溝部礼士建築設計事務所が設計した、東京・目黒区の住宅「Fの貸家」です。
施主宅の隣に計画されました。建築家は、将来は自らが住むとの要望を意識する中で、“賃貸住宅”と“専用住宅”の両者の感覚を撞着した状態での建築化を志向しました。それにより、ひとつの状態に結実しない事から生まれる豊かさが求めました。
母屋の庭に小さな貸家を建てた。
この敷地(庭)は90年代にミニ開発で分筆され、隣家と同じ3階建て住宅が建つ予定だったところを、母屋の採光環境を懸念して取得したことから始まる。そこから、家族の集う庭として大事に使われ続けてきたが建築することを決断された。
当初、建主は共同住宅を希望していたものの、敷地状況や1000万円台の予算、将来は自らが住みたいという要望があったことから一戸建ての貸家を建てることを提案した。
建主が住むのか、他者が住むのかで、間取りや設えはもちろん、母屋との関係がどうあるべきかが変わる。建主と打合せを重ねていくにつれて、所有すること(専用住宅)と借用されること(賃貸住宅)の意識が見え隠れした。そこを建築に落とし込もうと試みた。一元的につくろうとは考えず、むしろ撞着されていくことをよしとした。部位から室単位においても、ひとつの状態に結実しないことを目指しているともいえる。
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以下、建築家によるテキストです。
所有と借用のあと
母屋の庭に小さな貸家を建てた。
この敷地(庭)は90年代にミニ開発で分筆され、隣家と同じ3階建て住宅が建つ予定だったところを、母屋の採光環境を懸念して取得したことから始まる。そこから、家族の集う庭として大事に使われ続けてきたが建築することを決断された。
当初、建主は共同住宅を希望していたものの、敷地状況や1000万円台の予算、将来は自らが住みたいという要望があったことから一戸建ての貸家を建てることを提案した。
敷地は人で賑わうショッピングアーケードを抜けて、袋小路を進んだ静かなところにある。人通りが少なく落ち着いた雰囲気と生活から溢れ出た物たちがこの道に親近感を与えている。
かつての庭の存在も後押しして、地上階はそれを内部へと引き込むような場所にした。開きつつも暗く、身体スケールに近づこうとする空間(低い天井、肩幅寸法の梁ピッチ)は、場に応じた行為を誘う。
一方で、2階には賃貸を意識して明るく閉じた場所をつくった。ここではできる限りの最大スケール(気積)で、住み手の自由を担保する。その上下を繋ぐ階段室は、同時に母屋との間もとりもつように、増築したような現れで緩衝空間となっている。真壁から大壁へと移り変わり、母屋とは開くことと閉じることの両義的な状態で距離感を保つ。
ディテール(モノのあり方)は1階から階段室、2階にかけて即物的な納まりから抽象的な納まりへと移ろう。おのおののレベル設定や断面構成は周辺環境(母屋の採光環境、視線の交わり、道からの見え方)を発端に決めていき、それが住宅の構えとなった。
建主が住むのか、他者が住むのかで、間取りや設えはもちろん、母屋との関係がどうあるべきかが変わる。建主と打合せを重ねていくにつれて、所有すること(専用住宅)と借用されること(賃貸住宅)の意識が見え隠れした。そこを建築に落とし込もうと試みた。一元的につくろうとは考えず、むしろ撞着されていくことをよしとした。部位から室単位においても、ひとつの状態に結実しないことを目指しているともいえる。
住み手の主体性と建築が対話できる状態。そこから芽生える人間の生活感情はきっと豊かなのではないか。そういうことを考えて設計した住宅である。
■建築概要
名称:Fの貸家
所在地:東京都目黒区
主要用途:一戸建ての住宅
設計:溝部礼士建築設計事務所 担当/溝部礼士
構造:坪井宏嗣構造設計事務所 担当/坪井宏嗣
施工:広橋工務店
地域地区:第1種中高層住居専用地域・準防火地域・第2種高度地区
主体構造:木造在来工法
階数:地上2階
最高高さ:5,430㎜
軒高さ:5,070㎜
敷地面積:49.23㎡
建築面積:28.63㎡(建蔽率58.16% 許容60%)
延床面積:52.29㎡(1F:28.63㎡ 2F:23.66㎡)(建蔽率106.22% 許容160%)
竣工:2016年12月
撮影:新建築社写真部