川原達也+エレン・クリスティナ・クラウゼ / KAWAHARA KRAUSE ARCHITECTSが設計した、フランスの住宅「Maison L」です。
築約200年の伝統石造家屋を改修です。建築家は、外壁等を“あるべき”状態へ戻す修復や、内を外に拡張する“ポーチ”の増築を実施しました。また、45度振ったグリッドを基礎として計画する事で、既存と新設を“一枚の織物”の様に再構成を意図しました。
緩やかな起伏と緑豊かな濃淡が織りなす田園風景、そんなフランス西部に典型的な風景の中にポツンと位置する小さな石造りの村はかつてたくさんの農場で賑わっていました。
農業の機械化が進み、より少ない人手でより多くの作業量がこなせるようになったことで、小さな農場はより大きな農場へと統合されその役目を終えるも、その石灰石の柔らかな佇まいを残したまま、専用家屋やスタジオ、ギャラリーなどに転用されています。われわれが改修した住宅もそうしたもののひとつで、およそ200年前に建てられた伝統的な石造家屋です。
まずは左官で塗りつぶされてしまった外壁や周壁を創建当時の姿に戻しました。
地場の石灰岩が乱積みされ、その目地を左官で荒く仕上げた姿は、この地方の気候や風土との対話の中で編み出された伝統的なもので、外壁には色彩、質感、触感、そしてそれらが創り出す細かな陰影が取り戻されました。
陰影と触感を通して空を見上げずとも空の様子を知り、質感と色彩が田園風景のなかの垂直に立つ白い点景として村のアイデンティティに寄与しています。「かつてのように戻す」という設計行為を通して、あるべきものがあるべき場所に落ち着くということの安心感と安定感がふたたび出現しました。
住宅内部では古い木製の階段以外を残して内壁をすべて取り払い、1階はゆったりとした1室空間としました。そこではクライアント自らによって作られた家具がダイニングやリビングを緩く仕切っています。
さらにそこでの暮らしを外側に向かって拡張するようにポーチを新たに増築しました。ポーチを挿入することで、中庭、母屋、裏庭のそれぞれを個別のエレメントの串刺しではなく、一枚の織物として読み直すまなざしをクライアントと共有することができました。