがある。これほどイミテーションが自然発生している場所はないだろう。そのイミテーションの連なりの一端に、これを肯定する建築を試みたのである。
具体的な建築の構成に話を移そう。この敷地の絶対的価値は景色であるので、リビングからどれだけダイナミックなオーシャンビューを獲得できるか、ということが最重要命題であった。しかし問題は、致命的な高さに太い電線が走り、標準的な階高で2階建て住宅を建ててしまうと、その電線で海へと抜ける視線が遮られることだった。
そこでこの電線と同じ高さまで仮想の崖ボリュームを立ち上げて、その上に大開口の平家を載せるという構成とし、まるで崖上から眼下に海を見渡す体験を再現することを目指した。
以下の写真はクリックで拡大します
video©山根晋
以下、建築家によるテキストです。
イミテーションが肯定されるとき
我々はオーセンティックなことこそ正義であると疑いを持たない。
天然であることを称賛し、イミテーションを忌み嫌う。しかし類い稀なクオリティでつくられた模造品をみるとき、その背後にある高い技術力、製造者の企業努力が透けてみえて、むしろ感動することはないだろうか。
本物こそ美しいと感ずるべきだという正義感に反する感覚。その感覚に蓋をするのでなく、イミテーションを潔く肯定することで可能性を開き、いっそう豊かな建築体験を生み出すことができないかと日頃から考えていた。本作はその実践の一である。
敷地は初夏にオープンカーでドライブをするのにぴったりの海岸通りに位置する。その絶景を求めて海沿いに別荘が連なっているわけだが、それぞれのオーナーが思い描く別荘らしさは、北欧風、西欧風、和風とまちまちで、有象無象の建物が建ち並ぶ異様な風景に、逆説的な面白さがある。これほどイミテーションが自然発生している場所はないだろう。そのイミテーションの連なりの一端に、これを肯定する建築を試みたのである。
具体的な建築の構成に話を移そう。この敷地の絶対的価値は景色であるので、リビングからどれだけダイナミックなオーシャンビューを獲得できるか、ということが最重要命題であった。しかし問題は、致命的な高さに太い電線が走り、標準的な階高で2階建て住宅を建ててしまうと、その電線で海へと抜ける視線が遮られることだった。
そこでこの電線と同じ高さまで仮想の崖ボリュームを立ち上げて、その上に大開口の平家を載せるという構成とし、まるで崖上から眼下に海を見渡す体験を再現することを目指した。
この1階ボリュームは海岸通りの別荘街と地続きとなるイミテーションの崖である。この崖は実際には風呂、トイレ、収納などの裏方の生活機能が納められているが、外観は徹底的にクローズされ、まさにイミテーションらしくその中身は秘匿されている。一方でそのイミテーションの崖のうえには、生活の表方であるLDKを擁したオープンな平屋を載せ、その好対照をつくりだした。
また構造もこの考えを踏襲する。建物全体の主要構造は木造であるが、崖ボリュームはRC造のイミテーションとして、また平屋ボリュームは鉄骨造のイミテーションとしてみせている。そしてもちろん素材選定も同じ手つきで行った。無垢木デッキでなく人工樹脂デッキを、い草畳でなくボロンタタミを、天然石でなくプリントタイルを、と素材にも徹底的にイミテーションを用いている。このような人工素材はメンテナンス性に優れて、概して生活に利便性をもたらす。
このようにイミテーションは現代テクノロジーの結晶としてある種の美点を備え、現代人の生活は間違いなくイミテーションの上に成り立っている。現代建築も素直にその恩恵に預かってよいのではないのではないだろうか。
■建築概要
題名:ポジティブ・イミテーション
所在地:神奈川県葉山町
主用途:一戸建ての住宅
設計:邸宅巣箱 担当/早坂直貴
施工:出口建具店
構造:木造
階数:地上2階
敷地面積:130.35㎡
建築面積:90.78㎡
延床面積:153.56㎡
設計:2021年1月~2021年5月
工事:2021年5月~2022年3月
竣工:2022年3月
写真:長谷川健太