三谷勝章が設計した、大阪の「富田林の家」です。
緑地に面した住宅地に建つ設計者の自邸です。建築家は、環境と呼応する建築を求め、隣地から中庭まで緑を連続させ壁や屋根の重なりで囲われつつ開かれた関係性を構築しました。そして、季節で移り変わる木々の煌めきや陰影を享受できる事も意図されました。
夫婦2人が住む設計者の自邸である。
敷地は、緩やかな傾斜地に位置する閑静な住宅地にあり、北側は、シラカシの並木とクスノキの大樹がある豊かな緑地に接している。
この地区は敷地境界からの後退距離が定められているため、隣棟間隔にゆとりが生じる。そこで、北側の緑地から建物を囲む開放的な庭、そして中庭へと、連続するみどりを配置することで、緑豊かな環境を住宅内に取り込むとともに、周囲とみどりと呼応するような景観をつくれないかと考えた。
また、前面道路から1mほど高い位置に建物を配置したため、開放的な大窓を持つ住居ながらも、外部からは内部が見えそうで見えない。前庭、中庭、リビング、北庭は、壁、開口部、屋根によって囲われているような、開かれているような構成とし、それぞれの場所が重なり合って見える関係性をつくった。更に、床のレベルも、エントランスから中庭、デッキテラス、腰掛、浴室、寝室まで、450mm毎を基本に徐々にレベルを変えており、屋根、軒天は各室を連続し傾斜しながら中庭を囲むように緩やかに繋げている。
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以下、建築家達によるテキストです。
平屋の庭と床、屋根、壁、開口がつくる関係性
夫婦2人が住む設計者の自邸である。
敷地は、緩やかな傾斜地に位置する閑静な住宅地にあり、北側は、シラカシの並木とクスノキの大樹がある豊かな緑地に接している。
この地区は敷地境界からの後退距離が定められているため、隣棟間隔にゆとりが生じる。そこで、北側の緑地から建物を囲む開放的な庭、そして中庭へと、連続するみどりを配置することで、緑豊かな環境を住宅内に取り込むとともに、周囲とみどりと呼応するような景観をつくれないかと考えた。
また、前面道路から1mほど高い位置に建物を配置したため、開放的な大窓を持つ住居ながらも、外部からは内部が見えそうで見えない。前庭、中庭、リビング、北庭は、壁、開口部、屋根によって囲われているような、開かれているような構成とし、それぞれの場所が重なり合って見える関係性をつくった。更に、床のレベルも、エントランスから中庭、デッキテラス、腰掛、浴室、寝室まで、450mm毎を基本に徐々にレベルを変えており、屋根、軒天は各室を連続し傾斜しながら中庭を囲むように緩やかに繋げている。
壁とみどりの重なりは、奥行感のある豊かな屋内外との関係性をつくり、更に屋根の開口による空の見え隠れ、異なる床のレベル、大地のみどりとの重なりは、水平の奥行感、囲われ感、上下レベルの重なりをつくり多様な表情とともに優しく護られているような心地よさを生み出している。
更に、太陽の光によって、照り葉の煌めき、木々の陰影、屋根や開口による影と反射が、各所の床、壁に時々刻々と映し出され、季節に応じた移ろいのある情景を楽しむことができる。窓を開けると傾斜屋根に導かれるように緩やかな風が通り抜け、みどりの香りが心地よい一体感をもたらす。みどりと周囲環境と住居各所の間と間の関係性を楽しめる住居である。
(三谷勝章)
建築全体を包むようにねじれ上がる大屋根のエントランスアプローチには、庇と同厚で大きなスパンの屋根をかけるために、軽量溝形鋼を垂木に用いている。また、エントランスの軒となる、2階の寝室テラスの片持ちボリュームは、RC壁から浮かせるために、丸鋼をポスト柱に用いた。
更に中庭に面する白い目隠し壁は、目隠し壁を地面から切り離し浮かせるために、水平方向にフラットバーと小径鋼棒で擁壁に接続している。木造でありながら限定的に鋼材を取り入れることで、屋根、壁、床にスキマを持たせ、良い意味での違和感と浮遊感を獲得している。
(柳室純)
風景の形象
前後の緩やかな高低差の反映と、背後のシラカシやクスノキの豊かな緑への回答が問われる敷地にふさわしい、周囲の環境と見事に接続された建築計画である。道路からの前・中・奥庭のグラデーションと、建築を周回する外部空間の連続性を重視した庭の構成となっている。
この地域の近くには陶器山という里山が残っており、粘土質の土壌であることから古墳時代より陶工が盛んな地域で、燃料の薪として活用された二次林の里山の植生が今も残っている。アカマツ・コナラなど、それらの植生を参照した樹種を主木とし、音楽的とも言える建築の屋根・壁のリズムに共鳴するような直立性の木立を全景に林立させた。
低く抑えられた前景の傾斜屋根は室内に光を豊かに取り込む操作となり、下枝の少ない中高木を重ねることで奥行きの深い室内に木漏れ日の揺らぎを強調できるように配慮した。広大な敷地で豊かな開口部が多く取られているにも関わらず、植栽での目隠しがほとんど必要のない設計は、建築自身が外構性を持ちながら外部空間と緻密に接続された計画であることの証である。その内外の関係性の中で植栽の透明度を高めることができ、建築のキャンバスに樹木の造形をシンプルに浮かび上がらせることができた。
地表面は粘土質の土壌を活かし、前景には急勾配の盛り土による造形を行いながらマイクロクローバーの種子を散布し、広い庭面積の中でコストを抑えながらも一体的できめ細やかな緑の量感を生み出した。草丈の低いマイクロクローバーに覆われた土の造形は建築のダイナミズムと協調し、樹木のシルエットを克明に浮かび上がらせる物静かな土台となっている。
中庭・奥庭の低木はアジサイやクチナシ、ブルーベリーなど、ダイニングでも楽しめる植物を多く入れるとともに、野生的なヤグルマソウやヒトツバなどの下草で大地の歴史を感じさせる演出を行なっている。大きな開口部を通して、木々を透き通る風や木漏れ日、花の香りが内部にまで浸透していく暮らしの画が思い浮かばれる。
涼しげなテラスで庭を存分に楽しんでもらえることを願っている。また、住宅街の日常の中で、木立に佇む建築の姿が、通りゆく人々に懐かしい風景のように感じてもらえると嬉しい。
(荻野寿也・荻野彰大)
■建築概要
富田林の家
所在地:大阪府富田林市
主要用途:専用住宅
家族構成:夫婦
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設計
建築:三谷勝章
構造:柳室純構造設計 担当/柳室純
外構・造園:荻野景観設計 担当/荻野寿也、荻野彰大
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施工
いなせ建設株式会社 担当/佐藤礼二
外構・造園:荻野景観設計 担当/荻野寿也、荻野彰大
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主体構造・構法:木造、一部鉄骨造、地下壁式RC造
杭・基礎:直接基礎
階数 地下1階 地上1階
軒高:4,790mm
最高の高さ:5,010mm
敷地面積:451.81m2
建築面積:138.56m2(建蔽率 30.67% 許容:42.54%)
延床面積:148.60m2(容積率 26.32% 許容:88.91%)地下1階 40.40m2 1階 108.20m2
地域地区:都市計画地域 市街化地域 宅地造成規制地区、法22 条区域
道路幅員:南6m
駐車台数:1台
設計期間:2018年12月~2020年7月
施工期間:2020年8月~2021年6月
写真:鳥村鋼一