麻殖生龍哉 / マイオ建築研究所が設計した、東京の「杉並の家 / Cedar Louver House」です。
住宅街の南に開けた敷地に計画されました。建築家は、場の特性を生かす開放的な建築を求め、“南”の恩恵の享受とネガティブ要素の排除を叶える可動式巨大ルーバーを考案しました。そして、衣服の様に環境を適正化し公私を柔らかく隔てる事が意図されました。
都心の閑静な住宅街に建つアトリエ兼住宅である。
敷地は東と南が道路に接する角地であり南側隣地には日射や風通しに影響する大きな建物がない。南側に大きく開けるという利点を生かして建物を計画しようと考えた。
「南に開く」というと至極当たり前のように聞こえるかもしれないが、より意識的に考えるとクリアしなくてはならないハードルがいくつもあることが分かる。強すぎる日射やそれがもたらす厳しい温熱環境、台風シーズンの南よりの爆風、どれもクライアントがこの地に暮らし始めた40年前からは比べ物にならない程厳しいものとなっている。
様々な方策を模索したが、その中で最もポジティブな解答に感じられた姿がこの建物である。開放感や日射取得、風の取り入れのため南側全面を大きな開口部としできるだけ北側にボリュームを寄せた。ボリュームはボコボコとした形態となっているがこれは建物機能の主従関係や各々の機能に求められる環境を考慮した結果である。
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以下、建築家によるテキストです。
都心の閑静な住宅街に建つアトリエ兼住宅である。
敷地は東と南が道路に接する角地であり南側隣地には日射や風通しに影響する大きな建物がない。南側に大きく開けるという利点を生かして建物を計画しようと考えた。
「南に開く」というと至極当たり前のように聞こえるかもしれないが、より意識的に考えるとクリアしなくてはならないハードルがいくつもあることが分かる。強すぎる日射やそれがもたらす厳しい温熱環境、台風シーズンの南よりの爆風、どれもクライアントがこの地に暮らし始めた40年前からは比べ物にならない程厳しいものとなっている。
南側道路や隣地建物からの視線もある。4m幅の南側道路の道路斜線も厳しいし、それを避けるために北側に寄せれば0.6/1という厳しい北側斜線が迫ってくる。南に開くことができるのであるから明るく開放的な環境を目指したいがそれらの条件のことを思うと消極的にならざるを得ない状況である。
クライアントの要望はシンプルで開放的で気持ちのよい家を作って欲しいということであった。ただそれは「過ぎるのはちょっと・・・」というニュアンス付きのものであった。こちらも解釈によっては中庸でよいという消極的な解答に繋がる可能性のある要素であった。
できればそれらすべてにポジティブな解答をしたいというのが設計者としての願いだ。南向きの恩恵を最大限享受しつつネガティブな要素を排除する試みに取り組むことがここで求められている役割であると感じた。そういった中できっと何かを捨てたり割り切ることでは解決しないだろうな、とも感じていた。
様々な方策を模索したが、その中で最もポジティブな解答に感じられた姿がこの建物である。開放感や日射取得、風の取り入れのため南側全面を大きな開口部としできるだけ北側にボリュームを寄せた。ボリュームはボコボコとした形態となっているがこれは建物機能の主従関係や各々の機能に求められる環境を考慮した結果である。
南側に大きく開き住み慣れた土地からの安心感のあるビューや庭との一体感、日射や通風を確保すると共に、それを阻害せず生活にとって過剰な条件を排除するため南側開口部には巨大な可動部をもつルーバーが設置されている。
このルーバーが衣服のように振舞い外部からもたらされる環境を適正なものに補正し、公私を柔らかく隔ててくれている。建物を覆い隠すようなルーバーは「守る」ことを連想させるかもしれないが、ここでは攻めるためのポジティブな装置として扱った。結果として何かを捨てたり諦めたりせず、積極的な提案となったのではと考えている。
■建築概要
題名:杉並の家/Cedar Louver House
所在地:東京都杉並区
主用途:住宅
設計:麻殖生龍哉/マイオ建築研究所
構造設計:オーノJAPAN
施工:水雅
階数:地上2階
構造:木造
敷地面積:179.51㎡
建築面積:74.19㎡
延床面積:129.18㎡
設計:2020年6月~2021年3月
工事:2021年5月~2022年3月
竣工:2022年4月
写真:小林浩志/SPIRAL