竹中工務店が設計した、東京・新宿区の「スガ試験機 本社ビル」です。物性の経年変化を再現する試験機等をつくる企業の社屋で、その製品を“時間の移ろい”として解釈、各素材の選択や旧社屋の素材転用を通して企業アイデンティティの表現と豊かな空間体験を目指す。施主企業の公式サイトはこちら。
太陽光など自然の力による物性の経年変化を短期間で正確に再現できる促進耐候性試験機等の製作を行う創業100周年を迎えた企業の本社ビルである。そこで創られる試験機は、いわば短縮された「時間の移ろい」を扱っているといえる。
本計画では、日射・風向風速等の周辺環境の特性に呼応させるよう方位によって外装の設えを切り替えた浮かぶ箱を積層させ、さらに内部では光の反射率・透過率の違う様々なマテリアルをレイアウトした。それにより、どこにいても自然光の微細な変化を心地よく感じることができる空間を生み出した。
また、共用空間では、旧本社で使用されていた外壁タイルや大理石を種々の仕上げに転活用した。地域と時を共にし、歴史が刻まれたそのマテリアルは事業主のコーポレートアイデンティティを体現し、ささやかにまちへ滲みだす。
企業が積み上げてきた100年の歴史から、今まさに刻々と変わり続ける日の光まで、様々なスケールの「時の移ろい」を空間に落とし込んだ。空間と時間をともに設計し共鳴させることで、このオフィスは空間のミニマリティを超えて、体験的に豊かな奥行きを生み出している。
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以下、建築家によるテキストです。
光を通じて時の移ろいを感じられるオフィス
太陽光など自然の力による物性の経年変化を短期間で正確に再現できる促進耐候性試験機等の製作を行う創業100周年を迎えた企業の本社ビルである。そこで創られる試験機は、いわば短縮された「時間の移ろい」を扱っているといえる。
本計画では、日射・風向風速等の周辺環境の特性に呼応させるよう方位によって外装の設えを切り替えた浮かぶ箱を積層させ、さらに内部では光の反射率・透過率の違う様々なマテリアルをレイアウトした。それにより、どこにいても自然光の微細な変化を心地よく感じることができる空間を生み出した。
また、共用空間では、旧本社で使用されていた外壁タイルや大理石を種々の仕上げに転活用した。地域と時を共にし、歴史が刻まれたそのマテリアルは事業主のコーポレートアイデンティティを体現し、ささやかにまちへ滲みだす。
企業が積み上げてきた100年の歴史から、今まさに刻々と変わり続ける日の光まで、様々なスケールの「時の移ろい」を空間に落とし込んだ。空間と時間をともに設計し共鳴させることで、このオフィスは空間のミニマリティを超えて、体験的に豊かな奥行きを生み出している。
地形と都市域の境界でまちを緩やかに繋ぐ
当該敷地は台地の縁上で、商業地域と住居系地域の境界地に立地しており、靖国通り沿いの商業ビル群から低層の住宅街や狭い路地へとまちのスケールが移り変わる特有のコンテクストを有している。
そういった周囲の街並みに呼応するよう本社ビルがもつ機能を用途単位の小ヴォリュームの箱に分節して構成した。
法的な見えない制限(斜線制限・日影規制) をポジティブに捉え、周囲の街並みが陽の光を享受でき、住宅街のヴォリューム感とも呼応した箱の積層体とした。低層部にはギャラリー等のパブリックゾーンを配置し、ヴォリュームとプログラム双方から周辺環境とのつながりを作り出した。
周囲の光・風環境に呼応し機能が移り変わるファサード
東西南北の日射・風環境、周辺地域との関係によりファサードが持つ機能を変容させ、どこにいても光を感じられ、風が通り抜ける快適なオフィス環境を目指した。
各面・各層の水平ラインを統一したシンプルな箱の積層のデザインによる地域のランドマークとしての佇まいと共に、方位によって素材やサッシ形状、自然換気ホッパー等機能の組み合わせを変えることで各面の最適化を図った。
直達日射の抑制と昼光利用、卓越風向の分析、地域への眺望、周囲との見合、室内空間の効率的な利用法、コア部分の採光など異なるパラメータを、シミュレーションを行いながら調停している。
また1500㎡の面積区画と高層区画での法解釈により、スパンドレルレスな透明感の高い特徴的なファサードデザインを実現している。
放射+微風空調と素材感を生かしたオフィス
天空率によって導き出した最高高さに対して階高3.6mと設定とすることで、12フロアを実現している。
最低限の階高に対して直天井+放射・微風空調+間接照明をインテグレートしたガルバリウム鋼板素地による天井デザインを採用した。パンチングの密度はシミュレーションとモックアップで均一な温度、照度環境を確認しながら決定し、密度の違いによって光と風が滲みだす特徴的なデザインとした。
透過するサイドコア+3面開口(一部セラミックプリントによる拡散光)+ライトシェルフ+天井反射面により昼光利用においても最低限の光環境を実現し、省エネルギー性の高い就業環境を確保している。
放射微風空調は段ボールダクトと吊ボルト、野縁受け、Mバーといった一般天井材の組み合わせによって構成し、ローコストと工業化を最大限生かした設計とした。
試験機を展示するショールームとオープンな試験エリア
エントランスホールと一体化したショールームは、地域に根付いた企業としてのイメージとともに街に対し開かれている。
展示される試験機の工業的なデザインに合わせ、インテリアには素材の持つ艶感や透明度、反射といった特性を扱った設えとし空間に広がりを与えている。また、かつて50年この地で親しまれた(暴露された) 本社の面影を残す試みとして、カウンターや壁面に既存本社の外壁タイルやエントランスの大理石を再利用し、時間の流れを感じられる空間とした。
促進耐候性試験・腐食・測色試験といった様々な分野で活用される試験機はオーダーメイドで製作されるプロダクトである。
低層エリアには展示と試験エリアを計画し、地域に開かれたショールームやギャラリー、様々なメーカーのニーズに合わせた設計をするためのミーティングスペース、協創スペース、ライブラリー、技術展示などを、実演稼働させる試験機エリアに併設することで研究開発の促進を目指した。
計画に際しては研究者とのワークショップを行い、これからの開発に必要な空間の在り方、地域とのつながりをディスカッションしながら計画に落とし込んだ。
■建築概要
名称:スガ試験機 本社ビル
所在地:東京都新宿区
用途:事務所
階数:地下1階、地上12階、塔屋1階
構造:地上S造、地下SRC造
設計:
竹中工務店
設計総括:茶谷明男(元社員)
建築設計:伊藤宏樹、大石卓人、鎌谷潤、藤晴香
構造設計:星野正宏、岡村祥子
設備設計:左勝旭、袴田洸平、三宅晴佳
展示計画:乃村工藝社
照明デザイン(低層部):シリウスライティングオフィス
サインデザイン:NOSIGNER
敷地面積:1,148.76㎡
建築面積:825.31㎡(建蔽率:71.84%)
延床面積:4,942.74㎡(容積率:391.78%)
竣工年月:2017年12月
撮影:エスエス 島尾望