星安康至建築設計事務所が設計した、東京・墨田区の「横網のヘッドスパ」です。
施主運営の地域に開かれた美容院の隣に計画されました。建築家は、既にある地域との繋がりを考慮し、用途に必要な“落ち着き”と“開かれた雰囲気”を叶える空間を志向しました。そして、場に必要な“繊細な距離感”を開口部や動線等の操作で作り出しました。店舗の場所はこちら(Google Map)。
墨田区横網の住宅地で新しく開業するヘッドスパの計画である。
もともとはクライアントの両親が自宅の1階で理髪店を営んでいた場所であったが、その両親が店を畳むこととなり、代わりに新しくヘッドスパを開業する流れとなった。クライアントは、その隣の店舗に美容院を開業しており、そこはすでに地元の人気店として地域に開かれた場所となっていた。
一般的に理髪店、あるいは美容院という建物は、周囲に対して大きな窓を設けている。外からは、施術の様子や店内の雰囲気がわかるようになっていて、一目にそこがどういった店であるかは判別できる。何より、そこでは人の見た目が大きく変わる。
一方、ヘッドスパは同じ美容目的とはいえ、施術にはより落ち着いた環境が求められ、たいていの場合、施術は個室で行われる。つまり、理髪店や美容院のように開かれた店構えを作りづらい。しかし、これまでのクライアント、そしてクライアントの両親とこの地域とのつながりを考えれば、少しでも街に開かれた雰囲気の店構えとすることが好ましいと感じられた。
内部へはその開口部を迂回して入っていく。視覚的な近さと行為の遠さ。そこに一呼吸置くことで、「距離感」が発生する。
ヘッドスパという閉じた空間で行われる行為。そして、地域の一部として開かれた場所であること。斜めの壁面や造作、フラグメンタルに配置された、ステンレス、モルタル、針葉樹合板といった多種の素材は、その閉じつつ開くといった矛盾する条件を満たしつつ、この場所に求められた繊細な「距離感」を作り出す。
それは地域との「距離感」であり、何より、ヘッドスパを受けるという少しだけ特別な、そして日常から少し離れた「距離感」を演出する。