中村拓志&NAP建築設計事務所が設計した、千葉・木更津市の「地中図書館」です。
農業生産法人が運営する施設内での計画です。建築家は、植物や微生物の反映の下にある“慎ましい”存在を求め、大地の下に“やすらかな居場所”を志向しました。施設の公式サイトはこちら。
晴れた日には畑を耕し、雨の日には読書をする。「地中図書館」はそんな人のためにある。
敷地は農業生産法人が運営するKURKKU FIELDSの一角にある。その平坦で乾いた土地は、建設残土で埋め立てられた谷の上にあった。
われわれは、農夫たちがマザーポンドと呼ぶ池に至る、緑豊かな谷筋を復活させること、そして建築は作土層を占有するのではなく、植物と土中微生物たちの繁栄の下に慎ましく存在するべきだと考えた。大地はあらゆる生命の源、母性の象徴として捉えられてきた。その大地に割け目を設けて、そこに耕す人の休息にふさわしい、やすらかな居場所をつくりたいと考えた。
その割け目は上空から見ると雫のような形をしている。歩いているうちにいつの間にか迷いこむようなアプローチを抜けて作土層をくぐると、本棚のコリドーがある。梁や柱といった建築的要素が排除され、外周部の土留め壁と袖壁からコンクリートボイドスラブが片持ちで跳ね出している。
床と壁、天井は土仕上げでなめらかに繋がり、スラブ小口の鉛直面まで植え込まれた芝がモサモサと下垂し、空間に湿り気を与えている。これは灌水と保水のバランスを季節によって調節可能なディテールとなっている。
内部の天井高は大地の傾斜に応じて決まるため、子どもしか入ることのできない天井の低い場所や小さな隠れ部屋がある。最深部には、読み聞かせのためのホールがある。芝の大地を大きく孕ませた子宮的空間には、階段状の席を本棚の襞が取り囲み、農園で働く人たちの蔵書や子どものための本が並ぶ。
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以下、建築家によるテキストです。
晴耕雨読の図書館
晴れた日には畑を耕し、雨の日には読書をする。「地中図書館」はそんな人のためにある。
敷地は農業生産法人が運営するKURKKU FIELDSの一角にある。その平坦で乾いた土地は、建設残土で埋め立てられた谷の上にあった。
われわれは、農夫たちがマザーポンドと呼ぶ池に至る、緑豊かな谷筋を復活させること、そして建築は作土層を占有するのではなく、植物と土中微生物たちの繁栄の下に慎ましく存在するべきだと考えた。大地はあらゆる生命の源、母性の象徴として捉えられてきた。その大地に割け目を設けて、そこに耕す人の休息にふさわしい、やすらかな居場所をつくりたいと考えた。
その割け目は上空から見ると雫のような形をしている。歩いているうちにいつの間にか迷いこむようなアプローチを抜けて作土層をくぐると、本棚のコリドーがある。梁や柱といった建築的要素が排除され、外周部の土留め壁と袖壁からコンクリートボイドスラブが片持ちで跳ね出している。
床と壁、天井は土仕上げでなめらかに繋がり、スラブ小口の鉛直面まで植え込まれた芝がモサモサと下垂し、空間に湿り気を与えている。これは灌水と保水のバランスを季節によって調節可能なディテールとなっている。
内部の天井高は大地の傾斜に応じて決まるため、子どもしか入ることのできない天井の低い場所や小さな隠れ部屋がある。最深部には、読み聞かせのためのホールがある。芝の大地を大きく孕ませた子宮的空間には、階段状の席を本棚の襞が取り囲み、農園で働く人たちの蔵書や子どものための本が並ぶ。
本棚の40mm厚の縦桟は、そのまま頭上に伸びて空間を支えている。細い縦桟は隣を支え、その縦桟はさらに隣に支えられることを繰り返すと、一周して初めて大きな空間が支えられる。相互扶助の連鎖の先に、強い個人だけでは到底成し得ない社会的空間が立ち上がるのだ。
このKURKKU FIELDSの農村的共同体を象徴する架構中央のトップライトは、青い空と雲に包まれた地球のような光景を縁取る。大地と人間の叡智に包まれながら、地球を想う図書館である。
(中村拓志)
■建築概要
題名:地中図書館/Library in the Earth
所在地:千葉県木更津市矢那2503
主用途:図書館
建築・監理:中村拓志 & NAP建築設計事務所
担当:中村拓志、高井壮一朗、志藤拓巳、比佐彩美
構造設計:金箱構造設計事務所
施工:住友林業株式会社
造園:SOLSO
階数:地上1階
構造:RC造 一部木造
敷地面積:732.02㎡
建築面積:133.26㎡
延床面積:113.09㎡
竣工年月:2022年4月
竣工写真:Koji Fujii / TOREAL