SHARE “セカンド・ネイチャー”展に関する吉岡徳仁へのQ&A
21_21 DESIGN SIGHTで開催されている吉岡徳仁ディレクション”セカンド・ネイチャー“展に関して行われた吉岡徳仁へのQ&Aを紹介する。
※このQ&Aは吉岡徳仁デザイン事務所より提供されたものです。
“セカンド・ネイチャー”展の吉岡徳仁の展示空間。
展示作品のひとつ”ヴィーナス ー 結晶の椅子”は、特別な成分の入った溶液をはった巨大な水槽の中で、ポリエステルファイバーに結晶が構造をつくり、それが成長する事で完成する。
吉岡の作品はこちらのページで見ることができます。
以下、吉岡へのQ&Aです。
■今回の展覧会のいきさつを教えて下さい。
人々の記憶の中の自然、そして自然の原理を取り入れたデザインを通して、自然の持つ力強さと根源的な美しさを改めて感じ、考える。デザインの未来に対し、この展覧会を通してそのような提案を試みます。
私は、今まで世界中で数多くのインスタレーションやプロダクトを発表してきました。
それを目にした人がそれぞれに経験した自然現象を私の作品に重ね、例えながら話してくれる事を不思議に感じていました。それが、自分のつくっているものが自然やその原理に近いという事に気がついた最初のきっかけです。
そこから改めて自然に目を向け、その美しさを感じる機会が多くなりました。そして今回21_21 DESIGN SIGHTから依頼をいただき、企画協力の方の協力のもと、私が考えたのは「セカンド・ネイチャー」です。これは単に自然をモチーフにした展覧会でも、自然素材を使った展覧会ではなく、人の想像を超え、不思議な強さを秘めた自然そのものに改めて目を向け、人の感情に訴えるデザインとはなにかを探る試みです。
■「セカンド•ネイチャー」とは何ですか。
「second nature — 第2の天性、習慣、習性など」
(「ジーニアス英和大辞典」小西友七、南出康世、大修館書店2001-2002)
本来second natureという言葉には上記のような意味があります。
しかしこの展覧会ではもう一つの要素として、未来のデザインに求められる自然の象徴、人々の記憶に眠る自然の姿を表すために「セカンド・ネイチャー」という言葉を使っています。
「セカンド・ネイチャー」展では、私がこれまでに行ってきた、自然界に存在するさまざまな原理をデザインに取り入れる試みや考え方を元に、私の他、ロス•ラブグローブ、カンパナ•ブラザーズをはじめとする8組のクリエイターの作品を展示します。更に、空間全体を包む雲のようなインスタレーションによる実験的な提案を通し、新たな第2の自然「セカンド・ネイチャー」をつくりだします。
■環境問題やエコロジーとの関係性は?
自然破壊など多くの問題が深刻化している近年、ゴミや環境に対する個々の意識の高さを感じます。企業の意識も同様に変わってきています。食品から車、そしてエネルギーまで、私たちを取り巻く多くのものが長い歴史の中で変化を遂げる時期にさしかかっているようにも見受けられます。
そんな中でデザインにももっとできる事があるのではないかという思いがありました。地球の美しさを再認識する事も環境問題へのアプローチになるのではないかと感じています。
今回の展覧会を通して、少しでも地球に対する意識を高める事、もしくはその一端を担うことができれば幸いです。
■出展作家さんはどなたですか?またその方たちを選んだ理由、基準を教えて下さい
私の他に、ロス•ラブグローブ、カンパナ•ブラザーズ、そして東信、森山開次×串田壮史、安部典子、片桐飛鳥、中川幸夫の8組です。
参加作家さんは、「セカンド•ネイチャー」という視点のもと、世界中のデザイナーやアーティストの中から選びました。一つのカテゴリーに納まらず自由に活動をしている、多くの人に対して感動を伝えられる方たちです。見る角度によってある人は現代アートと身体表現の融合した作品をつくり出していたり、またある人は華道家でありながらアーティストであったりと、各自がそれぞれ色々な要素を持っています。
また今回、ロスとカンパナの新作は、各々の作風を踏まえた上で「このようなイメージの作品を」と、デザインをお願いしたことから生まれました。
■吉岡さんの考えるデザインの未来とは?
未来の環境やデザインは、CGといった最先端のテクノロジーといった要素に加え、自然界に生息する命が必然性のある美しさをもって生まれてくるという、自然の性質も持ち合わせるようになると考えています。
またデザイナーは、かたちをつくること以上に、感覚や気持ちをデザインするようになると思います。自然の植物が育つ時に必要な太陽、土、水。今後のデザイナーは、自然と植物の関係のように、ものにとって欠かせない要素、また、ものを育てる立場になっていくのではないかと考えています。
■今回はインスタレーションを発表しますか?
新作「CLOUDS – インスタレーション」を発表します。ファイバーを使った、まるで雲のようなインスタレーションが空間を包み込みます。
ふとした瞬間によく見る、太陽の光、雲のかたちといった、空の持つ全ての要素が私の記憶に焼きついています。透明なファイバーを幾重にも重ね合わせることによって生まれたインスタレーションは、人工のものでありながら、人それぞれの記憶に存在する自然現象と同じ原理をデザインに取り入れた作品です。そして約100名の学生の協力によって、無数のファイバーが一本ずつとりつけられました。
■安藤忠雄さんの建築の中で会場構成ということですが、苦労した点は?
会場をデザインする時にいつも私が心掛けているのは、常にその場所でしかできない空間構成、インスタレーションをデザインする事です。それは、できるだけ会場の特徴を活かし、空間というよりはむしろ、風景をつくり出すということ。つくり込むのではなく感覚を変えていくということ。本展では、一瞬にして空気を変えてしまうようなインスタレーション、そして数々の作品を発表します。
■吉岡さんの新作、自然結晶の育つ椅子とは?
「自然がつくりだす造形には、人間の想像を超える美しさがある」
このヴィーナスは、水槽の中で結晶を成長させることで構造となり、まるで女神が現れるように、時間と共にその姿を現します。
2001年に発表した “Honey-pop” は、積層された薄紙を蜂の巣の構造(ハニカム)にすることで強度を作り出しました。また、2006年に発表した “PANE chair – パンの椅子” では、小さな繊維を組織化し強度をつくり出す植物の構造のように、繊維そのものが構造体となった柔軟な構造を備えた椅子をデザインしました。
そして今回私が考えたのは、自然の結晶構造が成長することで完成する、今までの歴史にない画期的な椅子をデザインすることでした。
近年、技術の進歩によって、CGなどであらゆる事が可能になってきています。しかしテクノロジーではつくりだすことのできない、人間の想像を超越する何かが自然にはあるような気がしています。
半分は私によって、そしてもう半分は、自然の原理と予期せぬ美しさによって生みだされる結晶の椅子、ヴィーナス。これは、今までのものづくりの概念を超えた私の未来へのメッセージとも言えるでしょう。
■なぜ椅子なのですか?
敢えて私たちに身近な存在である椅子をデザインする事で、人とのコミュニケーションをはかる事ができると考えたからです。
■椅子の他にはどのような作品がありますか?
今回私は初の平面作品、「運命」「月光」「未完成」による、結晶で描かれた絵画を発表します。
「自然から生まれるものすべてには、生命がある」
これらの作品は音によって結晶の形状を変化させ、描かれる結晶の絵画です。
自然の原理と予期せぬ美しさによって生みだされるこの絵画は、ベートーヴェン/交響曲第5番「運命」とピアノソナタ第14番「月光」の音色を結晶にあたえることで、時間と共にその姿が、水槽の中で描かれます。
会場ではシューベルト/交響曲第7番ロ短調「未完成」を流す傍らで「未完成」と名づけられた平面作品が描かれていくプロセスを、皆さんと共有します。
■作品のプロセスについて聞かせて下さい
この作品は、半分は私、そしてもう半分は自然によって生みだされます。
特別な成分を溶かした溶液をはった巨大な水槽の中にやわらかなポリエステル繊維の塊を入れ、それに結晶が構造をつくり、徐々に育つことでヴィーナスが誕生します。
完成までその姿が予測できないところに、自然のもつ偶然の美しさを感じています。
今までは、CGなどテクノロジーによって全ての物事が実現できると思っていたのですが、そのようなものではできないことに挑戦しました。
なお制作にあたり、完成まで約1ヶ月を要します。
■素材は何ですか?
鉱物の一種を成分とした自然結晶です。
それ以上の情報は残念ながらお伝えできません。
■名前はどのようにつけたのですか?
無の状態から自然の力によって姿を現す、現実と空想の世界を彷彿させるヴィーナス。
自然の中から現れたその姿と、私たちが想像できないような美しさと光を放つようなイメージからこのタイトルをつけました。
■構想から完成までどのくらい時間がかかりましたか
椅子の制作にとりかかったのは1年程前になりますが、数年前から結晶の持つ美しさに魅了され、結晶という素材に興味をもっていたので、構想は2年程前からでしょうか。
また「今までにない、まったく新しい構造体を持つ椅子」を生み出すことへの挑戦は、2001年に発表したHoney-popにさかのぼると思います。
■海外の展覧会の予定は?
今回の作品は多くの方に見ていただきたいと強く思っています。今後、ヨーロッパやアメリカの、多くの人の目に触れる公共の場などで展示できることを夢みています。
□展覧会概要
セカンド・ネイチャー
会期:2008 年10 月17 日(金)~2009 年1 月18 日(日)
休館日:火曜日(12 月23 日、1 月6 日は開館)、12 月27 日から1 月2 日
開館時間:11:00~20:00(入場は19:30 まで)
入場料(税込):一般1,000 円、大学生800 円、中高生500 円、小学生以下無料
※15 名以上は各料金から200 円割引
会場:21_21 DESIGN SIGHT www.2121designsight.jp
〒107-0052 東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン・ガーデン内 TEL. 03-3475-2121
アクセス:都営地下鉄大江戸線/六本木駅・東京ミッドタウン直結出口から徒歩1分、
東京メトロ日比谷線/六本木駅・6出口、東京メトロ千代田線/乃木坂駅・3出口から徒歩5 分
吉岡事務所:www.tokujin.com
□展覧会参加アーティスト
安部典子(アーティスト)
東 信(フラワーアーティスト)
カンパナ・ブラザーズ(デザイナー)
片桐飛鳥(写真家)
ロス・ラブグローブ(デザイナー)
森山開次(ダンサー/振付家)×串田壮史(映像作家)
中川幸夫(いけ花作家)
吉岡徳仁(デザイナー)