西澤俊理 / NISHIZAWAARCHITECTSが設計した、ベトナム・ホーチミンシティの「ベンタンのレストラン」です。
そこで私達も、街並みや建物が持つ歴史や時間を唐突に上塗りするのではなく、また逆に修復保存のみをするのでもなく、過去の時間から現在までもがスムーズに繋がるような空間の更新の仕方は出来ないだろうかと考えた。既存の建物は、外壁も内壁も幾重にも上塗りが繰り返されていた為、これらを全て剥ぎ取って建物が元々持っていた素材まで遡り、そこに新しい素材を丁寧に付加していく。その境目で断絶が生じないよう、フラットで均質な工業製品は極力用いず、手で持ち運べるような小さなスケールの材料を大量に、かつ少しずつずらしながら、ひとつひとつ配置を決めていった。
それと同時に、周辺の街並みと既存の建物、そして室内インテリアとを関係づける為に、建物外壁の内側と外側にそれぞれ1枚ずつのフィルターを付加し、その2枚で挟まれた領域をロッジアとして街並みに開放する。内側のフィルターはベンタン市場の高窓から引用した、約1000枚の強化ガラス(t=8)で構成された大きなジャロジー窓で、室内側に取り込む街並みの風景をガラスの角度や時間帯、季節や天候などの光学的な条件によって様々に分割し、変化させる。外側のフィルターは、ホーチミンの街中でよく見られる鉄製フェンスを直径4mmの丸鋼で再構成したものだ。風が吹けば揺れるほど繊細なフェンスで、建物の外観やロッジアからの眺望に、微小ながら新しい抽象化を加えることを意図した。