久保秀朗+都島有美 / 久保都島建築設計事務所を特集した書籍『特集:久保都島建築設計事務所 KJ 2015年12月号』をプレビューします。
縮小時代の豊かな建築
2005年に戦後初めて日本の人口が減少したと発表された。人口が減っていくと同時に、国全体の生産力が落ちていき社会が徐々に縮小していくという時代に突入したのである。
限られた投資の中で最大限の効果が求められる時代において、小さくても強いインパクトを与えるアイデアが必要とされる。強い建築といっても派手な外観の建築のことではない。むしろ強い体験を生み出す建築と言ったほうがよいであろう。インターネットの普及によって、瞬時に世界中のもの・ことが閲覧できる時代である。その場所に身体をおいたときにしか感じられない、快適さ、くつろぎ、驚きを生み出すものでなくてはいけない。
豊かな体験をつくるためには、建物のかたちが生み出す効果を厳密に検討する必要がある。かたちは光や空気そして人の動的な流れをコントロールするのである。解析技術、施工技術の進歩によってあらゆるかたちが可能になった今こそ、その効果や機能を厳密に検討して慎重に適切なかたちを選ぶ必要がある。
私達は、様々な技術を総動員して適切な形を探しだす検討をおこなっている。3DCADはパソコンの性能向上によって、プレゼンテーションのイメージを作るだけでなく空間の質を検討するためのツールとして使うことができるようになった。自然光や照明の効果を忠実にシミュレーションできるし、CFD解析によって空気の流れも視覚化できる。快適な空間をつくるために様々な技術を手軽に使える時代になったのだ。
2020年の東京オリンピックに向けて東京は活気づいていくように見えるが、地方での縮退は進んでいくであろう。しかし都市の縮小が建築文化の発展を萎縮させるとは考えてはいない。むしろ投資を慎重に考える必要のある時代だからこそ、建築がどのように人間の暮らしを豊かにできるか、という視点に改めて立ち返ることができると考えている。私達は社会を直視し、次の時代の新たな建築を模索していきたいと考えている。