SHARE 高池葉子建築設計事務所による、千葉・いすみ市の「森の書庫と離れ」。設計者が父親の為に手掛けた“1万冊を収める書庫”等の計画。沢山の書籍を収容する為に、ジグザグの壁を“巻貝”のように配置する構成を考案。先進企業と地域大工の技術を掛け合わせた“最先端ローカル”も意図
高池葉子+尾野克矩+佐藤緋里 / 高池葉子建築設計事務所が設計した、千葉・いすみ市の「森の書庫と離れ」です。
設計者が父親の為に手掛けた“1万冊を収める書庫”等の計画です。建築家は、沢山の書籍を収容する為に、ジグザグの壁を“巻貝”のように配置する構成を考案しました。また、先進企業と地域大工の技術を掛け合わせた“最先端ローカル”も意図されました。
本建築の内覧会が、2024年12月14日(土)に開催されます(詳細は記事末尾に掲載)。参加申込はこちらから(締切:2024年12月11日まで)。
千葉県いすみ市の小さな山の頂上に、1万冊の本を収容する書庫と離れをつくった。
約40年前、私の父がこの地の山荘を購入し週末に通い果樹の手入れをしながら、毎月友人を招待し季節の恵みを楽しんできた。父がライフワークとして収集した本をアーカイブとして残したいと願い、書庫をつくることとなった。
また、私は学生時代からこれまで作成したすべての模型をこの山荘に運んでいた。いよいよ模型の置き場がなくなり、書庫の隣に建築模型を納める離れを同時につくらせてもらうことになった。書庫に納める本は専門書が多く、将来的には小さな図書館として研究者や地域の方たちに開放する。また、離れも見せる倉庫として、訪れた方に建築模型を自由に眺めてもらう場所とする予定である。
山荘の周辺は空き家が多く、深刻な過疎化が進んでいる場所にただでさえ人が寄り付かなさそうな書庫と離れをつくる。このテーマにどう向き合うのか。
書庫は、この地に訪れたくなる動機付けのひとつとして、みんなが見に行きたくなるような特徴的なかたちの建物を提案した。
コンパクトなスペースの中にできる限りたくさんの本が置けるよう、ジグザグの壁を巻貝のように囲い込み外壁の周長をかせぎ、内部に小さな閲覧スペースを設けた。
敷地は鬱蒼とした森の中であるが、かろうじて樹上から光が差し込んでくる。極力直射日光を本に当てないために開口部は2枚の屋根をずらし、ハイサイドライトからの光のみを取り入れるようにした。内部の約6mのスパンは鉄骨のトラスで飛ばしている。
この屋根形状を実現するためには、野地板を放射状に張れるように登り梁の天端をすべて異なる角度で斜めカットする必要がある。3D加工機でプレカットを行うことで、複雑な形状もスムーズに加工することができた。
ハイサイドライトは、山の中へも搬入がしやすく耐候性、耐久性に優れたETFEフィルムを用いた。外壁は敷地の山の土を用いて20人のボランティアと一緒にワークショップ形式で塗り込んだ。伐採期限が過ぎている現地のスギ林を、この機会に数十本間伐し皮を剥ぎ、スギ皮を外壁の一部に張り付けた。
以下の写真はクリックで拡大します
以下、建築家によるテキストです。
千葉県いすみ市の小さな山の頂上に、1万冊の本を収容する書庫と離れをつくった。
約40年前、私の父がこの地の山荘を購入し週末に通い果樹の手入れをしながら、毎月友人を招待し季節の恵みを楽しんできた。父がライフワークとして収集した本をアーカイブとして残したいと願い、書庫をつくることとなった。
また、私は学生時代からこれまで作成したすべての模型をこの山荘に運んでいた。いよいよ模型の置き場がなくなり、書庫の隣に建築模型を納める離れを同時につくらせてもらうことになった。
書庫に納める本は専門書が多く、将来的には小さな図書館として研究者や地域の方たちに開放する。また、離れも見せる倉庫として、訪れた方に建築模型を自由に眺めてもらう場所とする予定である。
山荘の周辺は空き家が多く、深刻な過疎化が進んでいる場所にただでさえ人が寄り付かなさそうな書庫と離れをつくる。このテーマにどう向き合うのか。
書庫は、この地に訪れたくなる動機付けのひとつとして、みんなが見に行きたくなるような特徴的なかたちの建物を提案した。
コンパクトなスペースの中にできる限りたくさんの本が置けるよう、ジグザグの壁を巻貝のように囲い込み外壁の周長をかせぎ、内部に小さな閲覧スペースを設けた。
昔からの隣人で大工の峯島さんに図面を見せた際、このようなかたちはとてもつくれないという。3Dを駆使したプレカットなど先端技術を上手く用いることで、峯島さんがつくれる工法を実現させた。
敷地は鬱蒼とした森の中であるが、かろうじて樹上から光が差し込んでくる。極力直射日光を本に当てないために開口部は2枚の屋根をずらし、ハイサイドライトからの光のみを取り入れるようにした。内部の約6mのスパンは鉄骨のトラスで飛ばしている。
この屋根形状を実現するためには、野地板を放射状に張れるように登り梁の天端をすべて異なる角度で斜めカットする必要がある。3D加工機でプレカットを行うことで、複雑な形状もスムーズに加工することができた。
ハイサイドライトは、山の中へも搬入がしやすく耐候性、耐久性に優れたETFEフィルムを用いた。外壁は敷地の山の土を用いて20人のボランティアと一緒にワークショップ形式で塗り込んだ。伐採期限が過ぎている現地のスギ林を、この機会に数十本間伐し皮を剥ぎ、スギ皮を外壁の一部に張り付けた。
峯島さんは、高機能素材から現代では用いない旧来の素材まで、その都度試行錯誤しながら施工した。たとえばスギ皮を剥ぐ技術は、この地域ではもう峯島さんしかできないそうだ。難しいところは3Dプレカットで補いつつ、峯島さんの技術を取り込んでいく。現代技術と峯島さんの掛け合わせによって「最先端ローカル」建築になっていった。
この小さな建築を通して、私は地方と都市の新たな関係性を構築できる可能性を感じた。
(高池葉子)
素材について
敷地の周辺は、廃墟となった別荘、荒れ果てた杉林、竹林がある。できる限りこの土地のものを使用することで、資源を循環させ、同時に、建材メーカーのストック材や新素材を活用することも考えた。地元の山の土を外壁に用い、竹を呼吸できる造作材として活用し、杉皮を一部外壁に用いる。一方で、建材メーカーに交渉し、廃棄前の建材や端材を提供してもらう。塗り壁用の土は、当初この地域では採れないと言われていた。しかし、熊本から渋谷さんという土のスペシャリストに来てもらい掘り起こしたところ、この土は使えると言う。そこで、学生から社会人まで多くのボランティアを巻き込んだ、土壁塗りワークショップが実現した。自然素材とメーカーストック品を組み合わせる、建築におけるアッサンブラージュの実験場となった。
(高池葉子)
形状について
湿気対策として、切り株のような厚い基礎を立ち上げる。本を守るために周囲から閉じつつ、かつ、外界にも開く渦巻き形平面とし、壁は連続した屏風形状とすることで、ぐるりと本に囲まれた洞窟のような、室内風景が生まれた。屋根は母屋と調和するよう、切妻形状を少し崩し、半円2枚を傘状にかける。野地板を貼るために放射状の登り梁天端を異なる角度で斜めカットする必要があったが、3D加工機によるプレカットによって、複雑な形状をスムーズに施工できた。屋根のずれを利用したハイサイドライトからあかりを取り入れ、異なる高さ、明るさの場所が生まれるようにした。室内天井には無柱空間を実現するためのキールトラスがかかり、ジグザグなラインを描く繊細な鋼棒が、ひときわ空間を特徴づける。屋根面は木々の重なる風景に合わせ、葺き材を半月型の屋根に沿わせながら、落ち葉を敷き詰めるように並べた。
(高池葉子+尾野克矩+佐藤緋里)
構造家の浜田英明によるテキスト「渦を巻く屏風耐力壁」
敷地近くに住む、古くからクライアントと付き合いのある大工棟梁の方がほぼ1人で施工できるよう、“施工者ファースト”を合言葉に設計が進められた。不定形な平面のべた基礎は十分な厚みを持った無筋コンクリートとし、複雑な鉄筋加工と配筋はせずに、ひび割れ防止筋を配置するにとどめた。屏風状に螺旋を描く外壁は、L字型に直交した耐力壁を1ユニットとして構成されたもので、階高の大きな壁面であっても安定して自立できる施工性に配慮しながらも、主用途である本棚としての十分な壁面収納量も確保することに成功している。屋根は,中央に配置されたハイサイドライトを兼ねた鉄骨キールトラス(弦材:アングル、斜材:鉄筋)とそこから放射状に伸びる登り梁で構成されている。登り梁と桁、柱などの接合部は、多数の部材が集まり3次元的に複雑な加工・取合とならないように配慮しながら、また、プレカット加工を積極的に活用しながら、現場において少人数で建て方が可能なかたちとした。
(浜田英明)
■建築概要
題名:森の書庫と離れ
所在地:千葉県いすみ市
主用途:書庫・離れ
設計:高池葉子建築設計事務所 担当/高池葉子、尾野克矩、佐藤緋里
構造設計:浜田英明建築構造設計
施工:峯嶌工務店 担当/峯嶌義和
構造体供給(プレカット)・建て方技術指導:シェルター 担当/遠藤康治、佐藤公紀
塗り壁・床仕上げ・土壁ワークショップ:福辺工業所 担当/福邉克吉
塗り壁技術指導:渋谷製作所 担当/渋谷宗一
ETFEフィルム材料:AGC 担当/有賀広志
ETFEフィルム加工・施工:協立工業 担当/小西力
鉄骨製作:房総マリーナ 担当/河野信和
ソファ:イノウエインダストリィズ 担当/坂本有香
防水技術指導:田島ルーフィング 担当/綿引友彦
協力:大好真人(DAISUKI LIGHT)、斎藤由和(アデザイン)、山口翼(モノクローム)、笠井敏文、笠井みずき、佐藤有希子、篠崎祐真、陳淑鳳、日比野遼一、藤井康之、藤井理花、本多大典、Lam Chiu Kwan、Mike chu、相原崚汰、雨宮早咲、安藤直樹、五十嵐莉玖、市川大輝、市花恵麻、井上晋太朗、今井優佑、植谷心愛、碓井若羽、内田明咲、江連見優、太田尚輝、大林誉宙、柿本愛来、加藤夢梨、川村碧生、北村さくら、呉羽広子、光仙賢俊、酒井裕太、鈴木穂高、谷渕真斗、田村朋香、千葉雄士、前野元彦、松田晃鷹、門田奈優、矢野奏美、山田光、山本明里
構造:木造
階数:地上1階
敷地面積:232.2㎡
建築面積:書庫46.8㎡、離れ21.4㎡
延床面積:書庫26.6㎡、離れ21.4㎡
設計:2020年3月~2023年2月
工事:2023年3月~2024年11月
竣工:2024年11月
写真:中村絵
種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) |
---|---|---|
外装・屋根 | 書庫 屋根 | アスファルトシングル葺き ロフティー(田島ルーフィング) |
外装・壁 | 書庫 外壁 | |
外装・その他 | 書庫 軒天 | 水性かび封じ剤(プラザ・オブ・レガシー)+浸透性保護塗料(オスモ&エーデル)+ラーチ合板 |
外装・建具 | 書庫 開口部 | フッ素樹脂ETFEフィルム(AGC)、フッ素樹脂ETFEフィルム(協立工業)、横滑り出し窓 サーモスA(LIXIL)、木製框戸 |
内装・床 | 書庫 床 | コンクリート研磨仕上げ |
内装・壁 | 書庫 壁 | 多機能けい酸カルシウム板(モイス)+一部土壁 |
内装・天井 | 書庫 天井 | ラーチ合板 |
内装・造作家具 | 書庫 棚 | ラーチ合板+一部竹 |
内装・造作家具 | 書庫 ベンチ | 張地 Merit(Maharam)+ラーチ合板 |
内装・設備 | 書庫 空調機器 | |
内装・照明 | 書庫 照明 | 照明(大光電機) |
内装・金物 | 書庫 木材接合部金物 | パネリード(シネジック) |
内装・建具 | 書庫 ドアノブ | 押し棒(ユニオン) |
外装・屋根 | 離れ 屋根 | アスファルトシングル葺き |
外装・壁 | 離れ 外壁 | 改質アスファルトルーフィング ガムクールキャップ(田島ルーフィング) |
外装・その他 | 離れ 軒天 | 浸透性保護塗料+ラーチ合板 |
外装・建具 | 離れ 開口部 | フッ素樹脂ETFEフィルム、竹+木製建具 |
外構・床 | 離れ 外構 | |
内装・床 | 離れ 床 | コンクリート金ゴテ押え |
内装・壁 | 離れ 壁 | 多機能けい酸カルシウム板 |
内装・天井 | 離れ 天井 | 構造用合板 |
内装・造作家具 | 離れ 棚 | ラーチ合板+竹 |
内装・照明 | 離れ 照明 | 照明(大光電機) |
内装・金物 | 離れ ドアノブ | 押し棒(ユニオン) |
内装・建具 | 離れ 木材接合部金物 | パネリード(シネジック) |
※企業様による建材情報についてのご意見や「PR」のご相談はこちらから
※この情報は弊サイトや設計者が建材の性能等を保証するものではありません
「森の書庫と離れ」内覧会
本年SDレビュー入選作「森の書庫と離れ」の内覧会を、2024年12月14日(土)に開催することになりました。
ぜひ皆様のお越しをお待ちしております!
日時:2024年12月14日(土)午前の部:10:00~12:00 午後の部:13:00~15:00(14:00までにお越しください)
①11:00、②13:00、③14:00より、高池が作品解説とご案内をいたします。
住所:千葉県いすみ市高谷
参加方法:事前予約制、下記グーグルフォームより2024年12月11日(水)までにお申込みください。
https://forms.gle/aZjFrmZyXcko4tsx9
こちらから、2024年12月13日(金)15:00までに、BCCメールにて住所などの詳細をご連絡いたします。