OSTR / 太田翔+武井良祐と村上郁が設計した、大阪市の、既存建物を改修した設計者の自邸「毛馬の住宅」です。写真家の大竹央祐が撮り下ろした、建築の改修前から竣工後までを一連の流れとして捉えた写真で紹介します。
建築家によるテキストより
様々な環境がひとつながりとなった空間の中で、日々考え、選択しながら住まう住居としました。
両隣と壁を共有しているため1階がとても暗く、50㎡程度しかない長屋に対して、床にいくつもの孔をあけ、立体的な広がりをつくっています。一部床が必要な箇所もルーバーにすることで面積と明るさを確保しています。
北側のファサードは、人通りが比較的少ない私道を内部まで引き込むような形で新たに大きな開口を設けました。小さな住宅ですが、住まい手の領域をまちにまで拡大するような感覚をつくりだしています。
全てを更新するのでも、 0か100で手を入れるのでもなく、既存と新たに手を加えたものがグラデーション上になるように検討していきました。既存の量産品クロス、ラワン合板、自分たちで施工したセラミックタイルや珪藻土、サイディングなど、いろいろな仕上げを試して小さいながらも情報量の多い空間とし、領域ごとの場所性を感じられる設えにしています。
写真家によるテキストより
この〈毛馬の住宅〉の設計者であり、施主でもある建築家の太田さん(OSTR)とは、彼が設計し運営している〈本庄西の現場〉というシェアオフィスで仕事場を共にしている。
その太田さんがこの物件を購入し改修をして住むというお話を伺ったとき、以前から建築が出来上がるまでの過程を見て建築について勉強したいと考えていたことに加え、工事中の現場風景に対して魅力を感じていたこともあり、建物の既存状態から竣工までの期間を通して撮影させてもらうことにした。
既存建物である長屋は丁寧に暮らされていた痕跡があり、照明のない空間に差し込む純粋な光は、どこか懐かしい当時の風景を感じさせた。
この風景がどのように変わっていくのか、その変化を撮っていくことで竣工時の撮影にどのような変化が起こるのか。
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OSTR / 太田翔+武井良祐と村上郁によるコンセプトテキスト
大阪の都心部から少し離れた淀川沿いの敷地にある、都市に住む夫婦のための住宅です。
様々な環境がひとつながりとなった空間の中で、日々考え、選択しながら住まう住居としました。
両隣と壁を共有しているため1階がとても暗く、50㎡程度しかない長屋に対して、床にいくつもの孔をあけ、立体的な広がりをつくっています。一部床が必要な箇所もルーバーにすることで面積と明るさを確保しています。
北側のファサードは、人通りが比較的少ない私道を内部まで引き込むような形で新たに大きな開口を設けました。小さな住宅ですが、住まい手の領域をまちにまで拡大するような感覚をつくりだしています。
全てを更新するのでも、 0か100で手を入れるのでもなく、既存と新たに手を加えたものがグラデーション上になるように検討していきました。既存の量産品クロス、ラワン合板、自分たちで施工したセラミックタイルや珪藻土、サイディングなど、いろいろな仕上げを試して小さいながらも情報量の多い空間とし、領域ごとの場所性を感じられる設えにしています。
現代の住宅のようなLDKを中心とした完結したプランではなく、リビングという空間を無くし、その分をお風呂や洗面スペース、寝室など「生きるための機能」に面積やコストを割いています。外と連続する場所は玄関でもあり、食卓になるときもあります。浴槽のある奥のスペースは夏のリビングとして使われたり、環境の変化を楽しむ住宅としました。
単なる改修ではない、ラグジュアリーな空間を住宅に内包させることで、日々の暮らしがアップデートされることを目指しました。 また、考える余地を残した「未完成」のような状態で留めることで、長い時間をかけてつくっていく豊かさがあるのではないかと思っています。
写真家・大竹央祐による建築写真についてのテキスト
この〈毛馬の住宅〉の設計者であり、施主でもある建築家の太田さん(OSTR)とは、彼が設計し運営している〈本庄西の現場〉というシェアオフィスで仕事場を共にしている。
その太田さんがこの物件を購入し改修をして住むというお話を伺ったとき、以前から建築が出来上がるまでの過程を見て建築について勉強したいと考えていたことに加え、工事中の現場風景に対して魅力を感じていたこともあり、建物の既存状態から竣工までの期間を通して撮影させてもらうことにした。
既存建物である長屋は丁寧に暮らされていた痕跡があり、照明のない空間に差し込む純粋な光は、どこか懐かしい当時の風景を感じさせた。
この風景がどのように変わっていくのか、その変化を撮っていくことで竣工時の撮影にどのような変化が起こるのか。
部材が一つ一つ解体され、空間を仕切るものが取り払われ、見えなかった景色が見えてくる。一瞬一瞬が更新され、もう元の状態には戻れない。その空間に建築家の想像した未知なる壁や床が付け足される。どこをどう解体して、どこまで仕上げていくのかを、太田さんは現場で検討していた。その隣で、そういった建築のワンシーンを竣工後の写真につながるように、彼らが暮らしている姿を想像しながら撮影していった。
その後、竣工時に改めて伺ったときに感じたのは、最後に見た工事中の空間の印象とそれほど変わっていなかったということだ。言い換えれば、それは未完結の状態と言えるのかも知れない。しかし、その未完結さが空間に流動性をもたらしているとも感じた。リビングがないということは聞いていたが、その代わりにダイニングであったり浴室や寝室と、用途のある部屋を不思議な空間が繋いでいた。
普段建築を撮る場合、用途によって分けられた空間同士をつなぐ関係性を撮影するのだが、〈毛馬の住宅〉にはその関係性を作る壁やドアはほとんどない。あるとしたらトイレの扉くらいだ。1階と2階を分け隔てているはずの床でさえルーバー状になっていて、全てが緩やかに続いている。2階の寝室までが一階の浴室と吹き抜けで繋がっていて、布による仕切りだけが空間の唯一の手がかりになっている。
この住宅では階段に座りテレビを見たり、玄関入り口の土間にテーブルを置けばそこはダイニングになる。つまり自分のいる場所がリビングになるのである。住まい手の営みの中に〈OSTR〉の考える建築の思想が表れていると考え、竣工のあとの生活風景まで撮影させてもらった。
竣工写真には完成した美しさが宿っている。しかし、そこには写らない、こぼれ落ちてしまうものもあると感じることがある。
施工中には施工者や設計者といった作り手が建築を行き来し、状態は常に更新され、時間が流れているさまがあり、また竣工後の生活の写真の中には、住まい手のそのときどきの振る舞いによって発見された機能が風景として垣間見える。体感的に、光に対して、空間に対して素直に反応して撮影していた。
そういった移ろいゆくもの、すなわち建築の現象を捉えることで「建築写真」というものの対象を広げられるかもしれない。そしてそれによって、これまで写真に写ってこなかった「建築」が捉えられる予感がする。
■建築概要
設計者:OSTR/太田翔+武井良祐、村上郁
工事:改修
用途:住宅
場所:大阪
設計期間:2020.01-03
工事期間:2020.04-07
階数:2階
建築面積:25㎡
延床面積:47㎡
施工:株式会社コムウト
家具:SMOL
fabric:jyu+
構造アドバイス:1050architects
写真:大竹央祐