SHARE 横浜国立大学大学院Y-GSA+瀬川翠が改修を手掛けた、コモンリビング・工房をもつ、神奈川の集合住宅「コットンハウス」
all photos©長谷川健太
横浜国立大学大学院Y-GSA+瀬川翠(株式会社Studio Tokyo West)が改修を手掛けた、コモンリビング・工房をもつ、神奈川の集合住宅「コットンハウス」です。先に紹介した「ヒルトップマンション」と同じく、このプロジェクトの企画には、リスト株式会社、株式会社NENGO、横浜国立大学大学院Y-GSAが関わっており、産学連携プロジェクトとして行われた。
本計画で着目したのは、帰属意識が芽生えるまでのプロセスだ。本来、設計・施工は、引き渡しを境として入居者の生活とは交わらない。また「つくる」時間は短く、比べて「つかう」時間はとても長い。この計画では「つくる」と「つかう」をシームレスかつ可逆的に繋げ、入居後もデザインや施工を繰り返すことをテーマとしている。その過程で入居者同士が関係を構築することができ、入居者の入れ替わりとともに空間にも新陳代謝が起こる仕組みとなっている。
まず全体計画として、全25戸中12戸が空室となっていた個室群に 4室分の大きなコモンリビング>中くらいの工房>小さな個室 というヒエラルキーをつけ、予算配分を行った。
■リスト株式会社によるプロジェクト解説テキスト
リスト株式会社が所有する集合賃貸住宅「コットンハウス(総戸数23戸)」「ヒルトップマンション(総戸数16戸)」の2物件は、それぞれ築年数による経年劣化が進み、空室率も上昇していた。この空室率の改善を図るため闇雲に家賃を下げる、という選択肢をとるようではこれからの時代生き残れないと考え「家賃以上の価値」を生み出し、選ばれる賃貸住宅を創り出していくことを目的としたリノベーションプロジェクトが始動した。本プロジェクトは株式会社NENGO、横浜国立大学大学院Y-GSAとの産学連携プロジェクトとして推進。プロジェクトはまず第1フェーズとして学生も含めそれぞれの物件ごとにユニット分けを行い、基本構想を練り上げた上で公開プレゼンテーションの形をとり提案を行った。これによりベースとなるアイデアを固め、第2フェーズとして実施活動を推進。建物の持つ様々な課題をひとつひとつ丁寧に解決しながら、実施設計を行い、工事着手に漕ぎ着けていった。竣工後、それぞれの空室は順調に入居が進んでいる。
このプロジェクトでは、空室率の改善といった“現実的な課題解決”はもちろんのこと、人工縮退局面に入った日本における住宅産業の在り方を各社において再認識しつつ、リノベーションによる活性化を通し「企業意識のリノベーション」を実践していくことが、真のテーマであったように思う。
※以下の写真はクリックで拡大します
■コモンリビング
■工房
■個室
以下、建築家によるテキストです。
単身者向け賃貸集合住宅の多くは、経済合理性に基づいた画一的な躯体に拘束されている。そこでの暮らしは窮屈で、少し退屈だ。もっと大らかに、愛着をもって暮らせる場所にならないだろうか。本計画では、リフォーム等の個室で完結した価値向上とは異る視点として、独立性の高い単身者向け賃貸集合住宅でも帰属意識をもてる暮らしを目指し、仕組みと空間の双方を再編集した。
本計画で着目したのは、帰属意識が芽生えるまでのプロセスだ。本来、設計・施工は、引き渡しを境として入居者の生活とは交わらない。また「つくる」時間は短く、比べて「つかう」時間はとても長い。この計画では「つくる」と「つかう」をシームレスかつ可逆的に繋げ、入居後もデザインや施工を繰り返すことをテーマとしている。その過程で入居者同士が関係を構築することができ、入居者の入れ替わりとともに空間にも新陳代謝が起こる仕組みとなっている。
まず全体計画として、全25戸中12戸が空室となっていた個室群に 4室分の大きなコモンリビング>中くらいの工房>小さな個室 というヒエラルキーをつけ、予算配分を行った。
設計は、既存躯体のざっくりとしたスケールに強く定義づけられた空間を人の尺度へと微分することで、住人が気に入った居場所をみつけるきっかけになるよう計画した。部分から全体に派生するように、場所への愛着を持てる住空間を目指した。
コモンリビングでは、スケルトンの躯体に厚さ30ミリの合板をぐるりと一周回している。棚板状の合板は高さと奥行を変えながら、場所場所で机・ベンチ・小上がり・本棚・黒板の粉受け・肘掛・背もたれなどになっている。
個室も同じように、棚や小上がりといった小さな手がかりが、躯体による分節を横断するよう構成した。さらにフックやタオルかけ、テレビ台といったより具体的で微細な設えは入居者が自ら仕立てることができるよう余白のスペースを積極的に計画した。この自主施工が自主施工を支える機能として計画された工房では、工具や家電をシェアできる。新規入居者が個室を設えるのを経験者が手伝うことをきっかけに、完成後も個室に訪れるような関係が生まれており、そこからコモンリビングでの交流に発展する。これは、通常の+αとしての共用部とは逆で、個室内での活動を活発化させることで共用部でのアクティビティを発生させる仕組みだ。その土壌として、施主/設計者/工務店/入居者が協働して行った複数回にわたるワークショップと自主施工により関係を構築していった。
■建築概要
コットンハウス
主要用途:集合住宅
所在地:神奈川県
事業主:リスト株式会社
企画:リスト株式会社、株式会社NENGO、横浜国立大学大学院Y-GSA
施工:株式会社NENGO
設計:横浜国立大学大学院Y-GSA+瀬川翠(株式会社Studio Tokyo West)
サインデザイン:株式会社Studio Tokyo West
構造:鉄筋コンクリート造5階建(既存)
写真:長谷川健太