柿木佑介+廣岡周平 / PERSIMMON HILLS architectsが設計した、岩手・住田町の「上有住地区公民館」です。
林業が基幹産業の地域での計画です。建築家は、町の宝の“民俗資料館”を際立たせる在り方を求め、資料館の軸と敷地の軸から導き出した外形を持つ建築を考案しました。また、木造での実現可能性の提示も意図し“住宅の延長線上の部材”を多用しています。施設の場所はこちら(Google Map)。
岩手県気仙郡住田町、公民館の建て替え計画である。
住田町は北上川と岩手県沿岸部に挟まれた山間部にある林業が基幹産業の町であり、町内公共施設を木造で建て替える取り組みを行ってきた。
公民館の隣には町民から愛されてきた民俗資料館がある。この建築は旧小学校であり、気仙大工と呼ばれる首都圏でも寺社仏閣を手掛けた地元の大工がつくった地域の誇りである。建て替え決定時には住民の要望で曳家・保存が決まったが、曳家された位置は旧公民館の裏側のような場所で、資料館が大事に見えない状況となっており、この資料館の存在を際出せるのが配置計画の始まりとなった。
資料館の配置軸と敷地の地形軸から新公民館の外形は導かれ、資料館の前広場でありつつ、地形と新しい公民館で囲われた広場とも感じられるような屋外空間を生んだ。また、その2軸の交点を半屋外の三角土間とし、エントランスであり、広場での活動を支える空間とした。
このプロジェクトは4つ目の小中規模木造公共施設事業である。小中規模木造施設の着工数は住宅に比べ未だ少なく、町内の集成材工場は大断面集成材を主力製品にしづらい背景がある。
この建築は「一品物」の大断面集成材ではなく、住宅の延長線上にある部材を多用することで、無理なく中大規模木造の実現可能性を示すものであり、持続可能な木材の循環システムを担保する上で極めて再現性の高いモデルケースである。
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以下、建築家によるテキストです。
岩手県気仙郡住田町、公民館の建て替え計画である。
住田町は北上川と岩手県沿岸部に挟まれた山間部にある林業が基幹産業の町であり、町内公共施設を木造で建て替える取り組みを行ってきた。
このプロジェクトは4つ目の小中規模木造公共施設事業である。小中規模木造施設の着工数は住宅に比べ未だ少なく、町内の集成材工場は大断面集成材を主力製品にしづらい背景がある。
この建築は「一品物」の大断面集成材ではなく、住宅の延長線上にある部材を多用することで、無理なく中大規模木造の実現可能性を示すものであり、持続可能な木材の循環システムを担保する上で極めて再現性の高いモデルケースである。
公民館の隣には町民から愛されてきた民俗資料館がある。この建築は旧小学校であり、気仙大工と呼ばれる首都圏でも寺社仏閣を手掛けた地元の大工がつくった地域の誇りである。建て替え決定時には住民の要望で曳家・保存が決まったが、曳家された位置は旧公民館の裏側のような場所で、資料館が大事に見えない状況となっており、この資料館の存在を際出せるのが配置計画の始まりとなった。
資料館の配置軸と敷地の地形軸から新公民館の外形は導かれ、資料館の前広場でありつつ、地形と新しい公民館で囲われた広場とも感じられるような屋外空間を生んだ。また、その2軸の交点を半屋外の三角土間とし、エントランスであり、広場での活動を支える空間とした。
構造は三角土間とホールの境を棟とした大きな切妻屋根とし、資料館へ下がっていく軒が民俗資料館の象徴性を高めている。緩勾配の屋根は周囲の山並みとも街並みとも呼応した風景を生み出している。
気仙大工からの高い技術力を継手で見せたり、町内の様々な種類の羽目板や、敷地でとれた河原丸石を舗装や壁に使い、内外に多様な地域の技術や素材をまとうことで、町の資源との連関を強めていく在り方を模索した。建築単体を設計する中に様々な関係性を継ぐことを目指している。
週末、こどもの靴を洗うと、汚れ方や入っている砂の量、粒で保育園での5日間どんな遊びをしていたのかが想像できる。
ボール蹴ったのかな、こけたのかな、砂利が変わってるから公園に行ったんだろうか。この小さな靴の中になんと豊かな物語が垣間見えるのだろう。今、目にしているどんな物もあらゆる経緯の中でそこにある。そのひとつひとつの形に思いがあり、技術があり、また物語がある。そうやって建築をはじめ、街はできていくのだ。上有住地区公民館での思考は、建築の設計であり、街を設計することを考えるプロセスだった。
このプロポーザルに取り組む際、要項から隣接する住田町民俗資料館が町の宝であることが強く伝わってきた。このテキストを素直に読めば、新しい公民館がシンボルになるとは思えず、民俗資料館への象徴性がこの公共空間の軸になるべきだ、と提案した。
設計に入ると、当時所属していたY-GSAの乾スタジオでの実践で関係性を図にする取り組みを参照にフィールドワークを行い、関係図を作っていった。ここでポイントにしたのは現時点での関係だけを見るのではなく、過去の関係もマッピングして、時代ごとに関係図をまとめたことだ。そうすると関係の経緯が見えてきた。
例えばこの町の林業が集成材の生産を選ぶのも木炭を作っていたことと遠くない。産業的に皆伐を選ぶということはこの町にとって自然なことだったと思う。この木炭は周辺地域の製鉄で使われていたこともわかる。この民俗資料館の前でたたら製鉄の体験学習が行われるのもそういった経緯と一体的に見える。
木炭も各家庭で作っており、住居を見て回ると養蚕・畜産・砂金拾いと生きていくためにありとあらゆることを家の周りで営んでいた。だからこそ血縁・地縁が強く、地域の縛りを越えて集まれる小学校は子供にとっては都会のような場所だったんじゃないかと想像できる。
またその当時どんな立派な家よりも大きな校舎は子供にとって誇らしかったと思う。その誇りが町の宝物へと今なお扱われることに繋がっていると感じる。この町にはこの町独自の資源の歴史があり、それらを使い倒すことで、ひとつの建築ではあるのだけれど、町と接続する方法だと思えた。
僕らは町の様々な資源を使い倒すことで、現在の民俗資料館とも呼べる建築にしようと考えた。建築全体が民俗資料館の遠近感を強めていく形態で、集成材があらわになった大屋根の下に、ひとつひとつ個性的に仕上げた資源を各面ごとに立ち現れる。
視線が伸びるよう誘導する杉の壁と鉄見切りや、居場所の落ち着きを生むログ調の杉の壁、周囲の石積みと呼応するような石貼りの基礎や壁。まちの資源との関係を感じるものが内外関係なく、日本庭園のようにシークエンスの中で断片的に表れ、特徴的な居場所を感じさせる。
放課後子供クラブとしても使われるこの公民館は、午後を過ぎると帰りのスクールバスやお迎えを待つ子供たちが広場や内部を駆け巡る。彼らの心の中に住田町ってこんな場所だなという思いが育ってほしい。町を設計するなんて大それたことだけれど、見えない思いが将来のまちをつくっていくんだと、僕は思う。
(廣岡周平)
■建築概要
題名:上有住地区公民館
所在地:岩手県気仙郡住田町上有住山脈地15-1
主用途:公民館・図書館
設計:PERSIMMON HILLS architects 担当/柿木佑介、廣岡周平
構造設計:井上健一構造設計事務所
設備設計:ZO設計室一級建築士事務所
ランドスケープデザイン:stgk
サイン計画:デザインと
照明設計:杉尾篤照明設計事務所
施工:佐賀組・坂井建設特定共同企業体
屋根:及留板金工業
プレカット:けせんプレカット
大工:菊悦工務店
木材仕上:森谷材木店
左官・石張:八興
牡蠣殻入りモルタル左官:よねガーデン
内部木製建具:松田木工
外部木製建具:キマド
塗装:大田中塗装店
電気:佐藤デンキ店
機械:八木又商店
外構:越田土建
構造:木造在来軸組構法
階数:地上1階
敷地面積:3796.16㎡
建築面積:670.75㎡
延床面積:521.67㎡
設計:2019年10月~2020年3月
工事:2020年7月~2021年3月
竣工:2021年3月
写真:中村絵