SHARE 島田宇啓建築設計事務所による、東京都杉並区の住宅「テルヤマモミジの家」
撮影:新建築社写真部
島田宇啓建築設計事務所が設計した、東京都杉並区の住宅「テルヤマモミジの家」です。
住宅街におけるご高齢の施主にとっての豊かな住宅を考えた。
敷地は東京都杉並区の典型的な住宅街。施主は90代の高齢の母と、定年退職した娘の女性二人である。良好な住環境確保のための第一種低層住居専用地域であるが、地価は上がり周辺の土地は年々細分化され所狭しと建て込む苦しい状況。隣地にはマンションが壁のように建った。それによりリビングには光が入らなく、庭いじりする様子も見下ろされる状況となってしまった。二人の施主からは、老朽化した建物と家族構成や周辺環境の変化からの建て替えにあたり、終の住処となる高齢者のためのコンパクトな住宅を求められた。
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以下、建築家によるテキストです。
住宅街におけるご高齢の施主にとっての豊かな住宅を考えた。
敷地は東京都杉並区の典型的な住宅街。施主は90代の高齢の母と、定年退職した娘の女性二人である。良好な住環境確保のための第一種低層住居専用地域であるが、地価は上がり周辺の土地は年々細分化され所狭しと建て込む苦しい状況。隣地にはマンションが壁のように建った。それによりリビングには光が入らなく、庭いじりする様子も見下ろされる状況となってしまった。二人の施主からは、老朽化した建物と家族構成や周辺環境の変化からの建て替えにあたり、終の住処となる高齢者のためのコンパクトな住宅を求められた。
そこで私は、年を重ねたお二人がゆっくり穏やかに過ごす様々な「時間」をつくることを目標と定めた。その中でバリアフリーや介護のための仕様は当然だが、装置でバリアフリー=高齢者住宅と謳うのではなく、空間的・体験的にバリアフリーを実現できないか考えた。都市居住の限られた敷地と迫り建つ隣地から、それを超えた「広がり」を持つ静謐で穏やかな環境を目指した。それは行動範囲が限られた高齢の母に対しての空間づくりを考える事とも言える。
まず施主の思い入れのあった「モミジ」に着目し3つの庭を計画した。モミジは紅葉があり落葉する。それは四季や時間、光や風や雨などの環境を見えるようにするものとして象徴的に捉えた。「まえ」「なか」「うしろ」3つの庭の間を縫うようにボリュームを作り、庭との関係や動線、二人の距離感等で多様な部屋をつくっていく。部屋間の建具は全て引戸で考える。それは高齢者の使い勝手のためのものでもあるが、その開閉によって空間のつながりが変わる。視線の抜けや明るさの変化が建て込む住宅街でありながら敷地境界を超えて大きな広がりを生む。それらは視線や風の流れだけでなく動線にも現れる。シンプルな動線は高齢者の動きの一助となる。
シルバーの金属屋根は刻一刻と表情を変える。うっすら緑を含むグレー色で吹き付けた外壁も光の状態で表情を変える。木で設えた玄関扉や戸袋鏡板、縁側、軒裏も年々表情を変える。メンテナンスフリーではないが、それはお堂や茶室のように、日々手をかけながら更に年輪を増していく。変化する表情が時間を刻む。密集住宅地の中で静かに佇むそのような建築を目指した。
■建築概要
意匠設計:島田宇啓建築設計事務所
構造設計:株式会社ハシゴタカ建築設計事務所
設備設計:有限会社ZO設計室
施工者:株式会社宮嶋工務店
建設地:東京都杉並区
設計期間:2014.7-2014.12
施工期間:2015.3-2015.09
建築面積:88.53㎡
延床面積:87.20㎡
最高高さ:4.71m
写真:新建築社写真部