SHARE 元木大輔 / DDAAと工藤桃子/ MMA inc.の会場設計による建築展「森美術館 / 建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」
元木大輔 / DDAAと工藤桃子/ MMA inc.の会場設計による建築展「森美術館 / 建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの」です。
建築について考えることを仕事にしていてラッキーだな、と思うことがある。建築はとても多角的なメデイアなのであらゆるものを考えなくてはいけないからだ。例えばキッチンについて考えるとき、テーブルの位置や素材や料理やカトラリーや家族の会話を想像する。寝室の窓から見える景色と光の入り方やカーテンの柄について考える。1階と2階のつなぎ方をあれこれ模索し、階段の素材や手摺の触り心地について考える。公共的なプログラムであれば社会との繋がりを考え、コストコントロールのため、構造的な合理性と意匠のはざまで悩んだりする。ほんとうに考えることが多くてしんどさもあるのだけれど、あらゆるものについて考えることができる楽しさに溢れている。これは建築には実物を体験することに以外にも多くの楽しみ方がある、と言い換えることもできる。歴史的背景、構法的面白さ、構造的な面白さ、時代背景や社会的意義、新しい技術との親和性、造形や空間的な面白さ。建築の面白いところは、とにかく情報量が多いことだ。そして建築を展示することにおいて一番ネックなのが、その「情報量が多い」という部分だ。古典から現代建築までを9つのセクションに分け展示する森美術館で開催された「建築の日本展」の会場構成を担当させてもらうことになり、最初に考えたのがこの根本的な矛盾をどう整理するか、ということだった。
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以下、建築家によるテキストです。
建築について考えることを仕事にしていてラッキーだな、と思うことがある。建築はとても多角的なメデイアなのであらゆるものを考えなくてはいけないからだ。例えばキッチンについて考えるとき、テーブルの位置や素材や料理やカトラリーや家族の会話を想像する。寝室の窓から見える景色と光の入り方やカーテンの柄について考える。1階と2階のつなぎ方をあれこれ模索し、階段の素材や手摺の触り心地について考える。公共的なプログラムであれば社会との繋がりを考え、コストコントロールのため、構造的な合理性と意匠のはざまで悩んだりする。ほんとうに考えることが多くてしんどさもあるのだけれど、あらゆるものについて考えることができる楽しさに溢れている。これは建築には実物を体験することに以外にも多くの楽しみ方がある、と言い換えることもできる。歴史的背景、構法的面白さ、構造的な面白さ、時代背景や社会的意義、新しい技術との親和性、造形や空間的な面白さ。建築の面白いところは、とにかく情報量が多いことだ。そして建築を展示することにおいて一番ネックなのが、その「情報量が多い」という部分だ。古典から現代建築までを9つのセクションに分け展示する森美術館で開催された「建築の日本展」の会場構成を担当させてもらうことになり、最初に考えたのがこの根本的な矛盾をどう整理するか、ということだった。なにしろ「建築」だけでもおおごとなのにさらに「日本」までついている。こりゃ大変だぞ、、、というのが最初の感想だった。そして目指したのは、建築の楽しさを形づくる情報量の多さはそのままに、来場者に整理した状態で見せよう、ということだ。そのためにいくつかのルールを考えることにした。
1つめのルールは、情報の粗密をつくる、ということだ。レイアウトに粗密を作り、情報量をコントロールするために新聞や週刊誌のように見出しを作る。そのために本文から抜粋したすごく大きなサイズのテキストを展示することにした。壁面を「遠景」「中景」「近景」の三段にわけ、最上段の「遠景」にはセクションの見出しになりそうなテキストをとても大きなサイズの文字で組む。見出しだけ読んでいても新聞や雑誌を斜め読みするような体験をすることができる。
2つめは、テキストと写真を等価に扱う。展示物をフォーマットごとに整理すると、「図面」「写真」「テキスト」「模型」「資料」にわけることができる。それぞれ担っている情報がちがい、伝達方法も違う。模型や図面は意図を読み込む必要があるし、テキストは読むのに時間がかかるが細かい部分まで意図を伝えることができる。写真は大きくすることができ、遠目からでも情報を伝えることができるけど、表面上の情報しか伝えることができない。できれば、好みや興味でパッと判断できる「写真」と、読み込むことで面白さをひきだす「テキスト」を等価に扱いたい。なので自然とテキストを読んでもらうような視線の流れを作れないか、ということを考えた。インデックスにもなっている大きな文字は、そのままテキストへと視線を誘導する。
3つめは、各セクションごとにデザインのコードを微妙に変えて、セクション間を移動すると出来るだけ平坦に見せないようにしつつ、セクションごとのテーマが体感できるような工夫をしている。例えば「セクション1「可能性としての木造」は大きな木製の模型が多かったので、島状に什器を配置して、模型を360度周囲から見回すことができるレイアウトにした。「セクション7・集まって生きる形」では1つの大きなテーブルの上に複数のプロジェクトを配置している。
4つめ、什器はできるだけ仮設的で壁の下地や構成が見えるようなデザインにしている。古典だけでなく現在進行系の現代建築も展示するため、「権威付け」へのささやかな抵抗と、建築の構成そのものが見え隠れすると良いな、という意図、そして展示内で実物で再現された利休の「待庵」の、土壁の一部を塗り残して下地の格子を見せた「下地窓」へのオマージュであったりもする。
(元木大輔/DDAA)
■建築概要
森美術館 / 建築の日本展:その遺伝子のもたらすもの
施主:森美術館
場所:東京都港区
会場設計:元木大輔 / DDAA、工藤桃子/ MMA inc.
グラフィックデザイン:橋詰 宗、飯田将平
延床面積:2,875m2
完成:2018年4月
撮影:来田 猛
画像提供:森美術館