SHARE 窪田勝文 / 窪田建築アトリエによる、広島県山県郡の「くらさこ保育所」
窪田勝文 / 窪田建築アトリエが設計した、広島県山県郡の「くらさこ保育所」です。
今回設計した保育所は広島県の北部、島根県との県境に存する中国山地の麓にある。この地で強烈に感じられるもの。それは澄んだ空気や緑の豊かさであり、美しい自然が生活に浸透して、心にほのかな暖かさが芽生えてくる。そんな素晴らしい自然も、この地に生まれ育つ子供達にとっては、いつもと変わらない日常であり、何ら特別な物ではない。更に園舎での集団的な生活環境では、各々の感受性が傷つく事を恐れ、知らないうちに自らの知覚を奥深くへと潜ませる。この建築は、そんな子供達の中に眠る鋭敏な感覚へとアプローチして、周囲をとり巻く自然の素晴らしさに気付き心ふるわす日々が訪れる、そんな園舎を目指そうとした。
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以下、建築家によるテキストです。
今回設計した保育所は広島県の北部、島根県との県境に存する中国山地の麓にある。この地で強烈に感じられるもの。それは澄んだ空気や緑の豊かさであり、美しい自然が生活に浸透して、心にほのかな暖かさが芽生えてくる。そんな素晴らしい自然も、この地に生まれ育つ子供達にとっては、いつもと変わらない日常であり、何ら特別な物ではない。更に園舎での集団的な生活環境では、各々の感受性が傷つく事を恐れ、知らないうちに自らの知覚を奥深くへと潜ませる。この建築は、そんな子供達の中に眠る鋭敏な感覚へとアプローチして、周囲をとり巻く自然の素晴らしさに気付き心ふるわす日々が訪れる、そんな園舎を目指そうとした。
眼前に広がる美しい田園風景は、人々の温もりや自然の豊かさに加え、過疎化や高齢化さえも現わしている。そうした状況下において未来への推力は希薄となり、清廉さと脆弱さが共存する様が散見される。ここで計画する保育所には、地域に溶け込みながら少しでも多くの人達に活力を与え、新たな夢や希望を抱くきっかけをもたらす存在になることをも求められた。
敷地は 32m×88m の長方形の形状を持ち、そこに接道から順番に駐車場、園舎、園庭を配置した。そして又、この保育所が地域の集会所等の利用にも積極的に活用される様、ほぼ段差を持たない鉄骨造の平屋建てとし、バリアフリーな環境も併せ持つ。園舎は 30m×65m 程の L字型のプランで、各室間は広く長い半屋外の廊下によって往来する。設備的には土壌蓄熱式の床暖房、エコキュート、太陽光発電等々、数多くの機能も取り入れて、これからの環境に対応した。
まず初めに大きく全体を覆う屋根を設定し、そこに内部、外部、半外部と幾つかの空間を発生させる。屋根の下を可動式の木製建具で包んだ内部、屋根がなく壁のみで囲われた外部、そして軒の下にあり建具も壁もない半外部と、そのどれもが閉じ切らない流動性を孕み、閉塞感を感じさせない。更に基本として架けた屋根や壁さえも、端部に行くに従って厚みが削られ、存在が軽く薄くなっていく。内部、外部、半外部、それぞれの空間を規定しているはずの屋根や壁の存在が薄らぐ中、子供達は内外をボーダレスに駆け巡り、徐々に内部と外部の境界感が失われる。閉塞性や物質性が剥奪された建築は、どこまでも広がる自然と心が反応する為の触媒となり、両者の反応を強力に加速する。建築が創り出す光や影、風や空気等の自然そのものの顕在化によって、子供達の知覚が深く反応し覚醒する時、そこから無限に広がる自由へと連鎖して、明るく延びやかな未来が描かれていくだろう。
(窪田勝文)
■建築概要
設計:窪田勝文/窪田建築アトリエ
所在地:広島県山県郡
用途:保育所
敷地面積:2489.00m2
建築面積:817.51m2
延床面積:612.77m2
階数:地上1階
構造:S造
設計期間:2010
工事期間:2010-11