SHARE 坂口舞+井佐子恵也 / 設計機構ワークスによる、長崎・波佐見町の店舗「花西海」。生花店の建替え計画。働き易く地域に愛される職人技術を活かした建築の要望に、地元産の“茅・土・石”を用いた手仕事が断面方向に重なる空間を考案。伝統の更新と未来への接続も意図
坂口舞+井佐子恵也 / 設計機構ワークスが設計した、長崎・波佐見町の店舗「花西海」です。
生花店の建替え計画です。建築家は、働き易く地域に愛される職人技術を活かした建築の要望に、地元産の“茅・土・石”を用いた手仕事が断面方向に重なる空間を考案しました。そして、伝統の更新と未来への接続も意図しました。店舗の公式サイトはこちら。
このプロジェクトは毎年4~5月に陶器まつりが開かれ、多くの観光客で賑わう長崎県波佐見町にある花屋店舗「花西海」の建替計画である。
運営する企業は西海園芸。オーナーは貸植木屋からはじめた父親の家業を花屋と庭人として引継ぐ、山口勇介(花西海を主宰)と山口陽介(庭西海を主宰)兄弟。地域に根づきながら、世界中をかけまわり日本の庭の魅力を発信している。
「スタッフが働きやすく、地域の人に愛される空間になること(花西海の要望)」、「職人仲間の相良育弥(茅葺職人)、都倉達弥(左官職人)の技術を活かす建築とすること(庭西海の要望)」の2つを主に求められた。
打ち合わせと提案を重ね、「庭・左官・茅」の3つの手仕事が断面方向に重なる最終案にて決定した。石積みの外構の上に、方立なしのガラスを介して、軒の茅葺が浮遊し、背景の山の緑に同化してゆく建築を、RCとCLTの混構造によって実現した。
朽ちた藁は肥料とし、土に還り、その土でまた外壁を塗り重ね、再び、地元の小麦わらで葺きかえる。地域とともにある建築の1つの姿ではないだろうか。「とき、素材、文化や技術」が循環し、伝統をアップデートすることで未来へと繋いでいく。
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以下、建築家によるテキストです。
このプロジェクトは毎年4~5月に陶器まつりが開かれ、多くの観光客で賑わう長崎県波佐見町にある花屋店舗「花西海」の建替計画である。
運営する企業は西海園芸。オーナーは貸植木屋からはじめた父親の家業を花屋と庭人として引継ぐ、山口勇介(花西海を主宰)と山口陽介(庭西海を主宰)兄弟。地域に根づきながら、世界中をかけまわり日本の庭の魅力を発信している。
「スタッフが働きやすく、地域の人に愛される空間になること(花西海の要望)」、「職人仲間の相良育弥(茅葺職人)、都倉達弥(左官職人)の技術を活かす建築とすること(庭西海の要望)」の2つを主に求められた。
打ち合わせと提案を重ね、「庭・左官・茅」の3つの手仕事が断面方向に重なる最終案にて決定した。石積みの外構の上に、方立なしのガラスを介して、軒の茅葺が浮遊し、背景の山の緑に同化してゆく建築を、RCとCLTの混構造によって実現した。
計画
中央部、芯-芯5000mmで据えられた4本の400mm角RC柱のみで90mm×1500mm×11800mmのCLT井桁格子の梁を支える構造により、外周部を含めてそれ以外の構造は不要で、将来的な間取り変更を容易にできる。
また、梁と屋根床板のCLTは国内最大生産寸法の3000mm×12000mmを活かし切って、生産立米と使用立米にほぼ差がない計画とした。平面形もCLTのサイズにより導き出し、11800mmの正方形とし、そこから軒を全周1600mm 出して、外形15000mm の正方形の屋根を乗せた構成をとっている。
内部空間は花の種類によって温度、湿度管理が異なるため、決して広くはない店内に「温室」、「胡蝶蘭」、「冷蔵庫(フラワーキーパー)」の3区画をガラスで区切ることで、売場のどこにいても外まで視線が抜ける開放感を作り出した。
材料
店舗に使用した茅・土・石などの素材はいずれも地域のものである。
茅葺きの材料は地元の農家に協力してもらい、施工の1年前から西海園芸のスタッフが小麦わらを1町分(約1万㎡)の田んぼから集め、選り分けて神戸の茅葺職人・相良育弥氏が1ヶ月かけて葺いていった。波佐見にはかつて茅葺屋根の住宅が多くあったが今は無く、近年では廃棄されることが多い収穫後の茎の部分を使用している。
外壁の土壁や内部の左官は波佐見の山から掘り出した土や陶石の粉を調合し、東京の左官職人・都倉達弥氏が丁寧に塗り重ね、内部には福岡の家具職人・蔵谷亮介氏が製作した240本ものナラ材を1本1本、手仕事でアールをつけた重厚かつ、表情豊かなカウンターが空間を引きしめる(都倉氏が研ぎ出し天板を施工)。
外構に見事に積まれた石も特別な材料ではなく、波佐見の砕石場のもので、隣接する版築の小屋との間には、流れ、音まで計算された人工の川が流れる。オーナーでもある山口陽介氏率いる庭西海の職人総出で表現された庭は時間を忘れるほどの心地良さが漂う。
「ありふれた地元の材料でも職人がちゃんとした技術によって表現すれば、かっこいいものができることを示したかった」と山口氏は言う。
朽ちた藁は肥料とし、土に還り、その土でまた外壁を塗り重ね、再び、地元の小麦わらで葺きかえる。地域とともにある建築の1つの姿ではないだろうか。「とき、素材、文化や技術」が循環し、伝統をアップデートすることで未来へと繋いでいく。
この時間軸を包含した「花西海」が地域や時代を超えて愛される場所になることを願っている。
■建築概要
作品名:花西海
設計:有限会社設計機構ワークス
担当:坂口舞 井佐子恵也
所在地:長崎県東彼杵郡波佐見町折敷瀬郷1661
主用途:店舗(花屋)
施工:株式会社上山建設 上山誠 監督/琴野広樹
構造設計:黒岩構造設計事ム所 黒岩裕樹、植田優子
造園設計・工事:有限会社西海園芸 庭西海、山口陽介
茅葺工事:くさかんむり 相良育弥
左官工事:左官都倉 都倉達弥
家具製作:nomade design 蔵谷亮介
ロゴ・サイン:光画デザイン 古賀義孝
屋根工事:株式会社太陽 堀越裕二
ガラス工事:株式会社亀屋硝子 河野晋二
照明:株式会社modulex 小山良平、塚本洋子
CLT:銘建工業株式会社 三嶋幸三
階数:地上1階、地下1階
敷地面積:607.01㎡
建築面積:163.84㎡
延床面積:156.65㎡
構造:RC+CLT
設計:2019年7月~2021年9月
工事:2021年10月~2022年3月
竣工:2022年3月
写真:石井紀久
種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) |
---|---|---|
外装・屋根 | 屋根 | |
外装・壁 | 外壁 | 木ずりt=12mmの上、土壁t=15mm(波佐見の山の土) |
外装・建具 | 開口部 | アルミ建具:ロンカラーフラッシュ戸、フロンテック100(LIXIL) |
外装・その他 | 基礎立上部 | 塗膜防水の上、盛り土砕石積 [波佐見の砕石場の石] |
外装・その他 | 軒裏 | uc2 造用合板t=15mmの上、茅葺きt=200mm [波佐見の田んぼの小麦わら] |
内装・床 | 床 | コンクリートの上、モルタルt=20mm 撥水剤塗装 |
内装・壁 | 壁 | コンクリート打放し |
内装・天井 | 天井 | CLT スギ t=90mm [S60 3-3](銘建工業) |
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