鈴木亜生 / ASEI建築設計事務所が設計した、静岡・浜松市の住宅「BIOCHAR」です。
水質等に課題がある湖の畔の敷地。建築家は、建築と環境の新たな関係を求め、負荷軽減ではなく回復させる“リジェネラティブ”な設計を志向しました。そして、地域の廃材から“水質浄化機能”をもつ“バイオ炭ブロック”を開発して内外に使いました。
浜松市郊外の佐鳴湖公園に面した住宅である。
佐鳴湖は2001年から全国ワーストワンの水が汚い湖となっていた。そこで、県と市は2015年に佐鳴湖地域協議会を発足し、ワーストワンからの脱却と快適な湖岸景観の形成を目指し、佐鳴湖の水質改善及び生物多様性の保全のための調査・研究を行い、地域住民らも環境保全活動を継続してきている。
こうした佐鳴湖の環境課題に対して、これまでの地球環境に「やさしい/負荷をかけない」というサステナブルなアプローチから、地域環境を「再生/回復する」というリジェネラティブ(環境再生)なアプローチを通して、建築と環境の新たな関係性を見出そうとした。
地域の未利用資源であったみかんの枝木をバイオ炭(Biochar)に再利用することを考えた。
バイオ炭とは、バイオマス、すなわち生物由来の資源を嫌気的条件(酸素濃度が低い環境)の下で加熱することによって生成された炭化物をいう。このバイオ炭は多孔質な構造を有しているため、水や空気の浄化性能が高く、大きな比表面積をもつため、様々な環境汚染物質を吸着する機能を持っている。
このバイオ炭の高い水質浄化や土壌改善の機能を活かすため、炭職人とブロックの製造業者との協働で、みかんの枝木を炭化させたバイオ炭を象嵌したバイオ炭ブロックを製造開発した。そのバイオ炭ブロックを鉄骨造の躯体の内外装に仕上げた。外壁では高い断熱性を持ち、内壁では調湿、空気清浄化を果たし、温熱環境を調和している。
建築自体の環境性能としては、外皮の高断熱化(UA値0.52W/㎡・K)、縁台の石へのダイレクトゲインによる蓄熱、全長34mの共用スペースの全開口木製サッシとトリプルガラス、床下空調による居住域快適性の確保、パッシブ熱交換換気による空調負荷の低減、太陽光発電と蓄電池の設置などにより、ZEH認証を取得している。CO2は約40%の削減目標に対して、56%削減している。
さらに外壁では雨水の浄化を促進し、その雨水がバイオ炭同様に水質浄化の作用がある銅板の屋根を流れ、外構の植栽帯に放水され、土中のバイオ炭を介してさらに浄化して地下水に浸透して、敷地目前にある湿地帯に流れていく。宅地の雨水を効果的に集水、浄化、浸透させ、そして湿地帯から佐鳴湖へ水を循環させている。佐鳴湖の環境に視覚的にだけでなく、生態的にもつながっている。
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以下、建築家によるテキストです。
浜松市郊外の佐鳴湖公園に面した住宅である。
佐鳴湖は2001年から全国ワーストワンの水が汚い湖となっていた。そこで、県と市は2015年に佐鳴湖地域協議会を発足し、ワーストワンからの脱却と快適な湖岸景観の形成を目指し、佐鳴湖の水質改善及び生物多様性の保全のための調査・研究を行い、地域住民らも環境保全活動を継続してきている。
こうした佐鳴湖の環境課題に対して、これまでの地球環境に「やさしい/負荷をかけない」というサステナブルなアプローチから、地域環境を「再生/回復する」というリジェネラティブ(環境再生)なアプローチを通して、建築と環境の新たな関係性を見出そうとした。
そのとき、佐鳴湖の下流にある浜名湖を囲む山々には三ケ日みかんの産地があり、このみかんの木はみかんの品質維持のため15年おきに改植され、伐採された枝木は毎年約6000トンにも上り、産業廃棄物として捨てられていることを知った。その産廃処理費用はみかん農家の大きな負担にもなっている。
そこで地域の未利用資源であったみかんの枝木をバイオ炭(Biochar)に再利用することを考えた。
バイオ炭とは、バイオマス、すなわち生物由来の資源を嫌気的条件(酸素濃度が低い環境)の下で加熱することによって生成された炭化物をいう。このバイオ炭は多孔質な構造を有しているため、水や空気の浄化性能が高く、大きな比表面積をもつため、様々な環境汚染物質を吸着する機能を持っている。
このバイオ炭の高い水質浄化や土壌改善の機能を活かすため、炭職人とブロックの製造業者との協働で、みかんの枝木を炭化させたバイオ炭を象嵌したバイオ炭ブロックを製造開発した。そのバイオ炭ブロックを鉄骨造の躯体の内外装に仕上げた。外壁では高い断熱性を持ち、内壁では調湿、空気清浄化を果たし、温熱環境を調和している。
建築自体の環境性能としては、外皮の高断熱化(UA値0.52W/㎡・K)、縁台の石へのダイレクトゲインによる蓄熱、全長34mの共用スペースの全開口木製サッシとトリプルガラス、床下空調による居住域快適性の確保、パッシブ熱交換換気による空調負荷の低減、太陽光発電と蓄電池の設置などにより、ZEH認証を取得している。CO2は約40%の削減目標に対して、56%削減している。
さらに外壁では雨水の浄化を促進し、その雨水がバイオ炭同様に水質浄化の作用がある銅板の屋根を流れ、外構の植栽帯に放水され、土中のバイオ炭を介してさらに浄化して地下水に浸透して、敷地目前にある湿地帯に流れていく。宅地の雨水を効果的に集水、浄化、浸透させ、そして湿地帯から佐鳴湖へ水を循環させている。佐鳴湖の環境に視覚的にだけでなく、生態的にもつながっている。
なお、この木質バイオマス化によるバイオ炭住宅と木造住宅との炭素貯蔵量の差を比較した。本計画の規模の住宅が仮に純木造とした場合の木材使用量は約61トンであるのに対して、バイオ炭の実際の使用量は約21トンであった。バイオ炭は炭素含有率0.5の木を炭化させることで炭素含有率が0.77まで上がり、100年後の炭素残存率も0.89と高いため、炭素貯蔵量は木造住宅に比べ、内外装の仕上材での利用にもかかわらず、約1.4倍、RC造・S造と比べると約5.4倍も高いことが分かった。
バイオ炭建築は、RC造・S造の木質バイオマス化により、カーボンニュートラルのための新しい選択肢になる可能性がある。地域の未利用な木質資源と佐鳴湖の水資源の循環の結び目としてバイオ炭を位置付け、カーボンニュートラルに向けた生物資源(バイオマス)によるリジェネラティブ(環境再生)な建築の実践である。
■建築概要
作品タイトル:BIOCHAR
所在地:静岡県浜松市中央区
主要用途:個人住宅
家族構成:夫婦+子供2人
設計:ASEI建築設計事務所 担当/鈴木亜生
構造:円酒構造設計 担当/円酒昂 上田彩希
設備:アート総合設計宮崎事務所 担当/吉ノ薗和彦
ブロック製造開発:ストーンワークス 担当/上中誠
バイオ炭製造:舎房窯 担当/橋本健
テキスタイル:NUNO 担当/須藤玲子、高重織衣
外構・造園:西村工芸 担当/西村直樹
施工:加納工務店 担当/藤井悟史、江頭有二
構造:鉄骨造
基礎:杭基礎
階数:地上2階
軒高:7,611mm
最高高さ:7,985mm
敷地面積:595.99㎡
建築面積:237.01㎡(建蔽率39.77% 許容40%)
延床面積:338.72㎡(容積率51.60% 許容60%)
1階:236.28㎡
2階:102.44㎡
設計期間:2020年9月~2022年12月
工事期間:2022年12月~2024年2月
写真:田中克昌、井野孔輔