溝部礼士建築設計事務所が設計した、東京・江戸川区の住宅「石黒邸」です。
親水緑道に面した敷地に計画されました。建築家は、施主が望んだ“ブルータル”と場所への相応しさを求めて、道との関係を作る深いヴォイドを持つ建築が考案されました。また、木造750mmモデュールが生む特異な均衡も空間を特徴づけます。
都内の自然豊かな親水緑道に面する敷地。
敷地背後からは南からの明るい日差しと川からの冷たい風がそそぐような場所である一方で、隣家5軒と接し視線の配慮も必要であった。そこに建主と母のふたりが住まう住宅をつくった。
それぞれ独立した生活を望み、建主である石黒さんは建築・音楽・写真と多趣味に活動されていた。石黒さんからはブルータルな建築を要望されつつも、緑溢れるこの土地を選ばれたあたりにその人柄を感じた。そのため、この場所にふさわしいブルータルさが問いにあったのと、正面にたつケヤキが印象的だったので、このケヤキと建築がいかに対峙しながらも同時に享受するかということを考えてスタートした。
全体の構成は一般的な木造モデュールではなく、750mmモデュールを採用した。910mmでつくったあとに組み替えている。この採用が建築全体とエレメントのプロポーションを狂わす。納まらない階段は横長に伸び、狭い扉は両開きとなって縦長のプロポーションを帯びた。全体的には750mmグリッドの天井躯体により圧縮がかかったような密実な空間となる。このともすれば強引な操作が、建築の強さとして変異することを狙った。
山岸剛による写真
以下の写真はクリックで拡大します
楠瀬友将による写真
以下の写真はクリックで拡大します
図面
以下の写真はクリックで拡大します
以下、建築家によるテキストです。
750mmモデュールの知覚
都内の自然豊かな親水緑道に面する敷地。
敷地背後からは南からの明るい日差しと川からの冷たい風がそそぐような場所である一方で、隣家5軒と接し視線の配慮も必要であった。そこに建主と母のふたりが住まう住宅をつくった。
それぞれ独立した生活を望み、建主である石黒さんは建築・音楽・写真と多趣味に活動されていた。石黒さんからはブルータルな建築を要望されつつも、緑溢れるこの土地を選ばれたあたりにその人柄を感じた。そのため、この場所にふさわしいブルータルさが問いにあったのと、正面にたつケヤキが印象的だったので、このケヤキと建築がいかに対峙しながらも同時に享受するかということを考えてスタートした。
要望や敷地状況から開口部制限を用いて、準防火地域内木造3階建てでも躯体現しとできる建ち方を選んだ。露わになった梁は長手方向(南北)に架けて光を伝え、扁平形状の合板受け材(60×180mm)と合わさってリズムをつくる。
1人用の小さなテラスは、隣家の窓や外灯、親水緑道との距離感に対して、深いヴォイド状の空間をつくり、ケヤキと向かい合う。フレーミングされた眺望がケヤキとの関係を強め、また、この建築の構えとなっている。
駐車スペースと南採光を考慮してできた雁行形状は、1室ながらも分節した場をつくり、多趣味な建主と母の住まいのそれぞれの生活に馴染む。3階ヴォリュームは、正面に立つケヤキの垂直性に釣られるように中心に据え置かれ、対称性のある立面をつくった。
一方で、全体の構成は一般的な木造モデュールではなく、750mmモデュールを採用した。910mmでつくったあとに組み替えている。この採用が建築全体とエレメントのプロポーションを狂わす。納まらない階段は横長に伸び、狭い扉は両開きとなって縦長のプロポーションを帯びた。全体的には750mmグリッドの天井躯体により圧縮がかかったような密実な空間となる。このともすれば強引な操作が、建築の強さとして変異することを狙った。
機能や目的から逸脱し、意味を失って、部位がモノとして生き始める。それらが、調度品の放つ照りや質感、順光に煌めく木々や水面のさざ波などと等しく出会うとき、建築が日常の一部分として強く実感され愛情に満ちた関係が現れることを望んだ。
■建築概要
名称:石黒邸
所在地:東京都江戸川区
主要用途:一戸建ての住宅
家族構成:建主+母+犬1匹
設計:溝部礼士建築設計事務所 担当/溝部礼士
構造:坪井宏嗣構造設計事務所 担当/坪井宏嗣、岩永陽輔(元所員)
施工:広橋工務店
主体構造:木造在来工法
階数:地上3階
地域地区:第1種住居地域・準防火地域・第2種高度地区
最高高さ:8,930㎜
軒高さ:8,660㎜
敷地面積:107.79㎡
建築面積:58.55㎡
延床面積:134.95㎡(テラス含む)
竣工:2021年1月
撮影:山岸剛、楠瀬友将