竹中工務店が設計した、大阪・高槻市の「コニカミノルタ高槻サイト / Innovation Garden Osaka Center」です。
企業の開発と事業創出の中核となる施設です。建築家は、現代オフィスに必要な“非均質”を目指して、平面をずらし積層させ動線機能を散逸配置し偶発性のある空間を構築しました。また、短工期での理想の実現を求めて“改修するように新築する”方法を実践しました。
Innovation Garden Osaka Centerは、コニカミノルタの関西エリアにおける画像IoT/AI開発と事業創出のハブとして計画された。
目指したのは、非均質な環境の中、一人一人が移動し居場所を選択することを通して、新たな関係が動的かつアジャイル的に生成されるセレンディピティーに溢れたABW(アクティビティー・ベースド・ワーキング)の実践である。
長さ120m×30mの細長い平面は、階段やEVをバラバラに配置することで、廊下(=経路)のない自由な人の往来を実現し、ずらして積層した断面は、周辺住宅へのプライバシーに配慮しながら、豊かな自然環境を享受できる多様な外スペースを生み出している。
ここでは、建築の構成によって生まれた場の濃淡が、「人」×「自然」×「情報」の交感を促し、企業の求めるイノベーション創出に貢献できればと考えた。
設計期間5.5か月。施工期間11.5か月を合わせても17か月(約1年半)のスピードプロジェクトである。個別の課題を整理・分析し、事業主の想いをかたちに昇華するには、あまりにも設計期間が足りなかった。
そこで我々は設計を完了してから施工に着手するといったバトンリレー方式ではなく、設計と施工が一体となって、躯体、外装、内装といった仕事のまとまり毎にアジャイル的に対応しようという戦略を立てた。最初に様々な変更に対応できる冗長性の高い駆体を計画し、資材を調達し工事に着手する。そのあとは改修工事のように、工事期間中に、外装や内装を部屋の使い方と合わせてギリギリまで検討し、順番に設計し施工をしていくという戦略だ。
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以下、建築家によるテキストです。
人×自然×情報が交感するプラットフォームとしての建築
Innovation Garden Osaka Centerは、コニカミノルタの関西エリアにおける画像IoT/AI開発と事業創出のハブとして計画された。
目指したのは、非均質な環境の中、一人一人が移動し居場所を選択することを通して、新たな関係が動的かつアジャイル的に生成されるセレンディピティーに溢れたABW(アクティビティー・ベースド・ワーキング)の実践である。
長さ120m×30mの細長い平面は、階段やEVをバラバラに配置することで、廊下(=経路)のない自由な人の往来を実現し、ずらして積層した断面は、周辺住宅へのプライバシーに配慮しながら、豊かな自然環境を享受できる多様な外スペースを生み出している。
ここでは、建築の構成によって生まれた場の濃淡が、「人」×「自然」×「情報」の交感を促し、企業の求めるイノベーション創出に貢献できればと考えた。
theme1: 選択性の高い非均質な場をつくる —離散集合の新たな形式としてのオフィスへ—
従来のオフィス空間は、見通しが良く管理し易すいことや、効率的に移動できることなど、「均質」であることが価値であった。しかし、大容量の通信環境が整備され、場所を選ばすオンラインで仕事や業務管理ができるようになった今、リアルなオフィス空間に求められる価値が変化した。
今まで当たり前だったFace-to-Faceでの共同作業が価値として見直されたことはもちろん、一人で過ごす時間や、ちょっと隠れたところで作業ができたり、ぶらぶらと歩きながら仕事の性格に応じてスペースを選択できることなど、見通しの悪いこと、動線が長いこと、「非均質」であることが価値に転換した。働くことが、かつてのように場所に固定されることなく、朝起きてから寝るまでの一日の生活のフローの中で位置づけられるようになったのである。
ここでは「非均質な選択性の高い場」を準備することで、アジャイル開発により新たなイノベーションを生み出す拠点として、人が離散集合するオフィスという場の価値を空間側から支援したいと考えた。
具体的には、家具やインテリアデザインに頼らず、「配置」、「平面」、「断面」といった建築的な方法により環境の斑(=非均質性)を創り出し、空間を仕切らず、不均質なまま連続させる。セキュリティー、チームの編成、様々な勤務体系、個人の快適域に応じて、新たな関係性がアジャイル的に生成される、冗長性とセレンディピティ―に溢れた新たなオフィスの形式である。
配置=リニア
線路に沿って東西に長く伸びる約120m×30m(縦横比4:1)のリニアな平面は、面積に対する外周の割合を高めることで、多くの外部環境を内部に取り込み、人々の内と外との交換の機会を高める。ここでは、既存棟の立つ南側を高断熱の壁として、北側に開口を開くことで、昼光利用と高い環境性能(CASBEE_Sクラス(BEE=3.4),ZEB-Oriented相当(BEI=0.58))を実現している。
線路から離隔をとることで電車騒音の距離減衰を図り、既存建物のファサードを覆うヴォリュームは、電車の窓から見える企業のイメージを一新させる。線路の土手との間には広々とした芝生の運動スペースを配置し、ワーカーの健康増進を図っている。
平面=分散コア
経済合理性とフレキシビリティーを兼ねそろえた12.6m×10.8mの均質な柱スパンの中、3台のエレベーター、3つの階段、トイレをそれぞれ分散して配置することで、非対称な、廊下の無い(=経路を固定化しない)平面とした。ワーカーは長く引き伸ばされた見通しのきかない平面を、自然の中を散策するように歩き回る。
また、柱梁や設備配管がむき出しな生産施設のような空間の中、人々が集まる最も小さな単位である会議室と、最も大きな単位である屋外スペースに同じ木仕上を施すことで、プライベートとパブリックが反転し、空間が裏返ったような印象を与えている。
明/暗、開/閉、遠/近、公/私といった様々な空間の対比がグラデーション的に拡がる平面の中、人々はそれぞれの気分やタスクと波長を合わせるように場を選択できる。
断面=ずらした積層
均質な柱グリッドに対して、階ごとに輪郭を変化させることで、周囲の環境とシームレスに応答する非均質な内外の関係をつくりだす。各所で発生する、時間の流れや、季節の変化を感じられるような自然との応答は、今ここに存在することのリアリティーを与えてくれる。
彫の深い軒や閉鎖的なバルコニーは、線路向こうの住宅地に対するプライバシーへの慎重な配慮でもあるが、落ち着いた個室のような外スペースは、外ワークの実効性を高める。また、北面から東西面にかけて連続する長さ180mの大水平連窓は、4つのフロアで全く異なる景色を室内に導入し、垂直移動に伴い場面(気分)が転換する効果も生み出している。
ここに集まる人々は、小さな部屋に閉じ込められることなく、立体的に構築されたセキュリティーラインの中、内/外、明/暗、動/静、開/閉といった性格の異なる場を散策するように居場所を見つけて一日を過ごすことができる。分散コアのリニアなプランにおいては、今まで非効率とされていた移動時間が、馬上・枕上・厠上というように、思索にふけり、新たな出会いや発見を生み出す有益な時間となる。
このオフィスは、イノベーションを加速させるためのアジャイル開発のプラットフォームとして、均質から非均質へ、もしくは、情報ネットワークの発達によりようやく空間の拘束から自由になった、一人一人の身体をベースとした離散集合の新たな形式としてのオフィスの提案である。
theme2: 改修するように設計する —アジャイル方式による建設プロセス—
設計期間5.5か月。施工期間11.5か月を合わせても17か月(約1年半)のスピードプロジェクトである。個別の課題を整理・分析し、事業主の想いをかたちに昇華するには、あまりにも設計期間が足りなかった。
そこで我々は設計を完了してから施工に着手するといったバトンリレー方式ではなく、設計と施工が一体となって、躯体、外装、内装といった仕事のまとまり毎にアジャイル的に対応しようという戦略を立てた。最初に様々な変更に対応できる冗長性の高い駆体を計画し、資材を調達し工事に着手する。そのあとは改修工事のように、工事期間中に、外装や内装を部屋の使い方と合わせてギリギリまで検討し、順番に設計し施工をしていくという戦略だ。
まず、鉄骨歩掛が最小になるスパン(ここでは12.6m×10.8m)を導き出し、梁成は、大梁・小梁共700㎜に統一した。2階以上はキャンチレバーにより跳ね出すことで、基礎工事も最小化する。
床に段差を設けずコンクリート天端をFL-300㎜に統一し、防水が必要なテラスや厨房範囲は事後自由に設定できるようにした。梁成も共通なので梁貫通の自由度が増し設備計画にも冗長性をもたらすことができる。最初に様々な変更に対応できる冗長性の高い駆体と環境性能の高い「ガランドウ」を設計し着工を迎えた。
工事期間中も様々な分科会を立ち上げギリギリまで議論を重ね、部屋の使い方やレイアウトなど詳細な設計を進めた。実際、コロナの直撃を受けたプロジェクトだったので、会議室の大きさや個数、執務空間のレイアウトは、大々的に見直すこととなった。
ピカピカの新築物件にも関わらず、改修物件のように設計することで、5.5か月の設計期間は、施工期間も含めると1年半確保できる。躯体→外装→間仕切(内装)を順番にやっつけていくこのプロセスは、設計工程―申請工程―発注工程―工事工程が連動した、見たことのない工程管理を設計者―施工者―事業主が三位一体となって実践した成果であった。
期中、会議している隣で鉄骨がリアルに立ち上がってくると、事業主からもっとこうしたい、こんなことが出来ないかと新たな要望が次々に生まれてきた。しかし時間的な理由や予算の都合により、次年度以降に実施しようという項目がいくつもあった。
後で気づいたことだが、着工時に完成形を描ききらないアジャイル的なプロセスにおいては、竣工時の明確な完成形も存在していない。そこには、竣工したものを維持管理するのではなく、果てしないチューニングとアップデートが実施されていく積極的な更新システムが内包されているのだ。「改修するように新築する」という戦略は、竣工をピークとせず、時間に寄り添って積極的に変わっていこうという姿勢の表明でもあったのだ。
■建築概要
名称:Innovation Garden Osaka Center
所在地:高槻市桜町
用途:事務所
階数:地上4階
構造:S造
設計:竹中工務店
建築設計:米津正臣、三田村聡、天野直紀
構造設計:鈴木直幹、田中健嗣、吉村純哉
設備設計:粕谷敦、小林佑輔、小林直樹
グラフィックデザイン:廣村デザイン事務所
敷地面積:19,781.69㎡
建築面積:3,878.45㎡(建蔽率:38.32 %)
延床面積:11,897.71㎡(容積率:107.84 %)
竣工年月:2020年8月
撮影:Nacasa & Partners Inc. NAKAMICHI ATSUSHI、フォトアトリエF 古川泰造