SHARE OUVI + A-ASTERISKによる住宅兼美容院”Y-house”
photo©山田新治郎
OUVI + A-ASTERISKが改装を手掛けた東京都杉並区の住宅兼美容院”Y-house”です。
以下、建築家によるテキストです。
私たちは、都心にある1つの小さな小さな改築プロジェクトを行いながら、2つのことについて考えた。1つはその施主の生活に対する個別解であり、もう1つは都心に無数存在する類似例が抱える社会問題への展望である。
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自宅に併設している美容院を営む老夫婦は、子供が巣立ったのを機に、老後に向けて生活スタイルをいくらか調整しようと考えていた。それは、生活の比重を増やし、業務としての仕事を減らしつつ、しかし仕事を通して育んできた近隣との交流はより豊かにしたい、ということだった。
既存の建物を見てみると、店舗ー玄関ーDKーバスルーム/トイレが廊下を介さずそれぞれ扉のみで仕切られており、「続き間」のように奥へ奥へと人を導くような空間構成になっていた。この構成が、施主のさまざまな生活習慣と強くリンクしているようだった。
そこで私たちは、このいくらか特殊な既存建物の空間構成を踏襲し、既存の壁、既存の床、既存の設備といった部分を少しだけ残しつつ、各空間を斜線の扉で切り落とし、奥へ奥へと続いていくような建築を考えた。これにより斜線によって隔てた隣り合う各空間は、その扉の開閉によって互いの用途の増減を変更・調整することができるようになっている。
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このプロジェクトの焦点を施主ではなく都市にあてた時、他の問題が見えてくる。東京都心には同じような問題を抱えた老夫婦が無数いるのだ。それは、団塊世代といわれ、これから定年を向かえていく段階にある。彼らは、1980年前後に一斉に戸建てマイホームを購入した世代でもあり、その前後15年ほどの間に都内だけでも約9万戸建設された。定年後、生活スタイルの調整を考える彼らは、使い勝手が悪くなった今までの家を売却し、終の住処としてマンションを購入し、育んできた近隣との交流を離れるケースが後を絶たない。幸いにも1980年には新耐震法が施行されており、そのおかげで当時の戸建ては壁量が現行法に近く、リフォームも比較的容易である。私たちはこのような全体状況に対し、地域を離れずに、同時に今迄の生活習慣を維持できるような対処法が必要と考える。
このプロジェクトはこういった2つの視点から行ったリフォームであり、都心問題への展望でもある。
■計画概要
プロジェクト名:Y-house
場所:東京都杉並区
機能:住宅兼美容院(改築)
面積:39.74sqm(30.23sqm改築面積)
設計:
建築:OUVI + A-ASTERISK
施工:潤工務店
撮影:山田新治郎