へザウィック・スタジオの、森美術館での展覧会「共感する建築」をフォトレポートします。
世界中でプロジェクトを手掛けるファームの日本初の展示です。主要プロジェクト“28作”を模型や素材サンプルで紹介しています。会場構成は同スタジオが日本の“暖簾”等に着想を得て考案されました。会期は2023年3月17日~2023年6月4日。展覧会の公式ページはこちら。
1994年にロンドンで設立されたヘザウィック・スタジオは、ニューヨーク、シンガポール、上海、香港など世界各地で革新的なプロジェクトを手掛ける、現在、世界が最も注目するデザイン集団のひとつです。創設者トーマス・へザウィック(1970年、英国生まれ)は、子どもの頃、職人が作った小さなものに宿る魂に心を躍らせていたといいます。
建築という大きな建物や空間にも、その魂を込めることはできるのか。この問いがヘザウィック・スタジオのデザインの原点となりました。すべてのデザインは、自然界のエネルギーや建築物の記憶を取り込みつつ、都市計画のような大規模プロジェクトもヒューマン・スケールが基準となるという信念に基づいています。その根底には、プロダクトや建築物というハードのデザインよりも、人々が集い、対話し、楽しむという空間づくりへの思いがあるのかもしれません。
モノやその土地の歴史を学び、多様な素材を研究し、伝統的なものづくりの技術に敬意を払いながら、最新のエンジニアリングを駆使して生み出される空間は、誰も思いつかなかった斬新なアイデアで溢れています。新型コロナウイルスのパンデミックを経て、わたしたちが都市や自然環境との関係性を見直すなかで、ヘザウィック・スタジオのデザインは、来る時代に適う、これまで以上に豊かな示唆を与えてくれることでしょう。
本展は、ヘザウィック・スタジオの主要プロジェクト28件を天空の大空間で紹介する日本で最初の展覧会です。試行錯誤を重ね、新しいアイデアを実現する彼らの仕事を「ひとつになる」、「みんなとつながる」、「彫刻的空間を体感する」、「都市空間で自然を感じる」、「記憶を未来へつなげる」、「遊ぶ、使う」の6つの視点で構成し、人間の心を動かす優しさ、美しさ、知的な興奮、そして共感をもたらす建築とは何かを探ります。
エントランスとイントロ展示の様子
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セクション1「ひとつになる」
「全体」は数々の「部分」によって構成されています。
ヘザウィック・スタジオのデザインには、綿密に考案された細部が集合することで、強い説得力のある全体像が生み出されているものが少なくありません。
そこには、小さなパーツに宿る魂を集めて、人の心を動かすひとつの大きな空間を創出しようとするヘザウィック・スタジオの姿勢を垣間見ることができます。
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セクション2「みんなとつながる」
人々が自然に集い、会話が始まるような開放的な空間。
ヘザウィック・スタジオのデザインには、閉鎖的になりがちな空間を開き、隣接する空間と繋げていくことで、自然の光や空気に触れながら、人と人が自ずと出会えるような意匠的配慮がみられます。
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セクション3「彫刻的空間を体感する」
ヘザウィック・スタジオのデザインの特筆すべき特徴のひとつが、彫刻的なかたちです。
空間を体感することのできる建築物も、ヒューマン・スケールで発案されており、彫刻がそのまま大きくなった空間とも言えるでしょう。
形状だけでなく、素材やそのテクスチャーにもアーティストや職人による手作業の温もりが残されています。
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セクション4「都市空間で自然を感じる」
自然界にある新陳代謝のエコロジー。そこから生まれるエネルギーは、都市生活者の心に潤いや活気をもたらすものです。
ヘザウィック・スタジオは、人々が親しみ、楽しむ場所をデザインし、心豊かで充実した体験を提供することで、持続的なプラス効果を生みだすことを常に目指しています。
また、都市環境における自然のもたらす役割を検証したうえで植栽を行い、自然界のエネルギーをふんだんに都市空間に取り込みます。
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セクション5「記憶を未来へつなげる」
歴史は人々の物語の蓄積です。建築物にもそこで時間を過ごした人々の記憶が宿っています。
当初の役割を終えた建築物の記憶を未来へ繋げること。ヘザウィック・スタジオのデザインには、こうした使命感が感じられます。
建物の元のデザインを活かして大胆な改装をする一方で、かつての状態へ修復、復元しようとするこだわりが随所に見られます。
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セクション6「遊ぶ、使う」
ヘザウィック・スタジオのデザインは、遊び心に溢れています。
円形から楕円に、楕円から円形に自由に形を変えることができる《フリクション・テーブル》は、人々のニーズに応じて家具に柔軟性を持たせるという大胆な発想によるものです。
彫刻作品のような椅子《スパン》は、人が座ると弧を描きながら360度回転します。
こうした柔軟で自由な発想の集積が、まさに建築という大きなスケールにも活かされていることがわかります。
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スケッチと映像展示の様子
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創設者のトーマス・ヘザウィック
トーマス・ヘザウィックは、英国で最も数多くの作品を手掛けるデザイナーの一人です。20年超のキャリアのなかで制作された多彩な作品群の特徴は、斬新さと独創性、人間味溢れるデザインにあります。1994年にスタジオを設立。建築、都市計画、プロダクト・デザイン、インテリア・デザインといった従来の枠組みを取り払い、これらをひとつのクリエイティブ・ワークスペースに集約しました。規模や場所、型式にとらわれることなく、さまざまな仕事を手掛け、現在ではクラフトマンシップとアイデアに溢れた200名のスタッフから成る、固定的なスタイルを持たないデザイン集団へと発展しました。定説や定論よりも体験を尊重し、環境への負荷を最小限に抑えつつ、人々の魂に訴えかけるような場所やモノを創り出しています。
現在ロンドンを拠点とし、東京都心にある6ヘクタールの複合施設《麻布台ヒルズ/低層部》をはじめ、ロンドンのグーグル新本社(ビャルケ・インゲルス・グループとのコラボレーション)、走行中に空気を浄化する電気自動車《エアロ》など、10カ国で30以上ものプロジェクトを手掛けています。
近年完了したプロジェクトに、グーグル社が初めて自ら設計した新社屋《グーグル・ベイ・ビュー》、ニューヨーク、ハドソン川にある公園と野外劇場を兼ねた《リトル・アイランド》、ケープタウンの《ツァイツ・アフリカ現代美術館》、ロンドン、キングス・クロスの新しい大型商業地区《コール・ドロップス・ヤード》など。また、トーマス・ヘザウィックの新著『Humanise』(ペンギン社)が、2023年に出版予定。
■展覧会概要
展覧会名:「へザウィック・スタジオ展:共感する建築」
会期:2023年3月17日(金)~6月4日(日)
会場:東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階)
開館時間:10:00-22:00(最終入館21:00)会期中無休
主催:森美術館
企画:片岡真実(森美術館館長)