



阿曽芙実建築設計事務所が設計した、兵庫・淡路市の「dots n / 農園付き住居」です。
農業希望者に体験機会を提供する為に市の施設として計画されました。建築家は、新しさと懐かしさのある“ここだけの風景”を主題とし、田の字型平面で寄棟と換気塔を特徴とする建築を考案しました。また、屋根や壁などに地域の“土の素材”も用いられました。
淡路市野田尾地区で滞在型市民農園施設(農園付き住居)を5戸と倉庫のほか、この施設への玄関口となる場所に地域の交流施設兼料理研究室(地域交流施設)を設計した。
農園付き住居は、地域の高齢化や過疎化によって、休耕田となる土地を淡路市が買い取り、約50㎡の住居と約50㎡の占有農園を1セットとして、年貸しの賃貸住居として整備したものである。
希望すれば最大5年まで賃貸でき、その後さらに延長を希望する場合は、また希望者との抽選となる。
自ら田畑を耕し、そこでの収穫を楽しむ暮らしに憧れる人は少なくないが、一方で、見ず知らずの農村に移り住み住居や道具などを整備するには、大きな決断が必要だ。しかし、今回のような仮暮らしの場所であれば趣味の範囲で土に触れ、老若男女の多様な年代との地域交流や、個人や団体が農業体験に参加できる。地域の農家に農業を教わることも可能だ。
5戸はすでに入居者が決まり、一歩を踏み出したいと考えている人は少なくないことが分かった。受け入れ側の農村としても、休耕田を活用することで鳥獣被害を防ぎ、地域の住民以外の人が出入りすることで活気が生まれる。田畑など農地の継承が親族だけでなくなることで、農産業の存続にも可能性が広がる。両者だけでなく、社会的にも意味深い仕組みだ。
農園付き住居の設計は、新しいけれど、どこか懐かしい「ここにしかない風景」をつくることをテーマに、プロポーザルで設計者として選定された。同じ地区に建つ交流施設の設計も同じコンセプトを持つ建築とすることで随意契約となった。
はじめてこの敷地に訪れた時、長閑な棚田の風景の先にあるキラキラ光る海とさらにその先にある大阪の大都市が見えた。都市を遠くに感じながらも、ここだけの時間が流れていた。
建物の形は、周りが農園に囲まれているため、どの方向にも影を落とさないように寄棟とし、頂部には、換気塔を設けた。プランは、田の字型を基本とし、農園から、大きな軒下空間、土間リビング、リビングと内外を段階的に緩やかに繋げた。
これにより、農園の作業から長靴のまま出入りし、畑仕事を土間リビングまで持ち込み、そのままキッチンから食卓までがひと繋がりになるような暮らしが可能となる。扉一枚で内外を隔てる都市的なつくりとは違い、農園付き住居ならではの作法を取り入れた。