吉村靖孝建築設計事務所と塚越智之+宮下淳平 / 塚越宮下設計が設計した、山形・鶴岡市の「龍宮殿サウナ」です。
老舗旅館の一部を浴場とサウナに改修する計画です。建築家は、最適な機能配置と耐震性強化を求め、既存柱を“木造トラス”に置き換え“反復”させる構造形式を考案しました。また、新設の躯体は既存建物の木造トラスと呼応して施設の“象徴性”も高めています。施設の公式サイトはこちら。
山形県鶴岡市の老舗旅館、亀や別館の改修。
2004年に客室と広間からなる2階をバンケットホールとして改修し、今回その1階を浴場・サウナとすることとなった。
大正11年に建てられたこの木造建物は海に面した山肌に立ち、日本海から吹き付ける厳しい風や、山からの湿気に長年曝され痛みが激しかった。そのため今回の改修では使い方を更新するだけではなく、地震や海風、山からの湿気に対する性能を改善することが求められた。
建物南側の貸切風呂が残っていたエリアと、日本海への眺望が開けた北側のエリアに浴場、サウナを2ヶ所計画し、その間を脱衣室やラウンジ、外気浴のできるインドアテラスとした。これによりエリアで男女を分けるだけでなく、時間帯で男女を分けた施設の一体利用もできるようになっている。
北側のエリアには海に沿って奥行き1間の縁側がかつて存在したと言う。その名残で境目に当たる場所には古い柱が並び、その上部が梁と桁の継ぎ目となっていた。山側にサウナ室を、海に沿って浴槽を計画することでそれぞれの場所から海への眺望を確保しようとすると、既存の柱が水に浸かってしまう。そのためこの柱を撤去し、海側と山側の両脇から斜めに部材を渡し2階の床を支えることにした。そしてこの三角形のトラスを反復させ耐震性と耐風圧性を向上させている。
今回の工事で解体を進めていくと海に沿った長手の桁に木造トラスが使われていることが分かった。これは恐らく大正11年に新築した際、スパンを飛ばして海への眺望を確保するため設けられたものだと思われる。またこの建物の屋根は大きなトラスでできている。これは昭和28年に陸屋根を切妻へと改修する際、2階の広間に柱を落とさないよう工夫したものだと考えられる。
このようにこの建物はトラスという形式を活用することで、海への眺望や広く自由に使える空間を獲得し100年という時代の変化に耐え、様々なかたちで使われて来た。この建物に見え隠れするトラス形式はその力強さを象徴している様だった。そして今回の改修では、更に1階に木造のトラスを挿入することで構造性能とその象徴性を強化したと言うことができる。
以下の写真はクリックで拡大します
以下、建築家によるテキストです。
山形県鶴岡市の老舗旅館、亀や別館の改修。
2004年に客室と広間からなる2階をバンケットホールとして改修し、今回その1階を浴場・サウナとすることとなった。
大正11年に建てられたこの木造建物は海に面した山肌に立ち、日本海から吹き付ける厳しい風や、山からの湿気に長年曝され痛みが激しかった。そのため今回の改修では使い方を更新するだけではなく、地震や海風、山からの湿気に対する性能を改善することが求められた。
建物南側の貸切風呂が残っていたエリアと、日本海への眺望が開けた北側のエリアに浴場、サウナを2ヶ所計画し、その間を脱衣室やラウンジ、外気浴のできるインドアテラスとした。これによりエリアで男女を分けるだけでなく、時間帯で男女を分けた施設の一体利用もできるようになっている。
北側のエリアには海に沿って奥行き1間の縁側がかつて存在したと言う。その名残で境目に当たる場所には古い柱が並び、その上部が梁と桁の継ぎ目となっていた。山側にサウナ室を、海に沿って浴槽を計画することでそれぞれの場所から海への眺望を確保しようとすると、既存の柱が水に浸かってしまう。そのためこの柱を撤去し、海側と山側の両脇から斜めに部材を渡し2階の床を支えることにした。そしてこの三角形のトラスを反復させ耐震性と耐風圧性を向上させている。
また地面の湿気から建物を守るため新たにベタ基礎を打設した。そして新設する柱が水に掛からない様、浴場の計画に合わせ基礎を立ち上げ、そこにアンカーを打つことで既存布基礎と一体化させている。その結果、海に面した浴場は木造トラスと地面から立ち上がる基礎の間に挟まれた空間となった。
今回の工事で解体を進めていくと海に沿った長手の桁に木造トラスが使われていることが分かった。これは恐らく大正11年に新築した際、スパンを飛ばして海への眺望を確保するため設けられたものだと思われる。またこの建物の屋根は大きなトラスでできている。これは昭和28年に陸屋根を切妻へと改修する際、2階の広間に柱を落とさないよう工夫したものだと考えられる。
このようにこの建物はトラスという形式を活用することで、海への眺望や広く自由に使える空間を獲得し100年という時代の変化に耐え、様々なかたちで使われて来た。この建物に見え隠れするトラス形式はその力強さを象徴している様だった。そして今回の改修では、更に1階に木造のトラスを挿入することで構造性能とその象徴性を強化したと言うことができる。
今回の改修により、海と山に挟まれた過酷な環境であっても更にこの先100年を力強く生き抜いてくれることだろう。
■建築概要
題名:龍宮殿サウナ
所在地:山形県鶴岡市
主用途:ホテル
設計:吉村靖孝建築設計事務所+塚越宮下設計 担当/吉村靖孝、塚越智之
構造設計:鈴木啓 / ASA
施工:佐藤工務、弘栄設備工業、東北電機鉄工
構造:木造
階数:地上2階建ての1階部分
延床面積:331.18㎡
設計期間:2023年8月〜2023年11月
施工期間:2023年12月〜2024年2月
竣工:2024年2月末
写真:鈴木淳平