SHARE 佐藤文+鹿嶌信哉 / K+Sアーキテクツによる、東京の「新宿SOHO」。企業の拠点機能と生活空間を内包する計画。“個性と存在感”を求め、そびえ立つ“凛とした佇まい”と遺跡の様な“長い時間軸”を備えた建築を志向。常に仕事に向合う為に“会社の一部に住空間を挿入”する様に作る
佐藤文+鹿嶌信哉 / K+Sアーキテクツが設計した、東京・新宿区の「新宿SOHO」です。
企業の拠点機能と生活空間を内包する計画です。建築家は、“個性と存在感”を求め、そびえ立つ“凛とした佇まい”と遺跡の様な“長い時間軸”を備えた建築を志向しました。また、常に仕事に向合う為に“会社の一部に住空間を挿入”する様に作りました。
敷地は新宿と飯田橋の中間地点にあたる牛込原町にある。
江戸時代には、武家地・寺社地として下町情緒のある界隈であった。今も寺社の森が点在し、近くには古くから営む小さな印刷所や、古い民家が散見され、下町の風情を残している。一方で大久保通り沿いには高層マンション建ち並び、寺社の森と新旧の対比を見せている。敷地はその大通りから一本入った袋小路の私道に面していて、戸建て住宅やアパートなど10軒程が密集して建っているエリアにある。
クライアントは敷地面積が60㎡弱の小さな土地を購入し、会社の拠点機能と住宅機能を兼ね備えた建物を作り、世界に向けて情報発信をするための基地にしようと考えた。
仕事とプライベートの境が無く24時間仕事と向き合う特異な生活形態を反映して、この建物も仕事場と住まいの境が無い計画になっている。会社としては社員数が相当数いるものの、コロナ以前から全員がリモートワークで執務をしていて、ごく稀に対面で会議をする程度であるとのことだ。ある時は職場であり、ある時は住まいであり、ある時はメディアスタジオにもなるフレキシブルなプログラムが要求された。SOHOと言えど、住空間+αの執務スペースではなく、会社の一部に住空間が挿入されたようなプログラムである。
会社の拠点機能を持つ建築として力強い個性と存在感を示すために、どのような建築であるべきなのかを模索することとなった。
世界発信の基地としては空にそびえ立つような建築が相応しいと考えていた。
そこで、天空率を使用し、建物形状と高さの検討を重ね、建物の両サイドのボリュームを欠き取ることで建物高さを最大限確保することにした。幅員の狭い前面道路からは建物を仰ぎ見る形となり、空にそびえ立つ凛とした佇まいの建築になる。また、どこにでもあるような近代的なビルではなく、石切場か遺跡のような長い時間軸に寄り添う建築にし、存在感を示したいと考えた。将来周辺の建物が建て替わっても、この場に静かに存在し続けるような力強いデザインイメージである。
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以下、建築家によるテキストです。
新宿SOHO ―職住混在型住宅―
1.下町の風情と都市的な風景
敷地は新宿と飯田橋の中間地点にあたる牛込原町にある。
江戸時代には、武家地・寺社地として下町情緒のある界隈であった。今も寺社の森が点在し、近くには古くから営む小さな印刷所や、古い民家が散見され、下町の風情を残している。
一方で大久保通り沿いには高層マンション建ち並び、寺社の森と新旧の対比を見せている。敷地はその大通りから一本入った袋小路の私道に面していて、戸建て住宅やアパートなど10軒程が密集して建っているエリアにある。
2.小さいながらも世界発信を目論む基地
クライアントは敷地面積が60㎡弱の小さな土地を購入し、会社の拠点機能と住宅機能を兼ね備えた建物を作り、世界に向けて情報発信をするための基地にしようと考えた。
仕事とプライベートの境が無く24時間仕事と向き合う特異な生活形態を反映して、この建物も仕事場と住まいの境が無い計画になっている。会社としては社員数が相当数いるものの、コロナ以前から全員がリモートワークで執務をしていて、ごく稀に対面で会議をする程度であるとのことだ。ある時は職場であり、ある時は住まいであり、ある時はメディアスタジオにもなるフレキシブルなプログラムが要求された。SOHOと言えど、住空間+αの執務スペースではなく、会社の一部に住空間が挿入されたようなプログラムである。
会社の拠点機能を持つ建築として力強い個性と存在感を示すために、どのような建築であるべきなのかを模索することとなった。
3.天空率を使用して最大限高くした建物ボリューム
前面道路は幅員4mであり、道路斜線によって道路側の高さが3階程度に抑えられることになる。しかし世界発信の基地としては空にそびえ立つような建築が相応しいと考えていた。
そこで、天空率を使用し、建物形状と高さの検討を重ね、建物の両サイドのボリュームを欠き取ることで建物高さを最大限確保することにした。幅員の狭い前面道路からは建物を仰ぎ見る形となり、空にそびえ立つ凛とした佇まいの建築になる。
また、どこにでもあるような近代的なビルではなく、石切場か遺跡のような長い時間軸に寄り添う建築にし、存在感を示したいと考えた。将来周辺の建物が建て替わっても、この場に静かに存在し続けるような力強いデザインイメージである。
そこで道路に面する壁は特殊型枠によって地層のような荒々しい表情を作り、地層の上に樹木が自然に植生したような姿を目指した。その他の隣家に面する3面は、外断熱を採用し、内部空間もコンクリートの躯体のままの力強い表現となるようにした。
4.小さなフットプリントゆえの立体的工夫
建築面積はわずか34㎡強(10.38坪)で、その小さなフットプリントの中に階段室とエレベーターシャフトを配置し、残りのわずかなスペースを居住と執務スペースに充てている。
用途としては1階が世界発信のためのスタジオ、2階がメインの執務スペース、3階が寝室と浴室、4階が職住兼用のダイニング・キッチン、5階が執務・休憩スペースである。3階のわずかなスペースのみが完全なプライベートスペースとなっている。
1・2階の吹き抜け空間には2層分の大きな開口部を設け、内部からまちの人達の往来が見え、逆にまちからもスタジオ内の様子が見え、積極的にまちと繋がるようにした。そして1階の床を道路面より80㎝掘り下げ、まちを行き交う人と適度な距離感が保てるようにした。
メインの執務スペースである2階は吹抜けを介して奥側に設け、広がりを持たせるのと同時に道からの距離を取り、プライバシーを確保している。
3階はプライベートスペースであるが、3・4階を縦方向の連窓とし、適度に壁を設けてプライバシーを確保しながら外観に統一感を持たせた。5階の休憩スペースは周辺建物の上方に抜けが期待できるため横連窓を設け、遠方の都市的な風景や近くの寺社の緑が眺められるようにした。
また、各階は階段室で区切られることになり、上下階の関係性が希薄になりがちである。そこで垂直方向に床を持ち上げたり、階段状にしたり、傾斜を付けることで、上下階が相互の空間に影響を与えながら積極的に繋がりが意識されるようにした。床はベンチであり、テーブルであり、ベッドでもある。そこに寝転んだり、本を読んだり、ゲームをしたり、床の起伏が人の行為を誘発することを期待した。
この建物は床形状の操作(=天井形状の操作)のみで空間を成立させている。言わばがらんどうの建築であり、小さい建物ながら将来的に社会の変化に追従することを可能にし、サスティナビリティを保持し続ける建築だと言える。
■建築概要
題名:新宿SOHO
所在地:東京都新宿区
主用途:SOHO、住宅+仕事場
設計:K+Sアーキテクツ / 佐藤文+鹿嶌信哉
担当:佐藤文、鹿嶌信哉、桐畑理恵(元所員)
施工:和田建築
構造:長坂設計工舎
設備:小林設備設計
構造:鉄筋コンクリート造(壁式構造)
階数:地上5階
敷地面積:59.77㎡
建築面積:34.32㎡
延床面積:150.63㎡
設計:2020年8月~2021年5月
工事:2021年6月~2022年6月
竣工:2022年6月
写真:上田宏
種別 | 使用箇所 | 商品名(メーカー名) |
---|---|---|
外装・屋根 | 屋根 | |
外装・壁 | 外壁 | 東面:リブ出目地付きコンクリート打放しの上、撥水材塗布 |
内装・床 | 1F玄関ホール 床 | |
内装・床 | 1Fスタジオ 床 | |
内装・床 | 2F書斎 床 | |
内装・床 | 3F寝室、5Fラウンジ 床 | |
内装・床 | 4Fダイニング、キッチン 床 | コンクリート金鏝押え防塵塗装 |
内装・壁 | 壁 | コンクリート打放し |
内装・壁 | 3F寝室 壁 | コンクリート打放し |
内装・壁 | 4Fダイニング、キッチン 壁 | コンクリート打放し |
内装・天井 | 天井 | コンクリート打放し |
内装・天井 | 5Fラウンジ 天井 | PB t=9.5+9.5 AEP |
内装・キッチン | 4Fダイニング、キッチン | 天板:ステンレスバイブレーション |
内装・照明 | 2F書斎 照明 | |
外構・床 | 外構ポーチ | コンクリート洗い出しの上、防塵塗装 |
外構・床 | 外構周囲 | 植栽・砕石敷 |
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