SHARE 参+市原忍による住宅”3.3″
以下、作品に関するテキストです。
やわらかな輪郭
住むということは、割り切れることばかりではないと思う。
新しく計画されるこの家が、住む人の色に染まっていくとき、
真っ白な紙を用意するより、わら半紙や罫線のある紙を用意したい。
その紙を額に入れるより、たくさんの紙が敷きつめられているなかに1枚そっと置いてみたい。
そのあとに線が引かれると、紙の輪郭がぼやけていくように。
敷地の前の道は、思っていたよりも行き交う人がたくさんいる。
家は住む人のものだけれど、街ゆく人にとっての景色にもなる。
だから、街ゆく人が街の景色に親しみを抱くような家にしたいと思った。
この道に面した家々は、少しずつ似ている。
外観の凸凹、三角屋根、淡い色の外壁、白い窓枠。
景色のなかで突出しないように、街に対しての存在を和らげるために、
それらをちょっとだけ拝借した。
この家もこの街に新しく参加するわけだから、隣近所に倣ってみようというわけだ。
家での生活というと、ごはんを食べたり、ソファでくつろいだり、ベッドに寝転んだりと、
部屋にいることを想像しがちだけれど、案外、部屋を行き来していることが多い。
この家は3階建てだからなおさらだ。
街に向き合う場所に廊下や階段をつくったのは、
部屋から部屋へ行き来するときに、季節の変化や時間の流れを感じて欲しいから。
光が落ちていると、そちらに誘われる。
角を曲がったときに気づく空の色がある。
ちょっとした段差に腰掛けると、風の通り道に気づく。
ひょっこり顔をのぞかせると、あなたがいる部屋を見渡せる。
この家は、廊下を歩きながら、階段を上り下りしながら、
そこ、ここで出会う景色でつくられている。
部屋のまわりに巡らされていている廊下や階段には、たくさんの窓がある。
窓は、街と廊下を繋ぎ、街と部屋を柔らかく隔てるような場所についている。
この家に住んでいる人は、街を行き交う人と同じように、部屋から部屋を行き来する。
住む人と街ゆく人が、窓を通して重なることで、この家の輪郭は少しだけ柔らかくなる。
街との新しい出会いが、ここでの生活をもっと楽しいものにしていく。
■建築概要
所在地:東京都世田谷区
設計:参+市原忍
構造設計:藤尾建築構造設計事務所
竣工年:2010
構造:RC造+木造
敷地面積:66.12㎡
建築面積:42.92㎡
延床面積:121.22㎡
■参について
松尾伴大(音響エンジニア)、甲斐健太郎(ソフトウェアエンジニア)、下山幸三(インテリアデザイナー)によるデザインプロジェクト。参人よれば文殊の知恵。それぞれの専門性を活かしてデザイン活動の場を広げていく。ユーモアのあるストーリーで人・モノ・空間を心地よく結ぶデザインを行う。2009年ミラノサローネにて各国のELLE DECO誌が選ぶ若手24組に選出。