SHARE KUUによる上海のオフィス「FUTOWN OFFICE」
photo©Nacasa&Partners
KUUが既存の倉庫をコンバージョンした上海のオフィス「FUTOWN OFFICE」です。
下階平面図。
上階平面図。
以下、建築家によるテキストです。
現場は経済開放後の80年代に上海の蘇州河沿いに建てられた倉庫で、これらの物件のオフィスや商業施設へのコンバージョンは、他の国の都市同様上海でもよく見られる傾向である。今回の物件はそんな4階建て倉庫建築の2階部分であり、アクセサリーブランドを扱うオフィスである。
中国では設計時にパースが重要視される傾向にある。建築を作るためのメディアではなく、それ自体が設計の最終対象物としてあるような、またそれ自体が商品であるかのような扱いである。つまり設計自体はパース完成時に終わっており、それ以降の作図や施工はその完成物たるパースにいかに近づけるか、というような作業となる。実際に室内設計をパースのみを元に施工するという事例が存在したり、ネットでパース(=デザイン)が買えたりもする。いわゆるデザインアーキテクトが基本設計のみを手がけることが多いのもその為である。ここではクライアントによるパースへのOKが出た時点が設計業務終了を意味する。
またパース重視の意味するのは、つまり建築の外(外観)であろうが内(内装)であろうが、期待されているのはそのある一点での視覚効果であるということである。よって外(外観)と内(内装)が経験として一体になっている必要はなく、ほぼ完全に分断された存在として扱われ、それ故にそれぞれを別々のデザイナーに設計させるのが一般的となる。
今回の物件では、ミーティングルームとか休憩室といった部屋名がつくような場所のパースををプレゼンの中心にしながらも、それらの場所を設計においての焦点とせず、またスペースのデスティネーションとせず、そこで行われる行為がずるずると繋がって結果として全体が形成されるようなものを作ろうとしている。一点における視覚に頼るのではなく歩き回ることで全貌が知覚できるというようなものである。
具体的には200人の座席を確保するため1500平米の大空間にメゾネットという形で増床する必要があった。ただ倉庫ゆえの実直な構造や、せっかくの5.6Mある天井高、大容量な空間をできるだけいかすようなものにしたいと思い、メゾネットフロアを短手方向になストライプ状に配し、人が天井の低い部分と高い部分を交互に歩くことになるようにした。また平面上でストライプからはみ出したりへこんだりする部分をつくることで、各ストライプにバリエーションを作ることにした。これらの部分にはポリカーボネイト素材でできたカーブを使ったので、一つの場所からもう一つへの繋がり方が連続的なものとなっている。このポリカーボネイトに透明と半透明の2種類を用いているので、方向によって異なる奥行きが生まれた。また2階用に新設したスラブを支える柱以外は全て30mm角断面のスチール材を使用しゴールドに塗装している。比較的限られた要素のバリエーションで出来ているが、材料、サイズ、カラーの選択と組み合わせで重さ、荒さといったいわゆる「ロフト建築っぽさ」を出さないようにした。
また各コーナーで高さ、長さの異なるカスタムメイド照明は、もともと場所にバリエーションを作ることを意図していた。ただ今回はそれとポリカーボネイトの壁との組み合わせで、バリエーションやレイヤーを超えてむしろ均質さを生み出しており、意図していたのとは異なる方法ながらも全体をずるずると繋ぐ感じにうまく加担している。
結果として一般的に賑やかさや華やかさを嗜好する中国に合うもの、チープなのに豪華で、シンプルなのにファンシーさを持つものになったように思う。
■建築概要
プロジェクト名:FUTOWN OFFICE
設計:KUU
写真:Nacasa&Partners
竣工:2013年1月
面積:2135平米
場所:中国上海市