SHARE 武保学 / きりん による、三重・伊賀市の、既存町屋のホテル客室への改修計画「城下町の客室」
武保学 / きりん による、三重・伊賀市の、既存町屋のホテル客室への改修計画「城下町の客室」です。
三重県伊賀市の古い街並みに残る町屋をホテルの客室に改修する計画である.
徒歩5分ほどに位置するフロント棟で鍵を受け取った宿泊客は、街の雰囲気を味わいながらこの建物にたどり着くという「分散型ホテル」の形式をなしている.
敷地に建つ築180年程の建物群は時間の蓄積を感じさせるが、部分的に昭和時代のリフォームによって新建材で覆われており、建物内部は新旧がいびつに混在する状態であった.
今回「建物が生き生きと使われていた時代に戻していく」というホテルのコンセプトに基づいて建物の触り方を決めていった.
また新建材を剥がして現れたオリジナルの仕上げを出来るだけ残すと同時に、新設部分も既存の板材の再利用や、伊賀の土を用いた左官など、この場所にゆかりのあるもので仕上げている. 建具はここにあったものを活用し、洗面台には箪笥を転用した.
建物の歴史に寄り添う手法は、新しく手を入れる部分と古いものとの「差異」にも表れている. 新規の木材は基本的に「赤身」に限定した. 一般的に入手しやすい「白太」の材が多く使われるが、「赤身」に厳選することによって新設部分と既存部分とがどことなくまとまった印象を生み出す. 「白太」によって新旧を対比させるのでも、「白太」を塗装することによって既存部分と無理に近付けるのでもない、調和と対比のゆらぎの上に空間の秩序を位置づけた.
ここを訪れた人が「古い部分と新しい部分の区別がつかない」と感じてもらえればこの試みはうまくいったのではないかと思う.
以下の写真はクリックで拡大します
以下、建築家によるテキストです。
三重県伊賀市の古い街並みに残る町屋をホテルの客室に改修する計画である.
徒歩5分ほどに位置するフロント棟で鍵を受け取った宿泊客は、街の雰囲気を味わいながらこの建物にたどり着くという「分散型ホテル」の形式をなしている.
敷地に建つ築180年程の建物群は時間の蓄積を感じさせるが、部分的に昭和時代のリフォームによって新建材で覆われており、建物内部は新旧がいびつに混在する状態であった.
今回「建物が生き生きと使われていた時代に戻していく」というホテルのコンセプトに基づいて建物の触り方を決めていった.
傾いていた蔵はジャッキアップすることによって補正し、コンロの下に隠れていたオクドさんは当時の暮らしを偲べるように展示した.
囲炉裏の煙抜きはリフォーム時に瓦で塞がれていたが、ガラス瓦に交換することによって半世紀ぶりに室内に光を落とした.
また新建材を剥がして現れたオリジナルの仕上げを出来るだけ残すと同時に、新設部分も既存の板材の再利用や、伊賀の土を用いた左官など、この場所にゆかりのあるもので仕上げている. 建具はここにあったものを活用し、洗面台には箪笥を転用した.
建物の歴史に寄り添う手法は、新しく手を入れる部分と古いものとの「差異」にも表れている. 新規の木材は基本的に「赤身」に限定した. 一般的に入手しやすい「白太」の材が多く使われるが、「赤身」に厳選することによって新設部分と既存部分とがどことなくまとまった印象を生み出す. 「白太」によって新旧を対比させるのでも、「白太」を塗装することによって既存部分と無理に近付けるのでもない、調和と対比のゆらぎの上に空間の秩序を位置づけた.
ここを訪れた人が「古い部分と新しい部分の区別がつかない」と感じてもらえればこの試みはうまくいったのではないかと思う.
設計者の資質は、空間とどれだけ対話ができるかということだと思っている.
新築の計画であれば敷地や周辺環境の声を聞き、それに応じて優しく語りかけること.
改修の計画であれば既存の空間を読み込み、どうすればその場所に喜んでもらえるかを熟考し答えを出すこと.
ヒットやホームランを打つことではなく、ボールの球筋を読んで正確にバットに当て、ほど良い位置にボールを転がすこと.
そのような送りバント的な役割によって塁に出て、このゲームを長く持続させることによって次なる街の展開につなげていくこと.
それが今回設計者に求められたことだったと思う.
■建築概要
建築名:城下町の客室
用途:宿泊施設
設計:きりん 武保学
施工:あづま工務店 東秀充、森本建築 森本雅行
造園:士土 金子達郎 金子周代
サイン・アートピース計画:やまほん設計室 山本忠臣
所在地:三重県伊賀市
建築面積:309.97 ㎡
延床面積:343.73㎡
構造:木造
階数:1階(母屋)、2階(蔵)
竣工年月:2020年10月
写真:山内紀人
種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) |
---|---|---|
内装・床 | 客室床 | 杉赤身フローリング(野地木材工業) |
内装・床 | ポーチ・通り土間床 | 大谷石貼(谷松石材) |
内装・壁 | ポーチ・通り土間・一部客室壁 | 伊賀土塗り(世良和也、福森重之) |
内装・照明 | 各客室リビング製作照明 | 真鍮、鉄、銅製(boul pondz 上田安伸) |
内装・造作家具 | 各客室リビング製作家具 | 檜、杉赤身製(Tickle27 細野佳恵) |
※企業様による建材情報についてのご意見や「PR」のご相談はこちらから
※この情報は弊サイトや設計者が建材の性能等を保証するものではありません