湯浅良介が設計した、富山・氷見市の住宅改修「となりはランデヴー」です。
移住した施主と機能や在り方を数年話し合い計画されました。建築家は、街の奥行きとなる“秘密”の生成を求め、“落書き”の様な断熱建具を考案し開口に設置しました。また、シェードやデスクは“秘密の中身”の意味も重ねて設計されました。本記事では、写真家の白井晴幸と成定由香沙が、それぞれ撮影した写真で作品を紹介します。
加えて、2022年11月19日~27日に開催される、湯浅による建築展「Pole Star」の情報も合わせて末尾に掲載します。
施主は氷見の海沿いに4階建のビルを購入し、その3階に住みながら宿やギャラリー、カフェとして改修し生活を営んでいた。そのとなりの一軒家も空き家だったため、何かに使えるかもしれないとしばらくして入手した。しかし何年も使われていない空き家だったことで内部は痛み、冬は寒く夏は暑く、そのままではとても利用できるものではなかった。
とりあえず不要なものは取り払って断熱材でパッキングしてほしい、というのが施主からの最初の依頼で2020年のことだった。この場所が何になるかも決まっていないため、仕上げも後から考えることになり、とりあえず不燃のボードで断熱材をおさえ、仕上げはパテ処理でとめておいた。
施主がこの家を購入してから、ここにどんな機能をもたせるか、どんな場所にするかを話し合ってきた。その話し合いは2年にも及ぶが、過疎化が進む氷見の街に越して2人きりで事業を始めた彼らにとって、どう生きていくか、どういう場所にするか、どういう街だったらよいかは地続きだったのだと思う。
この一軒家は海の目の前、交差点に面した角地にある。つまり、目立つ場所にある。ここを通り過ぎる人がここを見た時、何か違和感を与えられるものとすること、その違和感が街に秘密を生み出すこと、この時点で僕が提案したことはそれくらいだった。秘密は街の奥行きとなり、この場所を人の意識の向く場所とすること、それによりまだ何でもないこの家にある種のベールをかぶすことをこの段階での目標とした。
2021年下旬になってようやく使い方の目処がたった。施主からの要望は、1階を住居、2階を書斎にしたいというものだった。
書斎は隣のビルの宿泊者も自由に使えるようにするため、プライベートな住居を通らずに2階へ行けるように廊下が必要になり、1階は住居スペースと廊下、となった。施主の生活の仕方を知っていたため収納は相当必要になると思い、限られた予算のなかで、1階は大きな戸棚を、2階は大きなデスクとシェードランプをつけることを提案した。
1階の戸棚は廊下と住居スペースの間仕切りを兼ね、さらに接道する道路からの走行音を軽減する遮音壁と外気温の影響を軽減する断熱層のような役割を果たしている。2階は数人がデスクワークに使え打合せもその場でできるような大きなデスクと、その上部に卓上と空間全体を照らすシェードランプを設えた。
白井晴幸による写真と、湯浅良介による図面
以下の写真はクリックで拡大します
成定由香沙による写真と、湯浅良介によるドローイング
以下の写真はクリックで拡大します
成定由香沙による映像
以下、建築家によるテキストです。
街の秘密
施主は氷見の海沿いに4階建のビルを購入し、その3階に住みながら宿やギャラリー、カフェとして改修し生活を営んでいた。そのとなりの一軒家も空き家だったため、何かに使えるかもしれないとしばらくして入手した。しかし何年も使われていない空き家だったことで内部は痛み、冬は寒く夏は暑く、そのままではとても利用できるものではなかった。
とりあえず不要なものは取り払って断熱材でパッキングしてほしい、というのが施主からの最初の依頼で2020年のことだった。この場所が何になるかも決まっていないため、仕上げも後から考えることになり、とりあえず不燃のボードで断熱材をおさえ、仕上げはパテ処理でとめておいた。
冬の冷気の大きな原因は昔ながらのシングルガラス窓だった。それでも、断熱窓への改修は予算的に難しく、かつ少し古びたこの家の佇まいに愛着も湧いてきていたため、外観は窓も含めてそのままの状態にすることとなり、既存窓の内側に断熱建具を設置した。
断熱建具はラワン合板をくり抜いてポリカを嵌めるだけ、という至極シンプルな作りのため、くり抜く形状はどんな形でもよかった。僕は落書きをするようにスケッチを書き、それを窓の形に写して外から見えるようにした。
ところで、施主がこの家を購入してから、ここにどんな機能をもたせるか、どんな場所にするかを話し合ってきた。その話し合いは2年にも及ぶが、過疎化が進む氷見の街に越して2人きりで事業を始めた彼らにとって、どう生きていくか、どういう場所にするか、どういう街だったらよいかは地続きだったのだと思う。
この一軒家は海の目の前、交差点に面した角地にある。つまり、目立つ場所にある。ここを通り過ぎる人がここを見た時、何か違和感を与えられるものとすること、その違和感が街に秘密を生み出すこと、この時点で僕が提案したことはそれくらいだった。秘密は街の奥行きとなり、この場所を人の意識の向く場所とすること、それによりまだ何でもないこの家にある種のベールをかぶすことをこの段階での目標とした。
秘密となるような何かを、となった時、それを表すものとしては個人的なものがふさわしいと思い、すでにある家の窓全てにスケッチをそのまま立ち上げた落書きのような形を配置した。だれかの家に訪れて見つけた子供の落書きにその家の生あたたかい秘密を垣間見るように、この家の前を通る人は落書きを垣間見る。
この時点ではこの場所はまだ何でもない。名前も用途もなく、決まっていることはその立地、周りに何があるかだけだった。交差点の角に、窓に落書きのある建物がある。となりにはランデヴーというパブがある。
2021年下旬になってようやく使い方の目処がたった。施主からの要望は、1階を住居、2階を書斎にしたいというものだった。
書斎は隣のビルの宿泊者も自由に使えるようにするため、プライベートな住居を通らずに2階へ行けるように廊下が必要になり、1階は住居スペースと廊下、となった。施主の生活の仕方を知っていたため収納は相当必要になると思い、限られた予算のなかで、1階は大きな戸棚を、2階は大きなデスクとシェードランプをつけることを提案した。
1階の戸棚は廊下と住居スペースの間仕切りを兼ね、さらに接道する道路からの走行音を軽減する遮音壁と外気温の影響を軽減する断熱層のような役割を果たしている。2階は数人がデスクワークに使え打合せもその場でできるような大きなデスクと、その上部に卓上と空間全体を照らすシェードランプを設えた。
二年前にこの場所にかぶせたベールの中身としての大きな戸棚と落書きのようなシェードやデスク。戸棚は窓に現れた秘密の内実となる容れ物。宙に浮かぶシェードやデスクは衣装戸棚から漏れ出た内密のイメージ。戸棚には多くのものが押し込まれている。
“衣装戸棚は下着でいっぱいだ
くりひろげることのできる月の光さえもはいっている”
Andre Breton
■建築概要
題名:となりはランデヴー
所在地:富山県氷見市
主用途:住宅
設計:湯浅良介
担当:湯浅良介
施工:GO
構造:木造
階数:地上2階
敷地面積:70㎡
建築面積:64㎡
延床面積:101.7㎡
設計:2020年4月~2021年11月
工事:2020年5月~2021年12月
竣工:2021年12月
スケッチ:湯浅良介
映像:成定由香沙
写真:白井晴幸、成定由香沙
建材情報種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) | 内装・床 | ダイニングキッチン床 | エンビシートタイル[マチコV](TOLI)
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内装・壁 | ダイニングキッチン壁 | PB t=9.5 EP
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内装・天井 | ダイニングキッチン天井 | PB t=9.5 EP
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内装・床 | トイレ床 | OSB合板
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内装・壁 | トイレ壁 | PB t=9.5 EP
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内装・天井 | トイレ天井 | PB t=9.5 パテ処理ママ
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内装・床 | 洗面所床 | エンビシートタイル[マチコV](TOLI)
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内装・壁 | 洗面所壁 | PB t=9.5 EP
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内装・天井 | 洗面所天井 | PB t=9.5 EP
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内装・床 | 寝室床 | エンビシートタイル[マチコV](TOLI)
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内装・壁 | 寝室壁 | PB t=9.5 EP
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内装・天井 | 寝室天井 | PB t=9.5 EP
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内装・床 | 書斎床 | タイルカーペット[NT-350](サンゲツ)
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内装・壁 | 書斎壁 | PB t=9.5 EP パテ処理ママ
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内装・天井 | 書斎天井 | PB t=9.5 EP パテ処理ママ
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※この情報は弊サイトや設計者が建材の性能等を保証するものではありません
湯浅良介による建築展「Pole Star」
「un」(田園調布)にて、湯浅良介による個展『Pole Star』が開催されます。「un」は、ファッションブランド「YAECA」が運営する洋菓子店「SAVEUR」の2階に位置し、同ブランドが運営する小さなスペースです。建築家である湯浅はここに“柱”を制作しました。部屋の中央に建てられた一本の柱は華美な装飾が施され、時計の秒針と同じ速度で回転しながらその空間に光をリフレクションさせます。
本展覧会では「時間と空間」、「闇と調律」、「恒星とリフレクション」、「目蓋の裏の銀河」をキーワードとし発想した柱、それらを表す図面やテキストを展示・販売します。
■開催概要
展覧会タイトル:Pole Star
会期:2022年11月19日(土)~27日(日)
開場時間:10:00~19:00
休廊日:なし
会場:un(東京都大田区田園調布2-51-1 SAVEUR 2階)
入場料:無料
出展作家:湯浅良介
キュレーター:水島七恵(pendulum)
DMデザイン:加納大輔
お問い合わせ:office@yuasaryosuke.com