安藤祐介建築空間研究所が設計した、愛媛・西条市の「異郷人の家 / 凹レンズハウス」です。
都心から移住する家族の為に既存民家を改修する計画です。建築家は、改修の選択を施主がポジティブに捉えられるよう、住まいを“家族を乗せた宇宙船”に見立てる“ナラティブな設計手法”を考案しました。そして、構成や素材もストーリーに基づき決定しました。
都心部から地方へ移住する家族のため、築32年の平屋建て木造住宅の全面改修を行った。
本計画は当初、分譲地への新築か、中古民家の改修か、土地や物件探しからスタートをした。候補となった中古民家は、正方形プランに方形屋根が大きく架かった一塊に見える特徴的な形をしており、天井裏には室内からは見ることができなかった小屋組みと広大な空間が広がっていた。
移住者である家族と既存家屋の特徴を重ね、住まいを「家族を乗せた宇宙船」と解釈し、「遠い場所から移動を終えこの地に降り、既存空き家に取り付き新しい生活を展開する」というストーリーを立て、空間構成やマテリアルの選定を行うこととした。このストーリー仕立ての設計により、「新築よりも面白いものができるはず」と、中古民家の改修をよりポジティブに選択してもらえるようになった。
既存家屋の外周軒下部分を増床し外壁を700mmほど屋外側に移動させ、収納やカウンターテーブル、家電スペースなど機能的な役割を配している。既存基礎の構造詳細が不明であったことから、増築部分の一部の新設基礎と外壁が、家全体を補強する構造計画とし、残りの部分は元の外壁からセットバックすることで無柱の水平開口を実現させた。L字に広がる水平連続窓には船のコクピットをイメージしたカウンターテーブルを設け、着陸後は田園風景を望む眺望窓となっている。
また、航行中に船外を魚眼のように広く確認するための凹レンズ窓が複数埋め込まれており、着陸後は凹レンズの特性が外光を広げる採光用トップライトとして機能している。外観にも複数の丸い天窓が宇宙船をアイコニックに表す。