SHARE 後藤周平建築設計事務所による、静岡・浜松市の美容院「onde」。地域性が残る住宅街に計画。“美容院にみえない”空間という要望に、周囲を様々に反射する“鏡らしくない”鏡を考案して屋号とも呼応する揺らぎのある空間を構築。未来を想像し再移転の可能性を考慮した設計も志向
後藤周平建築設計事務所が設計した、静岡・浜松市の美容院「onde」です
地域性が残る住宅街に計画されました。建築家は、“美容院にみえない”空間という要望に、周囲を様々に反射する“鏡らしくない”鏡を考案して屋号とも呼応する揺らぎのある空間を構築しました。また、未来を想像し再移転の可能性を考慮した設計も志向しました。店舗の公式サイトはこちら。
浜松市の郊外、佐鳴台にある賃貸テナントを美容院とする計画である。
佐鳴台は、佐鳴湖の周辺に広がる住宅街であり、比較的規模の大きな住宅が建ち並ぶエリア。車社会でショッピングモールが建ち並ぶ浜松の中で、小さな規模の個人店舗や雑貨店等が点在するという、地域性を残した場所である。
クライアントは、この佐鳴台で9年間、同名の美容院を経営し、スタッフの増員による広さの問題から、同エリアでの移転を希望した。そして、テナント探しから一緒にプロジェクトを進めていくことになった。テナントに関するクライアントの要望は、住宅街に近い土地柄で、徒歩で来るお客さんも多いため、なるべく今の店舗から離れないこと、ある程度の広さがあること、この2点であった。
場所を限定すると、テナントの選択肢はかなり限られることとなり、既存テナントの空間的なポテンシャルを選り好みするのは難しくなる。また今後、さらなる規模の拡大で、再移転もあり得ると考えた時、既存テナントの状況に依りすぎないデザイン、また、再移転の際に、お店の空間的なイメージを引き継げるよう移設可能性を考慮したデザインにしたいと考えた。
クライアントからの空間に関するほとんど唯一の要望として、「美容院に見えないような美容院にしたい」というものがあった。美容院らしさを示すものとして、まず思いつくのは鏡だろう。必然的に鏡をどう扱うかがこの建築の主要なテーマとなった。
加えて、長らく使い続けられてきた美容院の屋号「onde(波紋)」もコンテクストとして捉えたデザインを目指した。名前から連想する、水面のような静けさと、波紋のような小さな揺らぎを、空間化することによって、店舗の持つイメージと空間の印象の統合を試みた。
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以下、建築家によるテキストです。
浜松市の郊外、佐鳴台にある賃貸テナントを美容院とする計画である。
佐鳴台は、佐鳴湖の周辺に広がる住宅街であり、比較的規模の大きな住宅が建ち並ぶエリア。車社会でショッピングモールが建ち並ぶ浜松の中で、小さな規模の個人店舗や雑貨店等が点在するという、地域性を残した場所である。
クライアントは、この佐鳴台で9年間、同名の美容院を経営し、スタッフの増員による広さの問題から、同エリアでの移転を希望した。そして、テナント探しから一緒にプロジェクトを進めていくことになった。テナントに関するクライアントの要望は、住宅街に近い土地柄で、徒歩で来るお客さんも多いため、なるべく今の店舗から離れないこと、ある程度の広さがあること、この2点であった。
場所を限定すると、テナントの選択肢はかなり限られることとなり、既存テナントの空間的なポテンシャルを選り好みするのは難しくなる。また今後、さらなる規模の拡大で、再移転もあり得ると考えた時、既存テナントの状況に依りすぎないデザイン、また、再移転の際に、お店の空間的なイメージを引き継げるよう移設可能性を考慮したデザインにしたいと考えた。
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クライアントからの空間に関するほとんど唯一の要望として、「美容院に見えないような美容院にしたい」というものがあった。美容院らしさを示すものとして、まず思いつくのは鏡だろう。必然的に鏡をどう扱うかがこの建築の主要なテーマとなった。
加えて、長らく使い続けられてきた美容院の屋号「onde(波紋)」もコンテクストとして捉えたデザインを目指した。名前から連想する、水面のような静けさと、波紋のような小さな揺らぎを、空間化することによって、店舗の持つイメージと空間の印象の統合を試みた。
具体的には、美容院の空間要素を象徴し、最も重要な存在である“鏡”のあり方を変化させることで、目的を達成しようとした。“美容院にみえない”ことを実現する為に、一般的に想起される鏡とは異なるものとする。そして、同時にその鏡を、周囲の風景やインテリアなどに少しずつ変化を与える存在にする。 様々な検討を経て、鏡“らしさ”を消すと共に空間全体に意味を波及させ、揺らぎを与えるようなものとするため、反射面が90度ずつずれながら立体的に展開する、数珠繋ぎのような構成を考案した。
各面はミラーガラス、ステンレスヘアライン、同鏡面、合板ウレタン全ツヤ塗装など、周囲を柔らかく反射するような素材、仕上げとすることで、美容院の鏡という強い記号性が薄れ、水面のように静かな空間が生まれる。しかしそれぞれが、外の景色や、内部のインテリアと人などを様々な方向や表情で映し出すことで、周囲に反射像をつくり、そこに余白としての小さな空間がいくつも生まれる。そして、それが連鎖することで、“波紋”のように空間に揺らぎを与える。 そして、もし新店舗に移転することになったとしても、この鏡を新しい空間に移設することで、同じ効果を生み出すことができる。
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また、本建築「onde」は、以前設計した「Aの墓石」、「CODO」、「Blue house/Blue office」の延長線上にあるデザインと言える。これらの建築は、どれも「積層と差異」という手法で作られた建築であるが、これまでの“水平面の重なりとずれ”を一部垂直面に置き換えて、鏡、間仕切り、本棚、備品収納など、ドレッサーに求められる機能に対応している。
「CODO」においては、ボックスを重ねてずらし差異を作る事で、機能的であるが、一見しただけでは機能を想像できない状態を意図的につくった。そして、それにより使う人たちの創造性を引き出す事を意図した。 「onde」の家具においても、一見するとそのデザインは、プロダクトというより彫刻の様な佇まいで、その機能は想像しづらい。
しかし、実際には、其々の部分が役割を担う様に考えられている。 このような状態に意図的にデザインすることで、建築に必要な“創造的空間性”と“機能的合理性”を、バランスよく両立させることができるのではないかと考えている。静的な状況をつくりそれを意図的に崩していくとも言える“積層と差異”という手法は、この状態を生み出す方法論だと考えている。
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内装全体の設計に関しても解説したい。元々は飲食店として建てられ、30年で様々な使い方をされてきた既存テナントの、既存の下地や枠、建具などをなるべく生かし、それらの素材のコントラストを抑えるように、仕上げ材や配色を決めている。
例えば、既存サッシの白から床のモルタルのグレーまでの間を、中間色で塗装してコントラストを抑えるようにする、透過性の高い淡い色のカーテンを設置するなど、既存をベースにしつつ、静かで柔らかな印象の空間になるよう調整している。それによって、特徴的なデザインの鏡が、空間の中で重要な意味を持つ存在となっている。空間の中で、主役と脇役を明確に設定することで、その空間的効果を最大化することも意図した。
また本プロジェクトでは、賃貸テナントであることと、将来的な再移転を考慮に入れ、移動可能なもの−ドレッサー−と、移動不可能なもの−天井、壁、床など−の違いを意識しながら、形状、予算配分などを考えていった。移動可能なドレッサー(鏡)に関しては全体予算に対して比較的コストを掛け、移動不可能なものは相対的にコストを抑えるように計画した。そうすることで、再移転の際にドレッサーも一緒に移設することで、これまでの店舗のイメージを引き継ぐことができる。空間イメージの大きな部分を移動可能な家具が担うことはメリットが大きいと考えた。
建設費の高騰、省資源化の要請など、昨今の建築を取り巻く社会状況によって、デザインを生み出すことだけでなく、デザインの終わりについて考えることが多くなった。リノベーションの仕事の割合が年々増加していることもあり、自分の設計した仕事もいずれはまたリノベーションされることを意識するようになった。
そのときの設計者が自分でなくても、解体、移設、転用を前提とすることで、良い”既存”としての価値を持ち、長く使われるデザインとなることを目指したいと考えている。
■建築概要
作品名:onde
用途:美容院
所在地:静岡県浜松市中区佐鳴台6-26-1
内装・家具設計:後藤周平建築設計事務所 担当/後藤周平、清水美紅、小田海
延床面積:105.23㎡
設計期間:2021年2月~2021年7月
工期:2021年8月~2021年11月
写真:長谷川健太
種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) |
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内装・床 | 床 | 既存土間コンクリートの上樹脂モルタル クリア塗装 |
内装・壁 | 壁 | ラワンベニヤ AEP |
内装・天井 | 天井 | PB t=9.5 ビニルクロス(東リ) |
内装・建具 | カーテン | |
内装・設備 | シャンプー機器 | (タカラベルモント) |
内装・造作家具 | カウンター天板 | |
内装・照明 | 照明 | (遠藤照明) |
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