SHARE 吉田豊建築設計事務所による”庚午の家”
photo©坂下智広
吉田豊建築設計事務所が設計した広島の住宅”庚午の家”です。
以下、建築家によるテキストです。
「庚午の家」
緑豊かな公園が隣接し、周囲には比較的低層な建物が建ち並ぶ閑静な住宅地である敷地に初めて訪れた際、既存の木造住宅の隣には、新たに購入した更地がぽっかりと空隙としてあり、前面道路から更地を抜けて公園へと抜ける視界の繋がりに、この場所固有の敷地のあり方を垣間見た気がした。計画当初は、敷地を目一杯に使う2階建案、敷地半分に縦に積む3階建案でそれぞれスタディを始めたが、外部空間の豊かな繋がりから、南側に庭を持つ3階建案を選択した。
玄関から2層吹抜けとなる直階段でつないだ2階リビングを中心に、上下階を螺旋階段が貫く。コンパクトな住宅の中に挿入した2つの階段は、1階の趣味の多いご主人の作業スペースであるアトリエと水廻りを動線的に独立させるための、回遊性から導いたものである。内部空間がはみ出すように延びた敷地いっぱいに突き出したテラスと、アルミサッシによる衝立は、敷地にできた空地を単なる余剰空間に留めることなく、新たな形式の中庭空間へと場を柔らかく包む装置となることを試みている。河川脇の比較的軟弱な地盤での3階建ての計画に際し、建物重量を軽減するため、ここでは、3階床を鉄骨で吊り下げた木造架構としている。2層吹き抜けのコンクリートの躯体に挿入された木造の床は、構成材である根太をそのまま化粧として現し、廊下をすのこ状に形成する。
縦にのびる螺旋階段や細長い吹き抜け、そこに配した公園へ大きく対峙する縦いっぱいの開口、上部のトップライトから透ける廊下を通して落ちる柔らかな光などが、風、音、気配と共に上下階にわたる拡がりと繋がりを生み出している。