SHARE 中名太郎 / +0 atelierによる「止静と家」
以下、建築家によるテキストです。
「止静と家」
皆で同じものを見ているのに感じ方が各々バラバラ。
けれどなぜか安心する。
そんな空間をつくろうと考えました。
依頼主の要望は多岐にわたりましたが、そのリクエストから考え始めることはなく、一旦できあがった空間にそれらを取り込み調整しました。
うまく答えを出せるように苦労しましたが、大変気に入っていただいています。
敷地周辺は田畑が残り、家が点在して、のんびりとしています。
隣接する既存のお堂と蔵がさらにのんびりとした空気をつくり、本当にのどかで気持ちがいい。
でも、そこから導き出したものはありません。
平面や断面に現れる先細りした空間は、ここに訪れた人へ機能や用途がないことを直感的に示し、その存在意味について考えることを迫ります。
空間に無意識に受け入れられるのではなく、一度向き合い、対峙する瞬間を与えたい。
気持ちを静め、空間と対峙するその行為が坐禅のはじまりを連想させ、「止静」(しじょう)という禅語を後になって思い出しました。
さて、空間と対峙した人はどうするのでしょうか。
クライアントからお話を聞くと、先端が暗くなった茶室の床の間を前に、人によっては行き止まりを、また人によっては広がりを感じるという方もおられるとか。
この感じ方の違い(ズレ)こそが、自分を自分たらしめている(?!)ものなのでは?と考えています。
これが大事。
「四角い白い空間」をつくっても、みんな感じ方はそれぞれなのではとも考えましたが、けれど、それで得られたズレはあまりにかけ離れ、単に人を孤立させてしまうだけなのではないでしょうか。
今回の建物としては、それでは意味がない。
ズレを生み出し、かつ、つなぎとめる空間性。
家という機能の前に与えたかったものです。
■建築概要
計画名称:「止静と家」
所在地:香川県高松市
設計:+0 atelier
主要用途:住居
構造規模:鉄筋コンクリート壁式構造2階建て
延床面積:126.68㎡
施工:谷口建設興業