all photos©若林勇人
大室佑介アトリエ / atelier Ichikuが設計した、東京の住宅「Haus-004」です。
都心から少し離れた住宅地の中の30坪ほどの小さな土地。設計の条件として与えられたのは、3LDK以上の間取り、上階の広いLDK、大小二ヶ所のバルコニー、各階トイレ設置、車二台分の駐車スペース、そして、提携している工務店の標準仕様書と、坪単価50万円程度という建築予算。
住人としての施主ではなく、売り主としての施主から依頼されるものである「建売住宅」は、そこに住まう特定の個人による強い要求に沿ったものではなく、いまだ見ぬ不特定の個人を想定し、その間を取り持つ専門業者の意向に従って作られる住宅である。そのため、建設に際して与えられている条件としては、どれも似通ったものになっていく。
今回提示された条件は、非常に二十世紀的なものである。シンプルな外観、機能性の重視、普遍的な平面、近隣との微かな差異、商品としての経済性、などを規定することで、この百余年間に確立された《住み心地の良い》《平均的な》《近代住宅》が自然と出来上がる仕組みになっており、とてもよく考えられた条件だと感心させられる。
この近現代的な建築言語の範囲から脱却するには、その条件に従いながらも、新しい建築言語を生み出して提示するか、あるいは古典の建築に救いを求めるしかない。学の足りない私は、そのような短絡的な答えに行き着いてしまった。つまり、二十世紀的な条件の及ばないような遠い所で自由に振る舞うことは可能だろうか、と。
建築の性質を決定づける外観ファサードは、いくつかの幾何学的プロポーションに基づいて計画されている。基壇の上に載る木造の家屋部分は正方形の立面になっており、切り取られた屋根の稜線は1:1.618の黄金角に近似する四寸勾配となっている。建物の表情ともいえる窓の位置の外郭線と、上下階を区切るマッスの境界線と合わせて補助線を引くと黄金比のプロポーションが浮かび上がってくる。また、素材を石貼りのようなものに切り替えたバルコニーとエントランス、そして基壇を含めた部分は、最も親しみやすさを感じる白銀比が採用されている。
ここで実践していることは、建築の大きさや用途が変わったとしても揺るぐことのない普遍性を備えている。たとえ建売住宅であっても、「古典的建築の作法」をしっかりと整えれば、美術表現にまで達する可能性がある。