【ap特別企画】西澤明洋インタビュー「ブランディングデザイナーと考える、いま建築家が向き合うべきこと」(聞き手:後藤連平) image©エイトブランディングデザイン
ブランディングデザインを専門とし、幅広い業種の企業と仕事をするエイトブランディングデザイン という会社がある。代表的な仕事には、クラフトビール「COEDO」や抹茶カフェ「nana’s green tea」があり、エイトブランディングデザインの名前を耳にしたことがなくても、これらの商品や店舗を見たことがある人は多いのではないだろうか。
この会社の代表を務めるのが、ブランディングデザイナーの西澤明洋だ。その道で名を知られた存在であるが、実は京都工芸繊維大学で建築を学んだという経歴も持っている。実際の仕事を振り返っても、建築と不動産のあいだを追求する「創造系不動産」のブランディングや、「キノアーキテクツ」とコラボレーションなど、建築に関わるプロジェクトも数多く手がけている。
今回、アーキテクチャーフォトでは、ブランディングデザインの専門家である西澤に「いま建築家が向き合うべきこと」をテーマに、率直な意見を聞くインタビューを行った。聞き手を務めたのは編集長の後藤連平。後藤自身も、これまでに西澤の様々な著書からアーキテクチャーフォトを発展させるヒントを得ていると言う。
この混沌とした現代において、建築で生きる道を選んだ方々にインスピレーションを与える話が聞き出せるのではないか。そんな思いを持って、読者の皆さんを代表する心構えで話を聞いたとのこと。
対話の中で出たトピックは、業界構造を分析する話から、方法論の提示の仕方、フィーの貰い方まで、多岐に渡った。そこには、同時代を生きるクリエイターであり、建築を学び建築に隣接する分野で活躍する西澤ならではの視点が明確に込められている。
このインタビューから少しでも建築人生を生き抜くヒントを得てもらえれば幸いである。
(アーキテクチャーフォト編集部)
西澤明洋 (にしざわ あきひろ)
ブランディングデザイナー
1976年滋賀県生まれ。株式会社エイトブランディングデザイン代表。「ブランディングデザインで日本を元気にする」というコンセプトのもと、企業のブランド開発、商品開発、店舗開発など幅広いジャンルでのデザイン活動を行う。リサーチからプランニング、コンセプト開発まで含めた、一貫性のあるブランディングデザインを数多く手がける。主な仕事にクラフトビール「COEDO」、抹茶カフェ「nana’s green tea」、スキンケア「ユースキン」など。著書に『ブランディングデザインの教科書』(パイ インターナショナル)ほか。デザイン誌での特集に『デザインノート/西澤明洋の成功するブランディングデザイン』(誠文堂新光社)がある。
西澤明洋 / エイトブランディングデザインによる代表的な仕事
【ap特別企画】西澤明洋インタビュー「ブランディングデザイナーと考える、いま建築家が向き合うべきこと」(聞き手:後藤連平) 左上:クラフトビール「COEDO」、右上:建築不動産コンサルティング「創造系不動産」、左下:博多「警固神社」、右下:抹茶カフェ「nana’s green tea」
【ap特別企画】西澤明洋インタビュー「ブランディングデザイナーと考える、いま建築家が向き合うべきこと」(聞き手:後藤連平) 左上:LPガス「カナエル」、右上:料理道具屋「釜浅商店」、左下:手織りじゅうたん「山形緞通」、右下:芸術文化施設「アーツ前橋」
業界と状況の変化を客観的に分析
後藤: ぼくと西澤さんは、同じ京都工芸繊維大学の出身ということもあり、これまでもいろんな交流をさせていただいてきましたが、西澤さんのお仕事を一覧して見ると、デザインの文脈だけでなく、建築分野にも通じる考え方が多分に含まれているなと改めて感じました。そこで今回は、具体的なプロジェクトをうかがうというよりは、西澤さんの仕事を通して建築家の方へのメッセージを探っていくような対話になれば、と思っています。
西澤: よろしくお願いします。今年(2022年)の7月に「デザインノート」で『西澤明洋の成功するブランディングデザイン 』(以下、『デザインノート』)という特集を組んでもらったのですが、これは我々としてもインパクトが大きいです。グラフィックデザインの業界からすれば、ぼくは亜流というか、ふつうのキャリアではありませんから。だからこそ、原研哉さんとか佐藤可士和さんとか、グラフィックデザインの王道を歩いている人たちが特集されるような雑誌に取り上げてもらえたことは、素直にうれしいです。
【ap特別企画】西澤明洋インタビュー「ブランディングデザイナーと考える、いま建築家が向き合うべきこと」(聞き手:後藤連平) デザインノート『西澤明洋の成功するブランディングデザイン』
後藤: 西澤さんは建築の出身ですからね。
西澤: 自分でもアウトサイダーだなという認識はあったので。建築からプロダクトデザインに進んで、グラフィックデザインはほぼ我流です。そうしたキャリアの過程で「ブランディングデザイン」と言いはじめるようになって、すこしずつ独自のポジションができてきたのかなと思います。今回の特集をきっかけに、デザイン業界の風向きが本格的に変わるかもしれない。その節目に、建築メディアを運営している連平くん[編注:後藤のこと。なお西澤氏は後藤の3歳年上]にインタビューしてもらうのは、とても嬉しく思います。
後藤: ぼくも建築業界からすればアウトサイダーな立場だと思っているので、自分の話を聞いているようでした(笑)。ぼくが建築を学んでいた2000年前後は、新しいかたちをつくり道を切り開くというような感覚が残っていましたが、社会に出て10年以上働いてみると、それだけでは建築家が生き残れない世の中になっていることを強く感じました。徐々に変化する社会に合わせて、新しいかたちを生みだす建築家だけでなく、べつの領域で仕事をつくる建築家も増えたように思います。その流れがあるからこそ、ぼくのような亜流の存在も求められている感覚があります。こうした建築業界の流れと同じような動きは、デザイン業界でもあったのですか?