SHARE 【シリーズ・建築思索360°】第1回 ツバメアーキテクツが語る“BONUS TRACK”と“建築思索”
「建築思索360°」は「360度カメラ RICOH THETA(リコーシータ)」と建築ウェブメディア「architecturephoto®」のコラボレーションによる特別連載企画です。現代社会のなかで、建築家として様々な試行錯誤を行い印象的な作品をつくる4組の建築家に、その作品と背景にある思索についてインタビューを行い、同時に建築・建設業界で新しいツールとして注目されているRICOH THETAを利用することの可能性についてもお聞きしました。さらに建築作品をRICOH THETA を用いた360度空間のバーチャルツアー「RICOH360 Tours」でもご紹介します。
「BONUS TRACK」は2020年春にオープンした、四つのSOHO棟と中央棟、そしてそれをつなぐ広場によって構成された、商店街のようなエリアです。ツバメアーキテクツは建物の設計だけでなく、設計前後の段階にも関わりました。この作品を中心に、ツバメアーキテクツの特色であるLABとDESIGNの2軸によるプロジェクトの進行方法や、それによって可能となることをお聞きしました。
*このインタビューは感染症予防の対策に配慮しながら実施・収録されました。
設計前のソフトづくりの段階からチームに参加
360度カメラRICOH THETA Z1で撮影・編集した画像データを埋め込み表示した、RICOH360 Toursの「BONUS TRACK」バーチャルツアー。画像内の矢印をタップすることで、空間を移動することができます。
——このプロジェクトに関わる背景から教えていただければと思います。
山道:「BONUS TRACK」は2004年に着工した小田急小田原線の連続立体交差事業と複々線化事業によって生じた、線路跡地の再開発プロジェクトの一つにあたります。
小田急電鉄では東北沢と世田谷代田駅間の全長約1.7㎞の空き地を「下北線路街」としていくつかの街区に分けて活用する計画を進めていました。
ここには現在、温泉旅館や保育施設、ユニークなコンセプトの教育施設など様々なコンテンツが入っているのですが、2018年の頭頃、「下北線路街」全体のマスタープランを担っているUDSと、この「BONUS TRACK」がある敷地について、枠組みづくりから行いました。
千葉:下北沢は区画整理が進まなかったが故に、細い路地が入り組みそこに小さな個人店が連なることによって特徴的なまち並みが形成されてきました。そうした環境が、演劇や音楽、古着といった、独特なカルチャーを根付かせ、多くの人に愛されるまちになっています。
しかし、人気が上がり開発の手が入ることによって家賃が高騰し、チェーン店が増え、こうした個性が失われつつあります。小田急電鉄は開発を進める一方で、こうした状況に危機感を感じており、まちを一変してしまう開発ではなく既存のまちを維持するための支援型の開発をコンセプトとしていました。
この場所はそうした背景から既存の商店街の風景を引き継ぎ、若者がチャレンジできるような環境をつくりたいというところからスタートしました。僕たちはこうした思いを実現するために、具体的に見えるかたちにすることを求められていました。
家賃と区画割りの複雑なパズルを解いていく
——ツバメアーキテクツ は、設計前後の段階に関わるLABと主に設計に携わるDESIGNの2部門をもっています。LAB業務としてまず業務を開始したということですよね。具体的にどのような作業からスタートしたのでしょうか。
西川:「BONUS TRACK」の敷地は当初駐車場となる予定だったそうですが、担当者の異動などによって一気に用途が転換したと聞いています。どんなものがあるとこの地域全体にとって良いのかということを軸に、ソフトの検討が始まった段階で我々もチームに加わらせていただいたという感じです。
若者が住みながら商いできる商店街というイメージに対して、打ち合わせを重ねていくうちにそのための裏付け、つまり若者が借りられる程度の賃料の設定や用途地域でそれが可能かという検討を行っていきました。
山道:まず関係者とともに、1区画15万円であれば若い人たちもチャレンジできる賃料だと目安をつけていきました。するとこの長屋を3分割すると、それぞれが1階が5坪、2階も5坪という基本形で15万円とすると採算が取れる。
規模的にも、ちょっとした雑貨屋さん程度のサイズ感のある店舗と、若者が一人で暮らせるぐらいの住居がセットでつくれるぐらいでちょうどいいとなって、この設定でいくことになりました。
またそれには、この用途地域で、そもそもそれが可能かという検討も必要でした。地面をデザインするように複雑なパズルを解いていくようなものでした。
千葉:敷地は、第一種中高層住居専用地域(下北沢側)と第一種低層住居専用地域(世田谷代田側)にまたがる場所に位置し、駅前の商業的な雰囲気から住宅地へと変わっていくエリアにあります。
第一種低層住居専用地域には純粋な商業施設はつくれないので、兼用住宅(商店兼住宅)とすることにしました。
山道が言ったように住みながら働くという職住一体のあり方は、若い人たちがチャレンジする環境にもマッチし、また住宅に商店を付随させた建築のあり方は周囲の住宅地の風景とも連続性を生み出します。
さらに接道が短手からしか取れなかったので、敷地を旗竿状に分割して四つに分け、その中で区画を増やすために長屋形式の建物としました。
以下の写真はクリックで拡大します
——ほかにLABとして受けていた業務はありましたか?
山道:設計の途中から、またLABの業務を行いました。建物のディテールを考える段階に関わるのですが、下北沢のまちを観察して、古着屋さんが路地に什器を出していたり、建物を改造しまくっているお店などを発見して、それ自分たちの設計に取り込むようにリバースエンジニアリングして、検討を重ねました。
具体的には共有の路地や中庭に看板や什器をはみ出させたり、庇や外壁の一部を改造したり、基礎がはね出してカウンターになってる部分の天板を変えていいなど、カスタマイズしてもいいというルール自体と建築のディテールを考えました。
企業が所有する新築の建物で、建物の性能が損なわれないかたちで自由度が高い状態をつくるという実験を、LABで考察したことになります。
千葉:それは業務としては内装監理というかたちで請け負っています。一般的な内装監理は、建物に傷を付けないように管理、制限をするためにあります。
しかしここではむしろ、改変を促すためのルールづくりを行い、入居する人とともにつくっていくことを目指しました。「どんなことでもしていいですよ」と言っても、自由すぎて困ってしまいます。
そこで下北沢のまちがどのように改変されているかを調べてまとめ、具体的なカスタマイズの事例を入居者に示しました。また、同時に小田急電鉄に対してこうした部分は手を加えてもらって良いのではないか、という区分を設定するためのスタディでもありました。こうした成果を内装監理指針書にまとめました。
西川:A3で50〜60ページくらいあります。たとえばこの建物では、建物の躯体とスチールの下地までが施主の所有物で、それより表層の部分はテナントが手を加えられる部分として、図面を色分けして明確化しています。
——そんなソフト部分の設計まで設計者が関わっていくことで、賑わいの創出が可能になる時代が来たのだなと思いますね。
西川:運営会社として全体をマスターリースしながら、自分たちもこの場所で店舗を構えている散歩社さんの存在もとても大きいです。丁寧にテナントと対話を重ねられている様子が外から見ていても伝わってきます。
散歩社さん、施主である小田急電鉄さんとは設計の早い段階から打ち合わせを重ね、工事が進むのと平行して対テナントさん向けの説明会を行い、建物が完成する前からそれぞれと考え方を共有することができました。
たとえば「BONUS TRACK」の広場には通常は設定されているリースラインがありません。設計としても、あえて領域がはっきり分かれないように、曖昧な線を描いています。使い方に応じて日々領域が動くことになりますが、それをポジティブにテナントさんが捉えているため、大らかで面白い空間が生まれているのだと思います。
——ツバメアーキテクツ では商業施設の設計の経験はあったのでしょうか。
山道:テナントとしてのインテリア設計はたくさんしていたので、内装監理指針書という建物固有・オーナー固有のルールブックがあることは知っていました。
「他人に迷惑を掛けない」「借りたところだけで何とかする」ということを法律のように設定しながら建物を維持する大変興味深いもので、いつかこれをデザインできたら建築も変わるだろうな、と感じていました。「撤退するときには残り香すら残すな」というシステムは、テナントが入れ替わるたびにまちのカルチャーをつくっていく部分を、ゼロにリセットしてしまう。
内装監理指針書をうまくつくり直すことができれば、コモンを育てるようなルールブックにできるはずだと考えていました。
自分たちが考えていることを実現するために、今回の内装監理指針書のような、世の中に既にあるものから何を選び取り、どう書き換えたらいいかを考えることが、LABの役割でもあるんです。
DESIGNと LABの2部門をつくる
——DESIGNとLABの2つのチームの両輪でプロジェクトを進める方法は、事務所設立の段階から考えられていたのでしょうか。
山道:ツバメアーキテクツ は2013年に僕と千葉、西川の3人で立ち上げて、今年の10月で9期目に入ったんですが、設立当初からそれは既にイメージしていました。建築学科に入りたてのときにレム・コールハースの講演会を見ることができて、OMAとAMOについて話を聞いたことも大きいかもしれません。
設計以外のいろいろなことから手を動かせるはずだという直感も働きました。ですから、実績もなかったのですが、最初に事務所を立ち上げたときから、ウェブサイトにはLABとDESIGNを謳ってたんです。
大学院の頃に東北の震災を目の当たりにすると、生きる条件を考えることから関わりたいなと思い、LABとセットで活動しようという実感につながりました。
DESIGNというのは、建築の設計やインテリアや家具のデザインなど、いわゆる設計事務所の職能のことです。
そしてLABでは、建築より前の段階、何が必要とされ何をつくったら良いかということを考えます。個別のプロジェクトの背後にどのような社会的な課題が隠れているか、ということまで踏み込みます。さらに建築よりも後の段階である、運用やメンテナンスなど建物がつくられたのちのデザインまで考えられないといけないのではと。そこでそういった建築前後のデザインをLABで担おうと考えました。
DESIGNとLABを行ったり来たりすることで、一つの建物や地域に関わり続けてどんどん良くしていくような、時間を掛けて場所に向き合う設計活動ができるんじゃないかとも思って。そんな意識で実験的なプロジェクトを試行していくなかで、「BONUS TRACK」ではDESIGNとLABを何往復かすることができました。
——いきなり大きなプロジェクトを手掛けられたという印象がありましたが、LABとしての実績を積まれていたわけですね。
山道:事務所設立当初には、当然、いきなりLAB業務を依頼してくれる人はいませんでした。新築の集合住宅の工事中にワークショップをしながら設計を変えていく「荻窪の多世代型集合住宅 荻窪家族プロジェクト」(2015年)が最初でした。当初は見積書の項目の出し方がよくわからず、クラウドファンディングで費用を捻出したこともありました。でもそういうことの積み重ねで徐々にLAB業務も増えていきました。
設計者の役割を限定しないほうが、社会にとってメリットがある
——LABとDESIGNは所内でどんなふうにチーム分けをしているのでしょうか。
山道:LABの専属スタッフというのはいません。どのプロジェクトでもLABの要素を必ず入れるので、担当スタッフと頭を切り替えながら、LABとDESIGNを連続的に担います。
千葉:「態度の表明」という意味が強いと思います。LABとDESIGNを切り分けておくと、クライアントもまだ何をつくればいいか決まってない段階で声を掛けてくれたりするので、設計の条件設定からプロジェクトに関われることが増えました。
LAB はその場所にある課題とは何かを発見する作業と位置付けていて、発見された課題、何をつくるべきかという設定を共有し、それをDESIGNにつなげていきます。
——同じ人間がLABとDESIGNの両方の作業からそれぞれフィーをもらうということに、難しさはないですか?
千葉:今のところはないですね。本格的なリサーチを委託してくれるのは企業が多く、その場合、設計とこうした枠組みづくりの予算は別で設定されていることが多いのです。もちろん、別々に設定された業務ですがコスト的にも質的にも同じ主体が担うほうがシームレスに取り組めるためメリットが多く、機運醸成にもつながります。
山道:我々としても、条件がすべて決まる前に関われるほうが創造的だと感じます。
——LABで設計の事前段階や事後段階に関わることで、クライアントなど設計者以外の関係者にとっても、さまざまなメリットがありそうです。
山道:建物ができた後の、メンテナンスや補修や掃除に掛かるコストは、使われる期間のトータルで考えると、じつは最初に建物をつくるとき数倍のお金が掛かるのです。ですからここで良いアイデアが実現できると、与えられる社会的なインパクトは建築設計よりも、じつは大きいかもしれません。
ですから設計者の役割を設計に限定せずに事前、事後と緩くつながるほうが、むしろ実験的なデザインができるとか、無駄なものをつくらなくて済むとか、人件費を別のこと活かせるなど社会にとってのメリットもあると思います。
時間や規制、枠組みなどを取り込み再考するのが「ソーシャル・テクトニクス・デザイン」
——凄く現実を見据えた方法だと思うのですが、どういうところから、それが湧いてきたのでしょうか。
山道:僕と千葉は東京工業大学の塚本由晴研究室、西川さんはY-GSAで都市を観察したり、都市と建築の関係を考えることを習ったので、対象が広がっていたのだと思います。
千葉:新しい空間の形式を発見することによって、コミュニティを形成したり、社会を変えていくという考え方に限界を感じています。建築単体での空間的な新しさだけではなく、今の建築を生み出しているメカニズムにも関わらなければならないと思っています。そうでないと、現存のフレームワークに従属したものしかつくれない。
山道:建築背後のメカニズムというのは、たとえば社会的な構造だったり、慣習、地域のしきたり、人々の振る舞いといったように、グラデーショナルに広がっています。
そんなふうに世の中を観察してメカニズムを探るというのは、大学で学んだリサーチの手法を活かせます。変数を変えれば結果が変わるという仕組みづくりは、かなり創造的な仕事だと思っています。
——アカデミックなトレーニングは、かなりLAB業務の下地になるように思えます。リサーチしてメカニズムを探り、仕組みを変えることで実空間が変わるという実績が、今後積み重なっていくでしょう。
山道:時間軸上の変化まで考えることで新しい建築をつくれるかもしれないですよね。
建築の時間には、いくつか種類がある。物理的で、経年変化などに対応した時間、減価償却や収支計画などの社会的な時間、使い方や賑わいなどのサイクルやリズムを伴う日常的な時間など。それらを横断的に考えることはとても面白いです。
——既存の建築の価値観のうえに、時代とともに変化するパラメータを取り込んでいき、建築の風景の変化まで設計されているということでしょうか。
山道:そうですね、2000年代は空間構成をトライアルする時代だったと思うんです。今はそこに時間的な変数や権利、枠組みなどが入ってきた。それを「時空間構成」というと仰々しいので、「ソーシャル・テクトニクス」と呼んでいます。プロジェクトの関係者の構成や、社会的な条件を再考するというのが、「ソーシャル・テクトニクス・デザイン」という感じです。
——DOMINO ARCHITECTSの大野友資さんが、六本木ヒルズ内のクリスマス・ツリー(「MY DEAR CHUNKY」2018年)を設計するときの話を聞きました。周辺環境を観察して作品にも反映させたと言っていましたが、その「周辺環境」として認識する対象が、たとえばまわりにあるブランドショップの種類にも及んでいて、捉える解像度が上がっていることを感じました。
山道:2000年代に千葉学さんとアトリエ・ワンが一緒に展示をしたことがありました。千葉さんは周辺の空地を観察して、敷地を超えてまわりとの連続をつくろうと考えていたり。アトリエ・ワンは場所にいる人の振る舞いを観察して、治具のように良いかたちで定着し直すということをしていました。両者に共通するのは「むしろこちらから都市空間にお節介を焼くんだ」というスタンスのようにも感じます。こういう実践の連続であるとも思います。
——80〜90年代には、安藤忠雄さんがドローイングで敷地を超えて自分の建築を描くということもありましたね。
山道:安藤スタイルは継いでいるところはあるかもしれません(笑)。LAB業務として、「BONUS TRACK」の敷地の外側にも設計の提案をしたところ、小田急電鉄さんに承諾をいただきました。
千葉:ル・コルビュジエも「ユニテ・ダビタシオン」をつくるために、住環境改善のためのデモの先頭に立って参加していたという話を聞いたことがあります。建築家は昔から、プロジェクトを生み出すための活動をしていたんだと思います。
——今後も「BONUS TRACK」には関わられるのでしょうか。
千葉:そうですね、内装監理室として、内装や建物に手を加える際にアドバイスをしたりしています。
山道:ほかには「BONUS TRACK」のある「下北線路街」で活動するコミュニティのための施設をいくつか設計しています。やはり小田急電鉄がお施主さんですが、ツバメアーキテクツも「BONUS TRACK」脇に建てられる小さなビルを設計し引っ越す予定です。
それで、1階でドーナツ屋を運営しようと計画してます。これもLABの活動と捉えてます。地域の人と接点をもつことで微細な情報や、面白い兆しを見つけたりできるんじゃないかと。
あとドーナツをつくって売るだけでなく、店内をギャラリーに見立てようかなとか。音楽やアートなどの活動をしている人に働いてもらって表現の場とすると、顔の見えるギャラリーとなって面白いんじゃないかというアイデアもあります。新しい建築のプログラム開発にもつなげたいと思ってます。
千葉:設計事務所が一つの建物に関わり続けられる機会はなかなかないことですから、これを活かして、設計後の段階で何ができるか、試したいと思っています。このエリアでもっと仕事が展開していけるかもしれないですし、設計以外のことで関われることも、あるかもしれませんね。
西川:「BONUS TRACK」は商店街でもあるのですが、人と人が学び合う場所になっているのが面白いと思っています。シェアキッチンで子ども向けの料理教室が開かれた際は今まで扱ったことのない食材を子どもと一緒にさばいてみたり、植栽管理を行う下北線路街園芸部のイベントでご近所の花屋さんとリースづくりをしたり。
使う側の視点になって気がつくことや、季節ごとの植物の成長など、建物竣工後に学ぶことがたくさんあります。事務所が近くに越してきたら、建築だけでなく、さらに暮らしについて考えるきっかけが生まれることを楽しみにしています。
360度カメラRICOH THETAを設計者が使いこなすには
——今回の連載企画では、360度カメラRICOH THETA(リコー シータ)を設計者が利用することの可能性についても、(株)リコーTHETA マーケティング担当の平川さんと一緒にお聞きしたいと思っています。事前に「BONUS TRACK」をTHETAで撮影し、360度画像を活用したリコーのクラウドサービス、RICOH360 Toursでバーチャルツアー化してみましたが、画像をご覧になっていかがでしょうか?
RICOH THETA Z1で撮影した360度画像。
山道:構図が迫力ありますよね。こういう屋外空間の撮影には、青空が映えるし、相性が良い気がします。テントや軒下を下から見上げた様子もわかるし、情報量が多いので、見ていて楽しいですね。
西川:BONUSTRACKの植栽は、山から木を選んでいるので枝振りが豊かなものが多いのですが、広場に枝があふれ出すような立体感がスチール写真よりもよく表れているように感じます。
リコー平川:THETAはもともとご存知でしたか?
山道:僕らが普段、インテリアの施工をよくお願いしている工務店が、現場の進捗管理や情報共有に THETA で撮影した画像を頻繁に活用されてるので、よく知ってました。現場の進捗状況の共有のため、僕らにも撮影された360 度画像が Google photo などでどんどん送られてきます。
360度画像だと1枚で隅々まで撮れるから、撮り逃しがなくなるので良いんですよね。現場監督も、その場でチェックできなかったところを、後から見直して状況を把握できて、重宝しているようです。
とくにコロナ禍になって直接工事現場に行けなくなったとき、監督が毎日のようにTHETAで撮った現場の360度画像を送ってきてくれたおかげで、工事が円滑に進んでかなり助かりました。
リコー平川:昨年からのコロナ禍の影響で、実際に足を運ばなくても遠隔で現場の状況を確認するためのツールとして、とくに建設業界で世界的に使っていただく機会が増えています。
山道:そうなんですね。だから僕たちも馴染みはあったし、便利なのはわかっていたのですが、荷物が増えるのが嫌なのと、スマートフォンのカメラ機能でなんとか足りてしまうので、なんとなく使わないでいたんです。
リコー平川:今回、実験的にRICOH THETA SC2をご利用いただきましたが、どんな印象でしょうか。
山道:工事現場だけでなく、設計前の敷地や物件調査にも使えると便利だなと思って、今回、リノベーションする予定の町屋の現場調査に使ってみました。ただ、改修前で電気が通っていなかったので、暗すぎてうまく映らなくて。明るい一般的な現場なら活躍してくれると思いました。
設計者ではなく、施工者だと、もともと現場に自動車で乗り付けるし、一日中じっくり現場を見て回ることができるから、現場に三脚やストロボなども持ち込んで、THETAの機能をフルに使いこなせると思うんです。ただ設計事務所は、A3ファイルケースやらPCやらを持ちながら、現場をハシゴして動き回るから、荷物はできるだけ少なくしたい。
現場で打ち合わせしてその後、職人さんたちが作業を再開するときに改めてカメラをセッティングするというのも、心理的ハードルが高い。機動性がすごく大切なんです。
リコー平川:なるほど、参考になります。THETA Z1という一型センサー搭載の上位機種であれば、夜間など暗所の撮影にも向いているため、もう少しきれいに撮影できるかもしれません。海外の建設業界でもよく利用されているモデルです。
ただ、床下や天井裏などの現調時など、電気がない真っ暗なシーンでも撮影できるようなTHETA専用ライトのご要望はよく受けます。
ご意見は今後の開発に活かしたいと思います。ご利用いただき、どうもありがとうございました。
(企画・インタビュー:後藤連平・矢野優美子/文章構成:矢野優美子)
山道拓人(さんどう たくと)
1986年東京都生まれ。2011年東京工業大学大学院理工学研究科建築学専攻修了後、2012年ALEJANDRO ARAVENA ARCHITECTS/ELEMENTAL(チリ)、2012~13年Tsukuruba Inc.を経て、2013年ツバメアーキテクツを千葉元生、西川日満里と共同設立。2018年同大学大学院理工学研究科建築学専攻博士課程単位取得満期退学。2021年より法政大学 デザイン工学部建築学科 山道拓人研究室主宰、江戸東京研究センター プロジェクトリーダー。
千葉元生(ちば もとお)
1986年千葉県生まれ。2009年東京工業大学工学部建築学科卒業後、2009~10年スイス連邦工科大学留学。2012年東京工業大学大学院 理工学研究科建築学専攻修了後、慶応義塾大学システムデザイン工学科テクニカルアシスタントを経て、2013年ツバメアーキテクツを共同設立。2021年から東京大学非常勤講師。
西川日満里(さいかわ ひまり)
1986年新潟県生まれ。2009年お茶の水女子大学生活科学部卒業。2010年早稲田大学芸術学校建築設計科修了。2012年横浜国立大学大学院建築都市スクールY-GSA卒業。2012~13年CAt(Coelacanth and Associates)勤務を経て、2013年ツバメアーキテクツを共同設立。2021年より早稲田大学芸術学校准教授。
■建築概要
BONUS TRACK
設計:ツバメアーキテクツ 担当/千葉元生・西川日満里・山道拓人
用途:兼用住宅・商業施設
所在:東京都世田谷区代田2丁目36番15号
工事種別:新築
構造・規模:木造・地上2階建
延床面積:907.4㎡
事業主:小田急電鉄
運営:散歩社
用途地域:第一種中高層住居専用地域/第一種低層住居専用地域
工期:2019年4月〜2020年3月