SHARE 茂木哲建築設計事務所による、神奈川・横浜市の集合住宅の一住戸の改修「1 Livingの家」と論考「特化するリノベーションの可能性」
茂木哲建築設計事務所による、神奈川・横浜市の集合住宅の一住戸の改修「1 Livingの家」と論考「特化するリノベーションの可能性」です。
住宅は一生に一度の買い物であるが故に、最大に必要な面積から逆算してプランせざるを得ない場合がほとんどです。しかし、今後は一家の何十年を支えるのではなく、共働きの子育て世代、晩婚による夫婦2人暮らし、高齢化による老後など時代背景に則したある一定期間に対して適切な住まいを選択できる可能性がリノベーションにはあると考えています。本計画のように子育てに特化することで開放的な空間や水廻りに余裕が生まれ、世話がしやすく稀少な幼少期の時間をより豊かに楽しむことのできる利点があるためです。
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以下、建築家によるテキストです。
特化するリノベーションの可能性
築40年の一般的な団地の改修工事です。間取りこそ当時建てられた団地の多くが採用していたプランでしたが南側には屋内床とレベル差の少ない庭があり、屋内と庭を合わせると約18mもの長さとなる特徴がありました。
家族構成は夫婦と産まれたばかりのお子さまの3人で10年後には転居を見据えているため子育てに特化した住まいを望まれていました。そこでお子さまの成長を見守りやすいように死角は極力少なくしながらも、奥行深いプランを活かして家族同士に心地良い距離感も与え、一体空間ながらも個室感もある一器多様な空間を目指して設計をスタートしました。
床面積のほとんどを居室の中央に集めるべく、東西の壁面を利用して家具や水廻りを寄せ、障子によってゆるやかに領域付けることを基本構成としました。こうすることで開け放った1つの大きなリビング空間としても、生活シーンに合わせた個室としても住まうことができ、中部屋ながらも光と風を居室の隅々まで取り入れることを可能にしています。
浴室は壁で区切ることなくまるでリビングのように設えることで空間に広がりを与え、水を張ったソファへと姿を変えた浴槽からは庭を眺めることもできます。長細いプランのため対角となるDKとは自然と距離が生まれ、互いに視線を交わすことなく過ごすことができます。
住宅は一生に一度の買い物であるが故に、最大に必要な面積から逆算してプランせざるを得ない場合がほとんどです。しかし、今後は一家の何十年を支えるのではなく、共働きの子育て世代、晩婚による夫婦2人暮らし、高齢化による老後など時代背景に則したある一定期間に対して適切な住まいを選択できる可能性がリノベーションにはあると考えています。本計画のように子育てに特化することで開放的な空間や水廻りに余裕が生まれ、世話がしやすく稀少な幼少期の時間をより豊かに楽しむことのできる利点があるためです。
築年数が経ち建物価値が底をついた一室を安価に購入し、その世帯にあった住まいへと姿を変え、またその次の世帯へと引き継いでいく、そんなサイクルが生み出せたら余剰した日本の住宅を有効活用できるのではないかと思います。リノベーションは新築に比べ煩雑な手続きが多く、まだまだ一般に普及しているとは言い難いですが、もっと広く認知されていきライフステージに合った住まいを選択できる社会になってほしいと願っています。
■建築概要
作品名:1 Livingの家
所在地:神奈川県横浜市
竣工:2018.12
用途:住宅
家族構成:夫婦+子供1人
主要構造:鉄筋コンクリート造
規模:地上7階建ての1階部分
建物竣工:1979年
専有面積:66.31㎡
庭面積:43.69㎡ 設計:茂木哲建築設計事務所 茂木哲
コーディネート・実施設計・施工:リノベる。
写真:山内紀人