宇賀神亮 / アトリエルルが設計した、埼玉・久喜市の住宅改修「久喜の家」です。
戸建て住宅が建ち並ぶ地域での計画です。建築家は、瓦屋根で“重たい印象”の既存を、部分的に陸屋根に変更して“風景に馴染みながらも新しさのある”外観に転換しました。また、元々の梁を現しとして“過去の時間が持つ空気感”の継承も意図しました。
埼玉県久喜市に建つ築37年の一戸建て住宅をスケルトンリフォームにより改修した事例である。
玄関部分の増築と耐震改修、断熱改修も合わせて行い性能向上も図っている。
本敷地は駅近くではあるが土地の細分化により小さな戸建て住宅が建ち並ぶ、よくある郊外の分譲地と変わらない風景のなかにあった。周辺にはサイディング外壁に勾配屋根の木造2階建て住宅が同じように並んでいる。久喜の家はそのような郊外型住宅地の風景のなかに取り残されたように佇んでいた。
改修前の外観は1階がL字型になっており、瓦屋根の載る重たい印象であった。そこで前面に突出していた1階の屋根を解体し陸屋根として箱型をつくり、残った2階建て部分は既存のまま寄棟屋根とする。そうすると2階建て部分は周りと同じ郊外型住宅のプロポーションとなり、そこに箱型を増築したような形になった。
この単純化の操作により、住宅地の風景に馴染みながらも新しさのある外観となり、ありきたりの郊外の風景に少しの変化が生まれた。
平面計画ではまず、部屋が多く暗くなっていた1階をL字型のままひとつながりのLDKに改修した。Lの角部分にキッチンを配置したことで、ダイニングとリビング両方にサーブしやすく、料理好きの施主家族にとって最適なプランとなった。水廻りの位置は大きく動かさずに設備の更新に留めてコストコントロールする方針とした。
2階の間取りも大きくは変えなかったが、南東の一番良い場所にライブラリーと呼ばれる、子どもの勉強と遊び場、ご主人のリモートワーク等が行える家族の共有スペースを設けている。ここから陸屋根にしたルーフバルコニーに出られ、天気のいい日には外との一体的な利用も期待できる。
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以下、建築家によるテキストです。
埼玉県久喜市に建つ築37年の一戸建て住宅をスケルトンリフォームにより改修した事例である。
玄関部分の増築と耐震改修、断熱改修も合わせて行い性能向上も図っている。
本敷地は駅近くではあるが土地の細分化により小さな戸建て住宅が建ち並ぶ、よくある郊外の分譲地と変わらない風景のなかにあった。周辺にはサイディング外壁に勾配屋根の木造2階建て住宅が同じように並んでいる。久喜の家はそのような郊外型住宅地の風景のなかに取り残されたように佇んでいた。
改修前の外観は1階がL字型になっており、瓦屋根の載る重たい印象であった。そこで前面に突出していた1階の屋根を解体し陸屋根として箱型をつくり、残った2階建て部分は既存のまま寄棟屋根とする。そうすると2階建て部分は周りと同じ郊外型住宅のプロポーションとなり、そこに箱型を増築したような形になった。
この単純化の操作により、住宅地の風景に馴染みながらも新しさのある外観となり、ありきたりの郊外の風景に少しの変化が生まれた。
平面計画ではまず、部屋が多く暗くなっていた1階をL字型のままひとつながりのLDKに改修した。Lの角部分にキッチンを配置したことで、ダイニングとリビング両方にサーブしやすく、料理好きの施主家族にとって最適なプランとなった。水廻りの位置は大きく動かさずに設備の更新に留めてコストコントロールする方針とした。
2階の間取りも大きくは変えなかったが、南東の一番良い場所にライブラリーと呼ばれる、子どもの勉強と遊び場、ご主人のリモートワーク等が行える家族の共有スペースを設けている。ここから陸屋根にしたルーフバルコニーに出られ、天気のいい日には外との一体的な利用も期待できる。
内装については予算の都合もあり殆どを新建材や既製品としているが、LDKとライブラリーの天井は既存梁を現しとし、周囲をラワン合板張りとすることで、過去の時間が持つ空気感を引き継ぐように改修した。ラワン合板については施主と共に、色味を微調整しながら自分たちでオイル塗装を施した。その他にも一部の家具や収納、外構などは施主とDIYで製作し、庭の植栽や駐輪場の整備など現在も少しずつ施主が手を加えながら住まわれている。
家具についても全てを新しくするのではなく、施主が長年愛用してきたものやネットオークション等で購入した古家具で揃えることで、新しいなかにも懐かしさの残る柔らかい空間となるよう心掛けた。今日まで住み継がれてきた時間を内包し引き継いでいく、リノベーションならではの深みのある住まいになったのではないかと思う。
一般的になりつつあるマンションリノベに比べて、躯体の老朽化による改修費用の不透明さや売却時の評価額が低いために解体されやすく、まだまだ実例が少ない一戸建て住宅のスケルトンリフォームの好例となることを願っている。
■建築概要
題名:久喜の家
所在地:埼玉県久喜市
主用途:個人住宅
設計:アトリエルル一級建築士事務所 担当/宇賀神亮
施工:株式会社ミヤマホーム
構造:木造(在来軸組工法)
階数:地上2階
敷地面積:203.62㎡
建築面積:94.99㎡
延床面積:139.13㎡
設計:2023年2月~2023年6月
工事:2023年7月~2023年12月
新築時竣工年:1986年3月(改修時築37年)
竣工年:2023年12月
写真:河田弘樹