
SHARE 【ap編集長の建築探索】vol.001 SANAA+フォルマファンタズマ「ブルガリ カレイドス 色彩・文化・技巧」

「ap編集長の建築探索」は、22年の歴史ある建築ウェブメディア「アーキテクチャーフォト」の編集長である後藤連平が、訪問した建築を紹介する連載シリーズです。論考のようなかっちりとした形式ではなく、現地で感じた雰囲気や空気感が伝わるような“ライブ感”のある文体で綴ります。読者の皆様も自身が建築を体験するように読んでいただければ幸いです。
SANAA+フォルマファンタズマ「ブルガリ カレイドス 色彩・文化・技巧」
SANAAとフォルマファンタズマが、協働で会場デザインを手掛けた、国立新美術館での「ブルガリ カレイドス 色彩・文化・技巧」を訪問。
最終日直前にギリギリで滑り込み(会期は2025/12/15で終了)。会場構成でありながらも『GA JAPAN』の表紙に選ばれていたことも知っていて、期待して訪問したのだけれど、その期待を軽く超えて素晴らしすぎた、、、!
(ブルガリの宝石の数々は勿論素晴らしいのだけれど、専門家ではないのでここでは詳しく言及はしません)
まず特徴的なのは、形式の強い平面。
「カラカラ浴場のモザイクパターン」と「東京のイチョウの葉」に着想を得たのだと言う。魚のウロコや、扇子を抽象化したようにもみえる形態が1つのモジュールのようになっていて(部分的にサイズは変わるので厳密にはモジュールではないのだけれど)、それが、複数連結したりして、個性的な形状の部屋を多数生み出している。
訪問前は過剰かな?と想像していたのだけれど、実際の空間を訪問してみると、動きや躍動感が空間に付与されていて、高揚感を感じる。
また、形式が全体に渡るような強さを持っていることに対して、それぞれの部屋は、天井の有無、床・壁の色や素材、照明の計画、壁面に埋め込まれている展示スペース色に至るまで、様々で、部屋を移動する毎に、その空間の雰囲気が切り替わる。
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多様な視点で分類されたブルガリの宝飾品のみならず、アーティストの作品や、映像などを、整理して、適切な空間で見せるということに、この多様な仕上げが見事に応えている、、、!
まるで、色や素材をどのように使い分けるかという建築設計の王道的な操作を学ぶための教科書と言っていいような空間とも言って良いのではないか。
アルミニウムパネルが用いられた展示室では、壁面展示スペースからの色や光をアルミニウムパネルが鈍く反射していて、本当に美しい、、、!
天井が張られた空間は、グッと親密になり、小さなスケール感で展示物と対峙できる。逆に、天井の張られていない空間は、既存の気積が生かされて、開放的な空間の中でリラックスして作品を鑑賞できる。この親密さと開放性が交互に訪れるリズムも良い。
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また、改めて振り返ると、現代美術のアート作品ではなく、宝飾品という、小さなものを多数展示するという与件に対して、このイチョウ型平面ユニットの組み合わせで展示室を作るという計画が非常に優れた答えだったのだと思った。
展示空間を適切なサイズに分割できると同時に、有機的な形で空間自体に動きが生まれることで、展示作品が小さくとも空間が間延びしているような感覚が無くなっている。
この、空間の作り方は、一見すると建築家の遊びのように思えてしまいそうなのだけれど、実際に体験すると展示作品の固有性と向き合った上での非常に機能的な提案であるようにも思えて、唸らされる、、、、。
あらゆる部分で発見があり、凄くてもっと色々と書きたいのだけれど、今日はこの辺りで。
しかし、会場構成として、このような空間を作り上げてしまうSANAAとフォルマファンタズマに恐怖すら感じてしまったのでした。。。
(訪問日:2025年12月14日)
後藤連平(ごとう れんぺい)
アーキテクチャーフォト編集長
1979年、静岡県磐田市生まれ。2002年京都工芸繊維大学卒業、2004年同大学大学院修了。組織設計事務所と小規模設計事務所で実務を経験した後に、アーキテクチャーフォト株式会社を設立。22年にわたり建築情報の発信を続けており、現在は、建築と社会の関係を視覚化するWebメディア「アーキテクチャーフォト」の運営をメインに活動。著書に『建築家のためのウェブ発信講義』(学芸出版社)など。




