SHARE 橋本尚樹 / NHAによる建築展「before the beginning はじまりのけはい」。プリズミックギャラリーを会場に開催。2025年大阪・関西万博の“いのち動的平衡館”を中心とした展示。同建築は、生物学者の福岡伸一がプロデュースしてNHAとArupが基本設計などを手掛ける
- 日程
- 2024年11月2日(土)–12月14日(土)
橋本尚樹 / NHAによる建築展「before the beginning はじまりのけはい」です。
プリズミックギャラリーを会場に開催されています。2025年大阪・関西万博の“いのち動的平衡館”を中心とした展示内容です。また、同建築は、生物学者の福岡伸一がプロデュースしてNHAとArupが基本設計などを手掛けています。
開催期間は、2024年12月14日まで(期間中休廊日あり)。入場無料です。展覧会やトークイベント等の情報は公式ページに掲載されています。
2025年大阪・関西万博の8つのシグネチャーパビリオンの一つ、生物学者福岡伸一プロデューサー(以下、先生)の館。
やわらかい発想にあふれた先生の著作は、知的な興奮と共に、いつも温かな安堵を与えてくれる。今わたしがここに生きている奇跡を想い、自分の存在を尊く感じることができる。先生は“生命”というテーマに“流れ”と返す。一つ一つの部品が構築的に組み上げられた機械論的発想では生命は説明ができない、つねに変わり続けている流れそのものである、と。
「途中がない」この間、先生と現場を訪れた際に私が何気なく使った「この建築には途中がない」という言葉に反応された。生物も同じくその成り立ちに途中がないのだという。確かに力の流れの平衡で成り立つこの建築はバランスが取れるその瞬間まで一つ一つの要素はバラバラで部分的にも機能しない。ただ、バランスが取れたその瞬間に、たちまち全てが機能する、文字通り途中がない建築なのだ。
こどもの落書きのような自由な曲線をそのまま建築化したい。そして、それを力の流れのバランスで解くことで、極限まで無駄の削ぎ落とされたシンプルで軽量な建築として成立させる。効率に翻弄される最適化の時代の先に、建築や都市の想像力が縮こまらないように、私なりに未来にボールを投げたつもりだ。これは自由を獲得するための挑戦だ。
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以下、建築家によるテキストです。
before the beginning −はじまりのけはい−
およそ20,000年前の先史以前の洞窟を訪ねたことがある。
暗がりの岩肌にランプを灯すと牛や馬など動物の絵が浮かび上がった。よく見ると動物たちの絵は岩肌の陰影をなぞるように描かれていた。絵画というよりも彫刻。揺らぐランプの光を携えながら進むと、動物たちはいのちを宿したように蠢きだした。
洞窟を歩きながら、わたしは内面の深いところを歩いているような感覚だった。きっと遠い先祖たちも同じような感覚を味わったに違いない。というのも洞窟絵画はその後何千年もの間、同じところに何度も何度も塗り重ねられてきたそうだ。見えてしまったものたちをその場に定着させずにはいられなかったのだろう。
わたしの中の“はじまりのけはい”とは こんな感覚かもしれない。ケンチクという体裁などはじまる前のこの暗がりのようなものをつくりたい。
(橋本尚樹)
いのち動的平衡館について
2025年大阪・関西万博 シグネチャーパビリオン 福岡伸一プロデュース
2025年大阪・関西万博の8つのシグネチャーパビリオンの一つ、生物学者福岡伸一プロデューサー(以下、先生)の館。
やわらかい発想にあふれた先生の著作は、知的な興奮と共に、いつも温かな安堵を与えてくれる。今わたしがここに生きている奇跡を想い、自分の存在を尊く感じることができる。先生は“生命”というテーマに“流れ”と返す。一つ一つの部品が構築的に組み上げられた機械論的発想では生命は説明ができない、つねに変わり続けている流れそのものである、と。
「途中がない」この間、先生と現場を訪れた際に私が何気なく使った「この建築には途中がない」という言葉に反応された。生物も同じくその成り立ちに途中がないのだという。確かに力の流れの平衡で成り立つこの建築はバランスが取れるその瞬間まで一つ一つの要素はバラバラで部分的にも機能しない。ただ、バランスが取れたその瞬間に、たちまち全てが機能する、文字通り途中がない建築なのだ。
こどもの落書きのような自由な曲線をそのまま建築化したい。そして、それを力の流れのバランスで解くことで、極限まで無駄の削ぎ落とされたシンプルで軽量な建築として成立させる。効率に翻弄される最適化の時代の先に、建築や都市の想像力が縮こまらないように、私なりに未来にボールを投げたつもりだ。これは自由を獲得するための挑戦だ。
“途中がない”くらいまで突き詰められたバランスが、空間表現にまで昇華され人々の心を震わせるような場となったとき、この挑戦に共感がえられるはずだ。私が先生の著作に触れて自分自身の存在を尊く感じられたように、この建築がだれかの存在を聴すような場になってくれたらと願っている。
今日も現場は進行中だ。来春の開会に向けて無事に竣工が迎えられるように、チーム一丸最後まで気を引き締めて取り組んでいく。
(橋本尚樹)
設計のプロセス
設計の道は平坦ではなかった。
はじめは、世界中から訪れる観客の心を揺さぶるパビリオンを、と意気込んだものの、超軟弱地盤で強風が吹き荒れる敷地、半年で解体という条件、建設費の高騰、環境配慮という社会課題への回答、万博に対する後ろ向きな世論と、複雑な与件の絡んだ難易度の高い設計だった。
2021年9月の土曜の昼下がり、針金をいじりながらふとアイデアが舞い降りてから、途方も無い試行錯誤の日々が始まった。ほとんど丸1年間芳しい結果は出ず、チームの誰もが建築として成立させることすら難しいと思ったに違いないが、口には出さずに私についてきてくれた。実際に基本設計が終わった段階では、風洞実験や施工時解析の結果次第では今の形は実現できないという条件付きの状態。飛べないハードルを設定してしまったのではないかと、自問自答の日々だった。
今まさに現場で立ちあがろうとしている建築はそんなプロセスの先にある。
ここまで漕ぎ着けられたのは、何より素晴らしいチームに恵まれたからだ。はじめからずっと共に走ってくれたNHA木村明稔、Arup富岡良太を筆頭に、太陽工業、日鉄エンジニアリング、そして実施設計・施工の鹿島建設チーム、後ろ向きな言葉など聞いたことのない素晴らしいチームだ。協会の方々にもことあるごと助けられた、建築2課、テーマ事業課のみなさん。展示チームとも信頼感の中で目標を共有できているのが大変心強い、きっと素晴らしい展示が実現されるはずだ。
ここに記したプロセスはその試行錯誤の一部を抜粋したものだ。未来に資する建築をつくるために知恵と技術を結集したチームの軌跡を少しでも感じていただけたら幸いだ。
(橋本尚樹)
■展覧会概要
会場:PRISMIC GALLERY 東京都港区南青山4-1-9秋元南青山ビル1階
会期:2024年11月2日(土)~2024年12月14日(土)
開廊時間:平日 / 土曜日 10:00-18:00(月曜日 / 11月5日 13:00-)
日曜 / 祝日 11月13日 休廊11日、30日(土)10:00-15:00
入場料:無料
会場写真撮影:西川公朗
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いのち動的平衡館
基本設計:NHA+Arup
実施設計:鹿島建設+NHAグループ
施工:鹿島建設