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以下、建築家によるテキストです。

都市の中に浮かぶ屋敷林

敷地は仙台市内中心部から少し離れた地下鉄東西線の東の起点「荒井駅」程近くに位置する。
数年前にできたばかりの新駅であり、これから新興住宅地として広がろうとしている開発エリアである。一方駅前には目立った商業施設などはなく、設計当時から更地の状態が多く駅周辺の賑わいはあまり感じられなかった。

そこでクライアントからの要望でもある「人が滞留できる場」を街に提供することによって、このエリアにおける賑わいの起点の創出を目指した。
コンテンツとしてはクライアントが運営するオフィスやコワーキングスペース・ギャラリーに加え、仙台を拠点にしている珈琲専門店や美容室を基本設計段階から誘致し建築と一体的に考えていくことによって、各テナントユーザーにとって自由な動線や互いの境界を超えて利用できる複合商業ビルの在り方を模索した。

また、敷地周辺は古くは仙台平野の農村地であり奥羽山脈から吹き降ろす季節風から家を守るための屋敷林「イグネ（居久根）」があった土地柄でもある。しかし近年の生活様式の変化に伴いイグネは減少の一途を辿っている。そこで市街化が進みゆくこの地においてイグネの風景と歴史の記憶を新たなイグネのかたちによって再創造したいと考えた。

具体的には二つの前面道路が交わる辻に対して開くように二棟の分棟型のボリュームを配し湾曲屋根によってそれらを覆う構成としている。さらに意匠と構造を兼ねたバットレスのフレームが辻に対して緩やかに弧を描くファサードをつくり出している。

東西の各ボリュームとそれらを繋ぐ湾曲屋根や前面のフレームとの隙間に生成された余白＝半外部空間によってテナント間との距離感や自由な回遊動線を可能にしている。

さらに郊外型テナントビルに必要とされる駐車スペースに対してもマツを中心としたランドスケープを介して建築との間合いを取ることで、半外部空間の1、2階テラスを心地よい場にしている。

東北地方では比較的利用されにくい外部空間に対し、一年を通して積極的に外部との応答を楽しめる居場所を設けた。かつて水田地帯に浮かぶ緑の「浮島」と呼ばれていたイグネは、姿を変え都市の中に浮かぶ屋敷林としてこのエリアのアイコンとなり、多くの人に親しまれ風土の継承と新たな環境を目指した。
（前田圭介 / UID）

■建築概要

建築名称：IGOONE ARAI
設計監理：前田圭介/UID
英文事務所名：Keisuke Maeda/UID
建主：株式会社 福互
構造：小西泰孝建築構造設計
造園：荻野寿也景観設計
施工：市村工務店
家具：UID + tHiN’nk
サイン：BRIGHT inc.
主構造：S造
用途：複合施設（飲食店、美容院、事務所）
規模：地上2階
敷地面積：1570.75 m2
建築面積：351.47 m2
延床面積：574.77 m2

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