竹中工務店が設計した、長野・塩尻市の宿泊施設「歳吉屋 BYAKU Narai」です。
古い町並みが残る“奈良井宿”の重要伝統建築の再生計画、潜在価値の掘り起こしを課題として古民家の歴史や背景と対話し文脈を引継いだ新旧が交わる空間を考案、歴史を継承し町に開かれた施設のモデルも目指されました。施設の公式サイトはこちら。
長野・奈良井宿は江戸と京を結ぶ中山道の中間地点に位置し、道中最高標高の鳥居峠の入り口に位置する。
1kmという、全国の宿場町でも最大規模を誇る伝統的な町並みが圧倒的な存在感を示す一方で、宿泊施設やアクティビティーに乏しく、潜在的な価値をどう掘り起こすかが課題であった。
その町並みの中でも象徴的な「杉の森酒造」は、寛政5年に創業し、2012年に廃業するまで、約200年の歴史を持つ。江戸時代に創建され重要伝統建築物群として登録された母屋と家財蔵、味噌蔵、酒づくりが行われていた酒蔵があり、それらを八つの客室を持つ宿、別棟とも共用する30席のレストラン、宿泊客以外も利用できるバーと温浴施設へと再生した。
外観や構造体の保存規制の中で耐震性能や温熱環境、防災、遮音機能の向上を図ると共に、古民家の持つ歴史的背景や空間、架構、設えなどと丁寧に対話を繰り返した。そうすることで、残すべきものを活かしつつ、新鮮な驚きや発見がある空間への再構築を試みた。
八つの客室はヴィラのようにそれぞれが独立し、専用のアプローチと庭、露天風呂を持つ。江戸時代の商家の特徴的な間取りから、ハレ/ケ、ミセ/オクなどの文脈を掘り起こし、八つ全てに異なるテーマを設定。架構や床の間、欄間、竿縁天井などの古い設えと新たに挿入する設えを文脈に沿って精選した。
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以下、建築家によるテキストです。
200年の歴史を未来につなぐ
長野・奈良井宿は江戸と京を結ぶ中山道の中間地点に位置し、道中最高標高の鳥居峠の入り口に位置する。
1kmという、全国の宿場町でも最大規模を誇る伝統的な町並みが圧倒的な存在感を示す一方で、宿泊施設やアクティビティーに乏しく、潜在的な価値をどう掘り起こすかが課題であった。
その町並みの中でも象徴的な「杉の森酒造」は、寛政5年に創業し、2012年に廃業するまで、約200年の歴史を持つ。江戸時代に創建され重要伝統建築物群として登録された母屋と家財蔵、味噌蔵、酒づくりが行われていた酒蔵があり、それらを八つの客室を持つ宿、別棟とも共用する30席のレストラン、宿泊客以外も利用できるバーと温浴施設へと再生した。
外観や構造体の保存規制の中で耐震性能や温熱環境、防災、遮音機能の向上を図ると共に、古民家の持つ歴史的背景や空間、架構、設えなどと丁寧に対話を繰り返した。そうすることで、残すべきものを活かしつつ、新鮮な驚きや発見がある空間への再構築を試みた。
八つの客室はヴィラのようにそれぞれが独立し、専用のアプローチと庭、露天風呂を持つ。江戸時代の商家の特徴的な間取りから、ハレ/ケ、ミセ/オクなどの文脈を掘り起こし、八つ全てに異なるテーマを設定。架構や床の間、欄間、竿縁天井などの古い設えと新たに挿入する設えを文脈に沿って精選した。
200年の間残されてきた力強い架構や設えと共に、新たに挿入する設えがその歴史の時間の流れに乗り、変化していくために、本物の素材を採用している。木曽の伝統工芸である漆を使った床や漆和紙、地場材であるミズメザクラを使ったミニバー、地元職人による漆喰壁などに加え、ハンドスクレープ加工したフローリングや酒麹をほうふつさせる凹凸のある襖紙など、手仕事感を大切にした素材を、建物と対話しながら緻密に挿入した。また、既存建具を全て実測し流用することで、あたかも最初からそこにあったかのようなたたずまいで空間になじんでいる。
酒造のメイン工程を行っていた仕込み蔵をレストランとし、蔵の気積や架構、土壁の表情などを活かしている。加えて、再興した酒造エリアをガラス越しに見せることで、新旧の酒造の気配を感じられる空間とした。気積のある旧貯蔵蔵は温浴施設へと更新した。木曽五木や長野県産の柴石を用い、お湯は山水を木材のチップを使ったバイオマス発電で沸かし利用している。また、旧味噌蔵は宿泊者や地元の人が集えるスタンディングバーに再生した。
「杉の森酒造」の過去をつくり、ストーリーを未来へと紡いでいくこと。今回の改修では歴史や地域、そして建物との丁寧な対話によって、訪れる度に驚きや非日常性をもたらす空間を創出し、宿泊や飲食の体験を通して深く歴史や地域に触れることを大切にした。これまでの酒蔵としての200年の歴史を継承しつつ、町に開かれた、持続性のある複合分散型施設のモデルとなることを意図した。
(美島康人+長谷川裕馬/竹中工務店)
■建築概要
作品名:歳吉屋-BYAKU Narai-
所在地:長野県塩尻市奈良
用途:宿、レストラン、バー、温浴施設
用途地域地区:伝統的建造物群保存地区
構造と規模:木造 地上2階建て
改修設計:株式会社竹中工務店
施工:北信土建株式会社
敷地面積:1,816.37m2(母家敷地:840.61 m2、酒造敷地:975.76 m2)
建築面積:1,018.37m2(母家敷地:399.05 m2、酒造敷地:619.32 m2)
延床面積:1,182.71m2(母家敷地:538.16 m2、酒造敷地:644.55 m2)
工期:2020年9月~2021年7月(解体工事含む)
竣工:2021年7月
写真:藤井浩司(TOREAL)、ロココプロデュース 林広明
建材情報種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) | 外装・壁 | 外壁 | 杉板下見板張り
漆喰仕上げ
既存土壁
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内装・床 | ロビー・客室床 | オーク材フローリングハンドスクレープ加工 [特注](望造)
麻漆フローリング貼り [特注 / 地元職人]
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内装・床 | レストラン・バー床 | モルタル風左官仕上げ:モールテックス(ビールインターナショナル)
モンスターオーク材フローリング特注ハンドスクレープ加工 [特注](望造)
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内装・床 | 大浴場床 | 柴石貼り
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内装・壁 | ロビー・客室壁 | 漆喰仕上げ
聚楽壁
漆和紙貼り:漆和紙(木曽アルテック社)
縁甲板貼り
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内装・壁 | レストラン・バー壁 | 既存土壁
再生セメント板貼り:ソリド(ケイミュー)
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内装・壁 | 大浴場壁 | 木曽五木:ヒノキ、サワラ、アスナロ、ネズコ、コウヤマキ
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内装・天井 | ロビー・客室天井 | 既存竿縁天井
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内装・天井 | レストラン・バー天井 | 木毛セメント板EP塗装
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内装・天井 | 大浴場天井 | 左官材吹き付け塗装:バンドーウール(阪東工業)
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内装・建具 | ロビー・客室建具 | 襖紙:特注和紙(Wajue)
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内装・家具 | ロビー家具 | テーブル、イス [特注](大河内家具工房)
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内装・家具 | 客室家具 | ヘッドボード、ナイトテーブル、ソファ、テーブル、イス [特注](MAKE AND SEE)
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内装・家具 | レストラン・バー家具 | テーブル、ベンチソファ [特注](MAKE AND SEE)
イス(柏木工)
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外構・床 | 外構 | 木曽錆砂利敷き
飛び石:木曽産ゴロタ石
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