SHARE 市川大輔 / admによる、愛知・半田市の「亀崎公園の再編」
市川大輔 / admが設計した、愛知・半田市の「亀崎公園の再編」です。
境界線をほぐす、ということに関心がある。境界線とは制度や地権、利害関係や管理体制、築年数やイデオロギーなど様々な要件でつくられる。ときに境界は建築の自律性を担保する。例えば敷地境界線は敷地形状を明らかにし枠組化することで、基準法の集団規定を記述可能にしている。
そんな境界線をほぐしていく。境界線の否定ではなく、いったん引かれて運用された境界線を創造的な形でほぐしたい。小さな越境のその先に、他律的で複雑な関係性の総体を建築にすることが出来ないかと考えている。
半田市亀崎地区は衣浦湾に面し、海と小高い丘に挟まれた小さな平地につくられた集落である。かつては醸造業と漁業で栄えた。伊勢湾台風以後は強固な堤防ができたため(これも境界線)海と生活の距離は広がった。産業構造の変化もあり、醸造業は今では1軒残るだけで、かつて賑わった町家が軒を連ねる商店街も店は数えるだけとなった。
このまちは、せこみちと呼ばれる細い路地が特徴的な都市空間をつくり出している。せこみちに生活が溢れ、良い意味での公私混同が魅力的だ。また500年間も継承される伝統的な潮干祭はユネスコの世界文化遺産に「山・鉾・屋台行事」のひとつとして登録された。そんなまちの魅力に、まちづくりとしての魅力を重ね合わせ、近年地域活動がとても活発である。
そんなまちの中心部にある亀崎公園は、とても小さな街区公園だが、地域の人々にとって大切な場所である。日常的な子どもたちの遊び場であるのと同時に、資源回収やマルシェイベントのメイン会場、潮干祭の休憩スペースなど地域活動を支える広場としての役割がある。しかしながらこれまでの亀崎公園は、男女共用の大便器が一か所あるだけ、自治会の倉庫や消防用の地下貯水タンクのためのポンプ庫などが場当たり的に置かれ、桜などの樹木も剪定が十分に行われず樹間隔がとれず鬱蒼とし老木化も顕著だった。そのような事情により、全体を調整して、より使いやすく、より親しみやすくするための整備が求められた。
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以下、建築家によるテキストです。
境界線をほぐす
境界線をほぐす、ということに関心がある。境界線とは制度や地権、利害関係や管理体制、築年数やイデオロギーなど様々な要件でつくられる。ときに境界は建築の自律性を担保する。例えば敷地境界線は敷地形状を明らかにし枠組化することで、基準法の集団規定を記述可能にしている。
そんな境界線をほぐしていく。境界線の否定ではなく、いったん引かれて運用された境界線を創造的な形でほぐしたい。小さな越境のその先に、他律的で複雑な関係性の総体を建築にすることが出来ないかと考えている。
公園の再編
半田市亀崎地区は衣浦湾に面し、海と小高い丘に挟まれた小さな平地につくられた集落である。かつては醸造業と漁業で栄えた。伊勢湾台風以後は強固な堤防ができたため(これも境界線)海と生活の距離は広がった。産業構造の変化もあり、醸造業は今では1軒残るだけで、かつて賑わった町家が軒を連ねる商店街も店は数えるだけとなった。
このまちは、せこみちと呼ばれる細い路地が特徴的な都市空間をつくり出している。せこみちに生活が溢れ、良い意味での公私混同が魅力的だ。また500年間も継承される伝統的な潮干祭はユネスコの世界文化遺産に「山・鉾・屋台行事」のひとつとして登録された。そんなまちの魅力に、まちづくりとしての魅力を重ね合わせ、近年地域活動がとても活発である。私も空き家対策をはじめとした処々のプロジェクトに参画している。市民と地元企業の寄付によってコミュニティーの拠点施設である「街かどサロンかめとも」が2013年にオープンしたこともあり、年に一回のマルシェや盆踊りの復活など市民主導の活動が根付いてきている。
そんなまちの中心部にある亀崎公園は、とても小さな街区公園だが、地域の人々にとって大切な場所である。日常的な子どもたちの遊び場であるのと同時に、資源回収やマルシェイベントのメイン会場、潮干祭の休憩スペースなど地域活動を支える広場としての役割がある。しかしながらこれまでの亀崎公園は、男女共用の大便器が一か所あるだけ、自治会の倉庫や消防用の地下貯水タンクのためのポンプ庫などが場当たり的に置かれ、桜などの樹木も剪定が十分に行われず樹間隔がとれず鬱蒼とし老木化も顕著だった。そのような事情により、全体を調整して、より使いやすく、より親しみやすくするための整備が求められた。
オープンスペースとまちの間の整頓
そこで、公園内外の「境界線をほぐし」ながら、公園を「再編」することに挑戦した。
まず、既存の樹木と新しく植える樹木、遊具、ポンプ庫、自治会倉庫、そして新たに建設する公衆トイレと休憩所といった一見雑多なものを同時に配置し直すことにした。中央の広場を最大化するように、このオープンスペースとまちの間に、多種なこれらを慎重に配置した。既存の樹木を避けるように、新しい樹木が適切な間隔を保てるように、建物に囲まれた舞台が現れるように、その舞台に向かって緩やかな勾配地面となるように、広場にやさしい日陰をつくるように、そんな局所的で切実な諸事情が建築や遊具の配置を決定付けた。それは俯瞰的な配置計画というよりも、個別的局所的事情と全体視点のあいだで複合的な整頓をしているという感覚だった。
景観に参加する
新しく建てる建築には、亀崎のまちで見られる素材や様式を採用した。具体的には、瓦屋根、切妻、平入、杉板外壁、下見張り、間口いっぱいの開口である。記号論と誤解されないか、あるいは歴史的な偏重を生むことにつながらないか、大変に迷った。しかしながら、景観に滑らかに参加することや、ゆっくりと積み重なった亀崎の景観に居場所をあたえることを優先して苦慮の上に採用した。まちの歴史を実践的に記述する。歴史と現在の対立でもなければ、歴史の偏重でもない。歴史の知性を尊び、その上で気軽に改変し、現在に合わせた形で修理を加え運用していくことに意義を感じている。また、構法には地方で月並みな木造在来工法を採用することで、地元の大工さんが建設に参加してもらいやすい状態づくりにも貢献したかった。結果的に、建築、電気、衛生、外構全ての工事を地元の業者が施工してくれたことは大変喜ばしかった。
まちに接続する
建築は軒を深く低くし、隣棟同士が接するような距離感とし、その間に園路を通した。園路とせこみちの接続を試みた。せこみちの知性とは、生活と大胆につながるコモンであり、それが逆に日常生活を支えているという点だ。だから、公園がまちへ越境していくことが重要だった。安全面の理由から、以前は敷地境界線上にはブロック塀が囲んでいたが、それを取り払い、たくさんの入口を設けた。歩道のない道路側と隣地側には生垣とベンチで塀の機能を持たせて視覚的につなげた。さらに園内の舗装と歩道の舗装を同種のものとすることで境界線をほぐしていく。
まちと公園の距離が意識的に近くなること。公園が地域住民のコモンとして資源化すること。持続的な活動拠点になること。それがこの公園の再編での意図であり、願いである。
■建築概要
名称:亀崎公園の再編
所在地:愛知県半田市
用途:公衆便所
階数:平屋建て
敷地面積:839.67㎡
建築面積:53.96㎡ (建蔽率6.43% 許容80%)
延床面積:45.51㎡ (容積率5.42% 許容200%)
竣工:2017年4月
構造・構法:木造在来工法
設計:建築 市川大輔/adm(architectural design market)
構造 中西淳也/JUN構造
施工:植田組
竣工写真:エスエス名古屋支店、adm
種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) |
---|---|---|
外装・床 | 園路 | |
外装・壁 | 外壁 | |
外装・屋根 | 屋根 | 防災日本 三州 瓦葺き |
外装・建具 | 木製建具 | |
内装・床 | 床 | 磁器質タイル300角(LIXIL) |
内装・壁 | 壁 | 磁器質タイル150角、100角、50角(LIXIL) |
内装・天井 | 天井 | 構造用合板現し |
内装・照明 | ウォールライト |
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